豚狩り
アクセス解析ってなんだろと思って見たら、読んでくれている人がいてびっくりしました。
「おい…?」
「なんじゃ?」
「おまえ、全然働いてないな?」
穀物庫に入ってから30分程経った。
この間、ムタロウは豚種を6人斬り落としていた。
最初に斬った豚と同じように膝と鼻を斬り落とし、とどめは刺さなかった。
(楽に逝かせてたまるか。)
豚と交戦しながらクゥーリィーというコンジローの娘を探しているが未だ見つかっていない。
既に豚共に凌辱された挙句、嬲り殺されているかもしれないと想像した時、ラフェーラは、ムタロウの後を付いてくるだけであった事に気付いたのであった。
「わしは慰安係だからのぅ。ひひ。」
何が慰安だ…とムタロウは思う。
この婆ぁの言う事は何が本当なのか分からない。
何を考えているのか全く意図が見えない。
いつか飛び出た歯を全部抜いてでも口を割らせてやると考えながら、穀物を保管する大部屋に入った。
がしゃん
ムタロウが開けた扉の正面向かいの鉄製の扉が開く音がした。
改めて視線を扉に移すと、そこにはひと際大きな豚種が右手に刃長90センチ程の大剣を持って立っていた。
「(どうやら、この豚一味の大将の様だな)」
ムタロウの前に立っている豚種は身長2メートル50センチは優に超えていた。
下っ端の豚種には無い牙が生えていた。
大剣を持つ右腕には、不思議な文様の刺青が入っている。
文字か?絵か?ムタロウには分からない。(興味もないが)
「同朋をここまで殺しておいて無事に帰れるとは思うなダニ。」
「ほぅ!おまえらにも同朋なんて言葉を知ってるのか。差別しか知らないかと思っていたよ。」
言うや否や、ムタロウは床を蹴った。
豚との距離を一気に詰め、豚の膝めがけ剣を薙いだ…
ぎぃん!
金属と金属がぶつかり弾ける音が部屋中に響く。
豚はムタロウの攻撃を予測していた。
大剣でムタロウの初撃を受けていた。
そして、受けた剣でそのまま力任せにかちあげた。
「…ッ!」
剣を握っているムタロウの左手が吹き飛び、正面ががら空きとなった。
そして、がら空きとなったムタロウの腹めがけ、左脚で蹴りを打ち込んだ。
ムタロウの身体は「く」の字となり、壁まで吹き飛びそのまま壁に激突した。
「あがぁあぁぁッ!」
背中を強打すると同時に激しい痛みがムタロウを襲う。
痛みは呼吸を阻害し、ムタロウは悲鳴と胃液をぶちまけ悶絶していた。
豚はそんなムタロウの様子を見て嗤っていた。
豚種はか弱い人間族が苦しむ事が至上の悦びであった。
ムタロウは呼吸を整え、態勢を整えようとしていたが、蹴りと壁への衝突のダメージは思いのほか大きく膝をつくのが精一杯であった。
◇◇◇
迂闊だった。
完全にこっちの攻撃パターンを読まれていた。
6匹ほどここに来るまでに豚を斬ったが、その様子を見ていたのだろう。
6匹の殺し方が同じだったと気付き対応策を練ったのだろう。
膝を薙いで動けなくする事に拘ったのが不味かった。
豚が苦しんで泣き叫びながら死んでいく事に拘ったのが不味かった。
まずい。
早く体勢を整えないと、次の攻撃に対処出来ない。
あぁ、豚が来やがった。
ああ、・・・これは…間に合わないな。
俺の脳内の時間が止まっている。
いや、先に進んでいるというべきか。
俯瞰した景色が見える。
豚と対峙している俺がいる。
大剣を持った豚は上段に振りかぶり、刀身の背で俺を叩き潰そうとしている。
俺はよけきれない。
ぐぶちゃっ・・・
俺の目が飛び出て、鼻と口から血が噴き出他かと思ったらそのまま頭であった部分は地にずり落ちていき、足と頭がくっついている。
血と脳漿が飛び散り、170センチはあった、俺は30センチ程度の塊になっている。
ああ、畜生。
5秒後の俺の未来じゃないか。
これを何とかしないと俺は肉塊になるのか。
どうする?
見えてしまったからには、5秒後の未来を変えるための行動を起こさないといけない。
ちくしょう。
豚の癖に勝ち誇ったツラしやがって。
手前ェはもう勝った気でいる様だが、勝負事は最後まで分からない事を分からせてやる。
おれの間合いに入った時が最後の勝負だ。
おれが死ぬか、おまえが死ぬか。
さぁッ!!
◇◇◇
豚は瀕死の獲物をどう叩き潰すか考えていた。
敵は先刻の蹴りで動けなくなっている。
あとはこの手に持った大剣をどう動かすかというだけの話だ。
横から斬りつけ上下真っ二つにするか、上段から大剣を振り下ろし樋を以てぺしゃんこにするか?
敵を一方的に蹂躙するのはこの豚にとって無上の喜びであった。
人間の女を犯すよりも遥かに快感であった。
目の前の人間族の顔と足が潰れて一つになる様子が見たいと思った。
豚は、目の前の人間族を上段から叩き潰す事にした。
剣の握りを両手でしっかり掴み、上段に構えたのち、渾身の力でムタロウの頭に打ち下ろした。
ムタロウは豚の振り下ろす大剣を凝視していた。
5秒前に見た景色の通り、大剣の背でムタロウの頭を狙っていた。
ムタロウは、大剣の軌道をギリギリまでひきつけ、接触するコンマ数秒前に全身を右に捻りながら半歩下がりつつ豚の攻撃を回避した。
がちんっ!!
硬い物質に金属が当たった不快な音が広がった。
豚が人を叩きつぶした時とは異なる響く不快な音と衝撃に違和感を感じた刹那、右目に熱湯を掛けられた様な熱い激痛が走った。
同時に右目が映す景色が暗闇となった。
「?!」
豚は残った左目で思考した。
「!!」
ムタロウの頭に打ち込んだ筈の大剣は石の床を抉っていた。
「今度はてめえが油断したな、バカヤロウ。」
ムタロウは豚の必殺の一撃を半身で回避しながら左手に持った剣で豚の右目を貫いていた。
「ブギィィィッ!!」
豚の右目は潰れた。
「最後に何か言いたい事はあるか?」
ムタロウは息も絶え絶えに豚に訊いた。
「さ、サベツ…あぎゃあぁああああ!!!」
豚が何かを言いかけた途端、ムタロウは左手の剣をそのままずぶずぶと押し始めていた。
「聞いたところで言う事はどうせ同じだしな。豚に問うた意味が無かった。」
そう言いながら、ムタロウは剣を小刻みに揺らしつつ押し続けていた。
剣の先端が豚の後頭部を貫通したのを確認するとムタロウは豚を蹴り上げ剣を抜いた。
「能力のお陰で助かったと言えるが…」
ムタロウは額から噴き出ている脂汗を拭ったのち、再度豚の左目から頭を刺し貫いた。
念には念を…というよりは豚への嫌悪感をぶつけているようであった。