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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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参道へ

久しぶりの更新です。


クゥーリィーの放った火線によってムタロウ達の眼前に広がっていた街並みは焦土に変貌していた。

数刻前まで竜人であった真っ黒に炭化した死体が散乱している様は、高レベル術者が放つ火線の凄まじさを物語っていた。

竜人は無論の事、ムタロウ達の前に存在していた建築物も全て焼き払われ、砦の出口から山へと続く、参道と思しき階段が見えていた。


「あれは参道じゃの。赤竜の社へと続く参道じゃの。」


ラフェールがそういう言うと、ムタロウははっと正気に戻り、クゥーリィーのもとに歩み寄り、クゥーリィーの肩にぽんと手を置いた。


「ありがとう。クゥーリィー。道は開けた。お前の火線が無ければ俺たちは赤竜に会うどころか、ここで竜人達に嬲られ旅も終わっていた。」


本心であった。

ムタロウ達の前に立ちはだかる竜人達は少なく見積もっても百人はいたと思われた。

その百人の竜人は、オーシマルでヌル族達に嬲り殺された竜人と異なり、対立するヌル族に備えて日々訓練を重ねた職業軍人である。

ムタロウの技量と能力を以てしても物量にものを言わせた乱戦に持ち込まれたら無傷でこの場を切り抜ける事は困難だろうとムタロウは考えていた。


「いえ、でも…関係ない人たちもかなり犠牲になったみたいで…」


クゥーリィーは周辺に多数散乱している消し炭となった竜人の死体を見て呟いた。

イーブクロを発って二年。

この間、魔獣のみならず対人戦もこなしてきた。

戦闘を通じた殺傷への抵抗感も、自らが生き抜く為には仕方ない事と割り切れる様にもなった。

まして、ここに転がっている死体は生前、自分達に危害を加えようとしてきた者だ。

ムタロウの感謝の言葉も本心からのモノだという事も理解出来た。

しかし…それでも周囲に転がっている多数の死体は自分が原因であると思うと、クゥーリィーの胸の中は何とも言えない息苦しさに満ちてしまうのであった。


「残りの竜人達が態勢を整える前に参道に向かうぞ!」


ムタロウはラフェールとクゥーリィーに声を掛けると同時に、前方二百メートル先にうっすらと見える参道に向けて走り始めていた。


「ほほほほ!いよいよじゃのう!」


ラフェールは声を弾ませながらムタロウの後に続いた。

そんな二人の様子を見て、クゥーリィーも慌てて二人の後を追っていた。


参道入口までは竜人達の抵抗もなくすんなり辿り着くことが出来た。

守備隊の竜人兵は幾人もいたのだが、クゥーリィーの姿を見ると、皆一様に恐怖で顔を歪め、戦意を喪失していた。

そんな竜人達の様子を見て、クゥーリィーは益々暗い気持ちに陥った。


「(人を禍々しい者の様に見られるのは、思っていた以上にきついな。)」


イーブクロで豚種に輪姦されたのちに帰宅してからイマラ家内でクゥーリィーに向ける視線が汚物に対するそれと同じだった時も精神的に苦しかったが、今回の様に自分の姿を見てあからさまに恐れられるのは、思った以上に心にくるものがあった。


「お前さんは、大魔導師への階段を上り始めたということじゃよ。」


いつの間にか、ラフェールがクゥーリィーの右横にいた。


「え…?なにがですか??」


「凡人というのはの、強力な力を持つ相手に無意識に恐怖心を持ってしまうのじゃ。

お前さんが、過去にどのような境遇にあり、そしてお前さんが、どれだけ優しく思慮深い性格だとしても、お前さんの内面を知らないものは、強大な力を有す、恐ろしい魔導師としか見ない。」


「…何で分かるんですか?わたしの心境を?」


「さっき、竜人がお前さんの顔を見た瞬間に、恐怖で戦意を喪失していたからの。

自分が恐れられる存在であると知れば、そりゃあショックの一つも受けるじゃろうて。」


「……。」


「しかし、ワシやムタロウはお前さんが優秀な魔導師であると共に、とても思慮深く、優しくて、怒ると怖い奴だという事を知っておるよ。今はそれでいいのではないかの?」


ラフェールは少し照れ臭そうに眼を伏せ、クゥーリィーの顔を見ない様にしていた。

自分でもらしくない事を言った事に対する照れがあったのだろう。


「ラフェール…ありがとう。」


クゥーリィーが思わず足を止めてラフェールに感謝の言葉を伝えたその時、クゥーリィーの視界には、二人の竜人が槍を構えてラフェール目掛け突進しているさまが映っていた。


「ラフェール!危ない!!」


ラフェールが背後を振り向いた時、竜人達の槍はラフェールの右肩と左脇腹を貫いていた。


「ラフェールッ!!!」


クゥーリィーは絶叫しながらラフェールの下に駆けていた。

ラフェールを攻撃した竜人達は、ムタロウに首を切り落とされ、立ったまま噴水の様に血を噴き出していた。

ラフェールとクゥーリィーは竜人の血に塗れ全身を赤黒くしていた。


「ラフェール!大丈夫?? いま…いま、ポーションを飲ませるね!大丈夫!?」


クゥーリィーはぼろぼろ涙をこぼしながら鞄の中身を漁っていた。

気が動転して、無駄に鞄をかき混ぜているだけでポーションを見つけず、焦りでパニックを起こしていた。


そのとき、びしゃあっと、何者かがラフェールに液体を掛けてきた。

何者かが掛けた液体で、竜人の血で赤黒く染まっていたラフェールの顔は血が液体に流される事でまだら模様となっていた。

液体を掛けたのはムタロウだった。


「何をするのですか!ムタロウ!!!」


ラフェールはムタロウの行いに対し激高した。


「落ち着け、クゥーリィー。今ラフェールにぶっかけたのはポーションだ。」


「は?ポーションあるならば、飲ませなきゃ駄目じゃないですか!まだポーション持っているならば早く出してください!」


「いや…それは必要ない。」


「は? それはいったいどういう事ですか?」


「そのままの意味だ。こいつにポーションを飲ます必要はないんだ…しかし、こいつをこのままという訳にもいかない。」


 ムタロウの言葉が終わるや否や、ラフェールの身体が強張り、びくんびくんと痙攣を始めていた。


「クゥーリィー…悪いが時間が無い。これから俺はこいつを治す施術をする。…しかし、この術は人に見られると途端に術の効力を無くす。」


「その術を使えばラフェールは死なないのですね?」


「ああ、だから…少しの間、背中を向いて目をつぶっていて貰えないか? 少し急ぐ。」


ラフェールの様子を見て、ムタロウが焦りを見せていた。


「…分かりました。ラフェールをお願いします。」


何故、ムタロウに背を向けてかつ、目を瞑る必要があるのかクゥーリィーは疑問に思ったが、そうする事によってラフェールが死なずに済むのならば…と、クゥーリィーはムタロウの言われるがままに背を向け、目を瞑った。


「ありがとう。クゥーリィー…では、施術を始める。しつこい様だが、くれぐれもこっちを見るな。分かったな。」


「分かりました。決して振り向きません。目を開けません。」


いつになくしつこい物言いにクゥーリィーは俄然興味が湧いたが、ラフェールの命が掛かっていると自分に言い聞かせ、ぎゅっと瞼に力を入れるのであった。


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