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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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魔獣との遭遇②

一射

二射

三射

四射…


クゥーリィーは、彼女が放った火線をクマンコに叩き落とされた事に激しく動揺したが、直ぐに気持ちを立て直し、火線を四連射した。

無詠唱で火線の四連射をやってのけるクゥーリィーはまさしくこの世界に於いてトップクラスの魔導師であり、実際、クゥーリィーの放った火線一つ一つは、並の相手ならば容易にその身体を四散させるだけの威力を有していた。

が、クゥーリィーと対峙しているクマンコはクゥーリィーの火線四連をまるで蠅を叩き落すが如く、面倒くさそうに叩き落としていた。


「…ッ」


火線を叩き落したクマンコは、そのままクゥーリィーに向かって突進し、右腕を振り上げてクゥーリィーの頭目掛け振り落とそうとした。

しかし、クゥーリィーの頭目掛けて振り落とされたクマンコの右腕は途中でぐいんと動きを止め、人間で言う右手首の部分からぶすぶすと煙が出ていた。

クマンコは自らの身に起きた事象に戸惑いの表情を浮かべていた。

クマンコの右手首にきらきらと光る線が走っている。

火糸であった。

クマンコの攻撃を被弾する寸前にクゥーリィーは火糸を放ってクマンコの右手の動きを無理矢理止めたのであった。


「グオオオオオオオオオッ!」


状況を理解したクマンコの両目は怒りで目を真っ赤に染め、力任せに火糸を引きちぎった。


「クゥーリィー!逃げろ!!」


ラフェールに治癒を受けていたムタロウが叫んだ。

ムタロウの叫び声を聞いたクゥーリィーは慌ててクマンコから距離を取ろうと後ずさりする。

しかし、恐怖で足がもつれ、まともに後ろ下がる事が出来ずへたり込んだまま足をバタバタさせているだけであった。。


「あ、足が…」


クゥーリィーの両脚は恐怖で文字通り地に足がついていなかった。

必殺の火線四連撃を簡単に叩き落された事によって自らの拠り所が瓦解し、迫りくる恐怖に抗えなくなっていた。


「ラフェール!!魔導を!」


クゥーリィーの様子を見てムタロウは目を血走らせて叫んでいた。


「駄目じゃ…!さっきから打ち込んでいるが、あのクマンコ…魔導耐性が異常に強くて、わしの魔導を一切受け付けない!」


火糸の拘束が解けたクマンコは、これまでの鬱憤をクゥーリィーにぶちまけるべく、ずしんずしんと大袈裟に足音を立てながらクゥーリィーに近付いていく。


「ああああああああ…ッ」


死を目前にしてクゥーリィーの思考は漂白され、意味を成さない声をあげていた。


ごうっとクマンコに右腕が振り落とされる音をクゥーリィーは聞いていた。


肉塊と金属がぶつかり、はじける音をクゥーリィーは聞いていた。


顔をあげるとクゥーリィーの視界には男が立っていた。

ムタロウであった。

ムタロウは剣を両手持ちにしてクマンコの一撃を辛うじて受け止めていた。

剣を支えているムタロウの両腕がプルプルと震えている。


「早く逃げろ馬鹿野郎!」


ムタロウは、そう怒鳴ると剣先を斜め下に傾け、剣を押し潰さんと力を加えているクマンコの右腕を滑らせた。

力の行き場をずらされたクマンコはバランスを崩し左側によろけた。


「シッ…!!」


クマンコの体勢が崩れた一瞬の隙をムタロウは見逃さず、剣を後ろに引いてクマンコの右腕との接点を無くすや否や、剣先をクマンコの右目を正確に突いた。

そして、右手を柄頭に添え、そのまま剣を前方に押し出す。


ぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅ・・・


クマンコの右目に突き立てられたムタロウの剣は、排便に伴う音の様な不快な音を立てながらクマンコの頭の中にめり込んでいった。

クマンコは目を突かれ、そのまま剣を突き立てられた動きが一瞬であった為、痛みを知覚し抵抗する動きに移行する前に身体の運動機能を司る脳を破壊されために、有効な抵抗行動に移る事が出来ず、ただただ壊れた玩具の様に両腕を振り回していた。


「じゃあな。」


ムタロウは表情を変えぬまま、クマンコに別れの言葉を掛け、握っていた剣の柄を逆時計回りにぐりっと回した。

クマンコの脳は完全に破壊され、クマンコは絶命した。


「とんでもない奴じゃ…」


ラフェールはぼそっと呟いた。

ラフェールが見た光景は、クマンコに撲殺される寸前であったクゥーリィー。

そして、クマンコの一撃を止めた後に一瞬で仕留めたムタロウの姿だった。


「わしは見てない…気付いたら、ムタロウがクマンコの攻撃を止めていた…。やつは、何をしたのじゃ…?」


ラフェールの驚きと疑念など露知らず、ムタロウはクゥーリィーに話しかけていた。


「大丈夫か?怪我は?」


「あ、ありません。ありがとう…」


「こわかったな。」


「はい…怖かったです。」


「行けるか?」


「はい…大丈夫…もう少しだけ時間をください。未だ心の準備が整っていません。」


「分かった。待とう。」


ムタロウはそう言うと、クゥーリィーの右斜め前に腰を下ろした。


「…ショックでした。」


「ああ。」


「あんなの…いるんですね。」


「稀少ではあるがな。高レベルの魔獣などでは異常に魔導耐性の強い奴が居るには居る。」


「私…この先やっていけるのでしょうか。」


「相性の問題だ。魔導耐性の強い敵に対応する為に俺の様な剣士が居る。」


「そうですね…ありがとうございます。もう大丈夫です。行けます。」


「よし。」


ムタロウはそう言うとよっこらせと掛け声をあげて立ち上がり、ラフェールに声を掛けながら歩いて行った。

クゥーリィーは、ムタロウの掛け声の間抜けぶりに、くすと笑い、立ち上がって二人の後を追っていた。


◇◇◇


ムタロウ達がクマンコと死闘を繰り広げていた時、この様子を見ていた者達がいた。


「ありゃああ~ビュルルちゃんが殺されてしまったよお。」


ひとりは甲高い声で芝居掛かった物言いで、驚きの声をあげた。


「あそこまで簡単にやられてしまうと、ちょっとショックですなぁ。」


もう一人は、やはり芝居掛かった物言いで、やはり驚いている。


「しょうがない。主の言いつけ通り出迎えにイクか。」


「そうですな、イキましょぅ。」


甲高い声を出す竜人は、山を登っていく。


「…? インノ! 出迎えにイクのに何で彼らの下に向かわず、山を登るのですかぁ?」


インノという甲高い声を出す方の竜人は、振り向いて答えた。


「インケ、我々は赤竜さまの直属で、赤竜様の命で、あの性病持ちの転移者を出迎える様に言われた身だぞ。何故我々があいつらの処迄下りなければならんのだ?我々は出迎える側だ!参道の終点でぴしっと立って待っていれば、威厳もあるというものだ!」


「そんなものですかねぇ。偉いのは赤竜さまであって、我々はただのお使いな気がしますが…ま、いいでしょう。参道の上で彼らが来るのを待ちましょうか。」


インケはそう言うと、山を上り始めた。


「(参道に出ないで、彼らに気付かれないようにコソコソと山の中を歩いている時点で威厳も何もあった話じゃないんですがねぇ)」


書いたデータの保存を忘れ、がっくしきました。

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