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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
59/88

小悪党③

気付けば59回も書いているんですね。

驚いた。

「それは駄目だろう。」


リョウマの家で身体の汚れを落とし、怪我の手当てを受けたのち、部屋に置いてあるソファーに座りながら、事の顛末を話した直後にリョウマが発した言葉であった。

お前、チンピラから一方的に暴力を受けた被害者は俺だぞ。

何で俺が駄目なんだ。


「一方的に殴る蹴るの暴行を受けていたのは俺だぞ。なんで駄目なんだ。」


流石に聞き流す事が出来なかったので、俺はリョウマに喰って掛かった。


「先ずだな、お前は酒を飲み過ぎて路上で吐いていたわけだよな。そのゲロが通りかかった女に掛かった事でその女が怒るのは当然だろう?」


「お前、その子供を諭すような言い方して俺を馬鹿にしているのか?そんな事は分かってる。」


「その時、お前は直ぐ謝罪したのか?」


「謝ろうとしたら、連れの男に殴られたんだ。謝る暇も無かった。知性の欠片も無い奴らはこれだから嫌いなんだ。」


「その見下す態度が露骨に出ていたから、その女と連れの男が必要以上に怒ったのだと思うぞ。俺とお前は今日が初めてだが、お前の言動や振る舞いには他人を見下している意識がはっきりと分かるぞ。なんでお前はそんなに偉そうなんだ? お前はどういう立場の人間なんだ?」


何だ、こいつも俺の事を知らないのか。

転移者でこの世界に無知である事を考慮しても、もう少し世の中を分かった方が良いだろう。

仕方ない。特別に世の中を教えてやろう。


「俺は、矯正委員会の幹部であるデニー・ゴールドボゥルだ。矯正委員会の上位幹部だ。」


おいおい。きょとんとしているぞ。

何て間抜けな面をしているんだ。


「俺は転移者なので、矯正委員会が何たるものかを知らないのだが、どういう組織なんだ?」


本当に何も知らないのか。

無知な奴と会話をするのは苦痛以外何物でもないが、助けて貰った恩義もある。


「矯正委員会は、ナメコンド国王であるナメルス二十世が今から三年前に公布した種族平等法令と同時に設立された機関だ。これまでナメコンド国で蔓延っていた種族間の差別を無くす為の実行組織でだな、俺はその上位幹部という訳だ。」


どうだ?少しは驚いたか?

無知な転移者でも流石に俺がこの国の上位者である事は理解しただろう。


「お前はこの国では有力者なのだな。その矯正員会の幹部になるという事は、それだけ何か実績を積んだと想像するが、お前はこれまでどんなことをやってきたんだ?」


めんどくさい奴だ。

いちいち説明を求めてくる。


「俺はこの王都で知られた歌い手だった。」


「ほう。歌手か。有名な歌手だと国の有力者になれるのか?」


「そういう訳ではない。俺のこれまでの活動が認められたからこそ委員会の幹部になれたのだ。」


「例えばどんな活動をしてきたんだ?」


「……。」


えっと…俺は何をしてきたか。

酒を飲んでいたな。

それから、酒ばかり飲んで何もしなかったからウーマに怒られて…。


「お前が言うには矯正委員会とは種族間に横たわる差別を無くすための実行機関との事だが、上級幹部たるお前の言動を聞いていると、お前こそが差別意識の塊に聞こえるが。」


「そ、そんなことはない!」


雲行きが怪しくなってきた。

俺はこいつに詰められていないか?

この話題をしている事に俺は居心地の悪さを感じ始めていた。


「それならば、お前は矯正委員会の幹部になってどんなことをやってきたんだ?」


「王都で有名な俺が矯正員会の幹部になり、差別撤廃を訴えたおかげで、人々も差別に対する問題意識を持ってくれている。」


「…なるほど。つまり、広告塔だな。」


俺は委員会が俺をどのように見ていたか分かっていた。

分かってはいたが認めたくはなかった。

リョウマの言葉は決して認めたくない事実というナイフを喉元に突いてきた。

胸から何かが降りていき、足元がうすら寒くなっていく。


「あのな…お前が見下していたあの女とチンピラな…多分、お前の素性を分かっていたと思うぞ。」


なんだ…と。

こいつは、何を言ってるんだ?


「何でそんなことがお前に分かるんだ!どういうつもりなんだ!お前は!!」


こいつは明らかに俺を挑発している。

事の一部始終を見てもいないこいつが何故言えるのだ。


「…まあ、仕方ない。こっちに来てくれ。」


リョウマはそう言うと座っていた椅子から立ち上がり、隣の部屋に入っていった。

俺も立ち上がり、リョウマの後をついて行った。


「なッ…」


部屋に入るとそこには両手両足を縛られて横たわっている二人の男女がいた。

数時間前に俺をボコボコにしたチンピラと女だった。

チンピラと女の顔面は原型を留めていない程に腫れ上がっていた。

よく見ると二人とも全身に乾いた泥が多数付着しており、殴り倒されてから執拗に暴行を受けていた事が見て取れた。


「おおお・・・お前がやったのか?」


俺は、チンピラはさておき、女に対しても躊躇なく暴力を振るうリョウマの凶暴性に今更ながら恐怖した。


「ああ、お前に暴行していた一部始終を見ていたが、まあ、軽く数発殴る位だったら何も言わなかったんだがな…あまりにも執拗で酷かったから、注意したんだ。そうしたら俺に殴りかかって来たから、ちょっとやってしまった。」


返り討ちにしたということか。

リョウマは二人を戦闘不能にしてから家まで運んだのち、俺の処に来たのか。

こいつは、何がしたいんだ?


「おい。」


リョウマは二人に声を掛け、返事が無いと見るやチンピラの顔面を爪先で蹴り上げた。

次に女の鳩尾を同じく爪先で蹴り上げていた。

二人は、意味の成さないおかしな声を発し、胃液を吐きながら、しくしくと泣いていた。


「お前等…この男がどういう立場の人間か知っていたんだろ?」


リョウマが女の髪の毛を鷲掴みにしてそのまま上に引っ張り上げた。

髪の毛を引っ張られて、女の目が吊り目になっている。

痛そうだ。女に対しても全く容赦がない。


「どうなんだよ?」


「は…ふぁい…。知ってました…。」


知っていた…だと?

この俺が矯正委員会の上級幹部のデニー・ゴールデンボゥルと知っていただと??


「この男は矯正委員会の結構なお偉いさんらしいじゃないか?暴行したあと当局に拘束され、処罰を受けると考えなかったのか? あ?」


リョウマは女の髪の毛を更に引き上げた。

女の目は更に細くなり、糸目になっている。


「し、知ってましたが…デニーは幹部と言っても…ただのお飾りで何の力も無いと有名だったので…それに、ウーマ様に怒られて委員会幹部もクビになるという噂が…あったので、何しても大丈夫だと…思っていました‥‥ゆ、ゆるしてください…。」


自分の足元が崩れていく感覚に襲われた。

俺は、矯正員会のみならず世間からも軽んじられていたのか。


なんてことだ。


町の者は皆、俺の事を尊敬などしておらず、陰で馬鹿にしていたのか。

酒場で俺の訴えを聞いてうんうん追従していた連中も陰では俺の事を馬鹿にしていたのか。

そういえば、援助すると言ってた連中から資金援助を含めた何かしらの協力も無く、いつも俺が酒代を奢っていたな。


なんてことだ。

そういうことか。


目の前に広がる景色は、どこか別の世界を見ている様な感覚であった。

これが俺の現実か。


…なんてことだ。


「どうする?こいつら?」


リョウマが声を掛けてきた。

どうするって、決まっているじゃないか。


「こいつらを殺したい…。しかし、俺は自分の手を汚して人を殺すのは嫌だ。」


「そうか…。じゃあ、お前が望むそれを誰かがやった後はどうするんだ?」


「俺は…人から馬鹿にされるのがとても嫌だ。しかし…今の俺は力がない、人から畏怖されるだけの力がない。だから馬鹿にされる。」


「それで? 要領を得んな。」


「力が欲しい。俺が望む事を汲んで実行してくれる力が…。」


「それは、お前の私兵が欲しいという事か?」


「…そうだ。」


「その私兵を得てお前はどうするのだ?」


「決まっているだろう。俺を馬鹿にしたやつを排除して、俺の事を尊敬する奴で周りを固め、面白可笑しく生きていくんだ。」


「…お前は面白い事を言うな。そこまで自分の都合しか言わない奴も滅多にいない。」


「悪いか?」


「いや、悪くない。嘘臭い大義名分を口にする奴より分かり易くていい。」


そう言うと、リョウマはちらりとぐったりしているチンピラと女に目をやった。


「お前はこいつらを殺したいが、自分の手を汚したくないと言っていたな。」


「ああ、俺は自分の手で汚い事をするのは嫌だ。でも、こいつらは殺したい。」


「じゃあ、その役は俺がやろう。」


リョウマの言葉を聞いて、チンピラと女がびくっと身体を震わせた。

俺は、二人の怯えた顔を見て、これまでにない高揚感に襲われていた。

不意に股間に突っ張りを感じ、視線を下半身に落とした。

俺の男根は激しく勃起しており、ズボンの前面に山を作っていた。

山の頂上にはじんわりと染みが出来ている。


「やってくれるか。」


「ああ。その代わり、さっきお前が言った言葉を実現させろ。」


「俺の事を尊敬する者で固めて面白可笑しく過ごすというアレか。」


「ああ。お前の様な器の小さい小悪党の望みの果てに何があるのか興味を持った。」


微妙に俺の悪口を言っていたのが引っ掛かったが、その点については無視をする事にした。


「分かった。その代わり、お前は俺の理想の為に協力する事が条件だ…そして、最初の依頼だ。俺を馬鹿にしたこの二人を…やってくれるな?」


「やろう。」


「これでお前と俺は一蓮托生だな‥・アッー!」


不意に頭を金槌で殴られた様な強烈な快感が全身をはしった。

下腹部に生暖かく、べとっとした餡の様なものがへばりついていた。

射精していたのであった。

おびただしい量の白濁した溶岩が吐き出されると同時にズボンに形作っていた山の高度が低くなっていき、そして染みが拡大していく。


「ははは。人殺しを命令してイクなんて、大した変態だ!」


リョウマはケラケラと笑っていた。

笑っているリョウマを見て、俺も声を出して笑っていた。






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