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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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オーシマルにて②

週の半ばに休日があると体力回復出来て嬉しいですね。

 翌朝、ムタロウ達は砂漠蜥蜴のソテーと砂漠蜥蜴の茹で玉子とムースケというムー粉で作ったパンのようなものを食べ、町の探索に出る事にした。


「先ずは黄竜さまを祀っている神殿がありますので、そこにご挨拶をしてから町を廻ってみてください。」


「ふん、よくもまあ自分でそういうことを言うかの。」


 ラフェールがイラっとした口調で主の物言いに対して嫌悪感を示した。

 何も知らないムタロウ達に自分を崇めよと言ってくる主の傲慢さに心底腹を立てたのであった。


「ん?どういう事だ?ラフェール?」


「んにゃ、こっちのことじゃ。」


「そうか…まぁ、取り敢えず何の目的もなく町を歩くのも締まりがないし、先ずは主の言う黄竜の神殿に行ってみるか。」


 そうして、ムタロウ達は黄竜の神殿目指し宿を出た。

 オーシマルは、長さ3キロ、幅2キロ、高さ、40メートルの一つの大きな岩を削って出来た町であり、その事もあって建屋の大半は石造りであった。

 町は現在も岩を削り続ける事で開発が進んでおり、町の拡大・開発はこの町で永遠と続く事業だろうと宿の主が笑いながら話していた事をムタロウは思い出していた。


「まあ、こうやって岩で出来た町というのは、なかなか見れるものではないから観光地として他所からの客を引き寄せるってのは、ありだとは思うがな。」


「ムタロウの言う通りだとは思いますが…」


 クゥーリィーはムタロウの言い分に一部賛同はしながらも、それは無理だろうと皆迄言わない事で自身の考えを表明していた。


「ああ、分かるよ。他所の者を入れるには、ここにいる連中に問題があり過ぎる。」


 そう言ってムタロウはクゥーリィーの意見に同意した。


「元の場所まで戻って来たから、ここを入り口とは別の方向に歩けばいいのじゃな。」


 元の場所とは、ヌル族が外で捕らえた竜神を処刑した広場へと続く階段であった。

 この階段を下りて行けば、処刑広場(ラフェールが勝手に名付けた)に出るが、ムタロウ達は階段を下りずに真っすぐ進んだ。


「確か、農耕地兼貯水エリアが見えたら北に曲がって、突き当りまでひたすら直進とか言ってたな…」


 ムタロウは主の言葉を思い出しながら歩いていた。

 一キロほど歩いていると、前方左手に大きな貯水場が見えてきた。

 どうやら、主の言っていた農耕地兼貯水エリアの様であった。

 ムタロウは、主の言いつけ通り、同エリアが見えてから最初の北へと通じる道へと進み、ひたすら歩き続けた。

 町は狭い敷地を有効活用すべく、立体構成となっており、下層へと続く階段や上層へと続く階段だらけで、まるで迷路のアトラクションの様であった。


「階段によるアップダウンがこうも多いと、流石に疲れるな。」


 砂漠気候特有の日差しの強さと乾燥した空気の為、町は常に砂塵が舞っており、大岩を掘削した町の持つ独特の圧迫感もあってムタロウ達を辟易とさせた。

 都市計画に基づいて作られたものではなく、掘削作業を進める上で固い岩盤の掘削を避け、柔らかい箇所を削って道が作られ、町が形成された積み重ねもあり、都の様な直進する道は殆ど無く、そして同様の理由で平坦な道もなかった。

 主が直進すればよいと言っても、道なりに進むという意味でしかなかった。


「何か立札が見えますね。あそこに。」


 町の北端が見えて来た時、ラフェールが立札を見つけた。


「ほんとだな。」


「近寄って読んでみるかの。」


 ラフェールは立札に駆け寄り、立札に記されている文字をのぞき込んだ。


「(この先ヌル族長鄭)」


 看板はヌル族の長の屋敷の位置情報を示したものであった。

 外からの人が来ないからこそ、ヌル族との交渉事で訪問する来客への案内板なのか。

 ムタロウは立札を立てた人にその意図を聞きたいと思った。


「まあ、族長に会いたいと事前の申し入れなしで行ってもどうせ聞いてもらえないし、下手すれば不審者として追われる可能性があるから、積極的に関与するのはやめておこう。」


 ムタロウは、ヌル族の気質に対し嫌悪感を抱いており、積極的な交流を避けたいと無意識に思っていた事もあって、彼らと距離を置く事を提案した


「まあ、それが無難じゃない。わしも変にトラブルに巻き込まれるのは御免じゃ。」


 ラフェールもムタロウと同様の考えであった。

 確かに、オーシマルに入ってからムタロウ達に身の回りに起きた出来事を思い返せば、ごく自然な事であった。

 こうして、看板に表記されている、この町の権力者の邸宅への立ち寄りは無視し、更に北に進むと町の北端に辿り着いた。


「(←中等魔導学校 黄竜神殿→)」


 突き当りには、またもや立札があり、目当ての黄竜神殿の案内が記されていた。


「中等魔導学校とあるが、クゥーリィーは興味あるか?」


 ムタロウは黄竜の神殿よりも魔導学校の表記に興味を持っていた。

 雷魔導が盛んな地であれば、魔導指導内容も雷魔導が中心であり、クゥーリィーが習得すればパーティーの戦力アップになると考えたのであった。


「興味はあるのですが…何となく雷魔導は私には合わない気がします。理由は上手く言えませんが。」


 クゥーリィーは曖昧な言い回しで、中等魔導学校へ編入させたいというムタロウの思いをやんわりと断った。

 昨日のヌル族の雷魔導の使い方を見ていて、クゥーリィーは雷魔導の変則さが好きになれなかった。

 雷魔導の奇襲を前提とする攻撃法や自身の実力以上の力を付与するという点が、姑息だと思っていた。

 無論、戦いに於いては最後に生き残った者こそが正義であり上述のクゥーリィーの感情は甘ちゃんと言われても反論の余地は無い事は彼女自身理解をしていたが、理屈ではない忌避感を雷魔導に感じていたのであった。

 もし、雷魔導との出会いがヌル族との戦闘ではなかったら、クゥーリィーの考え方もまた違うものになっていたであろうとクゥーリィーは思ったが、それは詮無い事であった。


 黄竜神殿へと続く道は、神は高みにいるというヌル族の意識なのか、それとも黄竜の意向なのか、オーシマルの中で最も高い位置にあった。

 ムタロウ達は、神殿へと続く急な階段を息を切らしながら上っていった。


「なかなかの場所にあるな。この神殿は。」


 黄竜神殿からオーシマルの町が一望出来た。

 岩を掘削して出来たオーシマルの町は、神殿の位置から俯瞰して見ると箱庭の様であった。


「観光地として他所の人たちに宣伝すればそれなりに喜ばれる町なんだけどなぁ。」


「町に入ったら命のやり取りを体験できるスリル溢れる歴史の町とかで売り出したらモノ好きが来そうな気もするがのう。」


 ラフェールが冗談とも本気ともつかない発言をしてきた。

 何処までが本気なのか本当に分からない奴だとムタロウは思い、取り敢えず無視する事にした。


「それより、早く黄竜さまにご挨拶をしておきましょう。」


 早く黄竜像を見たいクゥーリィーはムタロウ達が寄り道ばかりしている事に焦れていた。


「ああ、そうだったな。早く済まして、町を廻ろう。」


 そんなクゥーリィーの気持ちに今更ながら気づいたムタロウは、クゥーリィーに言われる通り、神殿に入って行った。

 神殿内は岩をくり抜いて作れらた素っ気ないなものであった。

 唯一、黄竜像のある台座に蔓の紋様が彫りものが装飾といえたが、神と崇める石鏃を祀る施設としては、極めて粗末なものであるとクゥーリィーは思った。


「挨拶は良いが、この場合、何を言えばいいんだ?そういえば。」


「こんにちは。よろしくお願いします。ってご挨拶すればいいのではないでしょうか。」


「ええ…なんかそれはちょっと違う気がするが。」


「そんなもの適当に頭下げておけばいいんじゃ!」


「この町を安全に回らせてください。…とでもお願いすればいいんじゃないですか?」


 ムタロウ達が黄竜の石像の前でやいのやいのやり取りをしていた時、黄竜の石像の後ろから声がした。

 ムタロウ達がぎょっとして石像を見ると、石像の後ろから一人の男がぬっと出てきた。

 男は宿の主だった。


「え?どうやってここまで来ていたのですか? 先程わたしたちを見送っていらっしゃいましたよね?」


 クゥーリィーは心底驚いていた。

 宿を出る時、主は確かに自分達を見送っていたのだ。

 ここに来るまで、特に道を間違えた訳でもなかった。

 自分達を追い抜いた者もいなかった。

 なのに、何故、主はここに先回り出来ているのか。

 この主は何かおかしい。

 驚きは疑念に、そして警戒に変わった時、クゥーリィーの横にいたラフェールが「けっ」と嫌悪感を声にしていた。


「こいつはな、黄竜じゃよ。自分で自分を拝めと言ってたのじゃ。実に趣味が悪い。」


 ラフェールの言葉に、ムタロウもクゥーリィーも、驚愕した。


「ははは、酷いじゃないか。本人の口から言って驚かせたかったのに。」


 主は、その表情とは裏腹に、暴露したラフェールに抗議をしていた。


「ふん!…で、わざわざ正体を明かしてまでして何の用じゃ?」


「まあ、そうカリカリするな。私はさっきの言葉通り、町を廻って欲しいのだ。」


「町を廻る?」


 目の前の男が竜族であると俄かに信じられず、放心状態となっていたムタロウが我に返り、黄竜の言葉の真意を問うた。


「そう。町を廻って欲しい。そして、この町の様子をしっかりとその目に焼き付けて欲しいのだ。」


「何故そのような事を言うのだ。俺はこの町に立ち寄っただけで、この町に縁もゆかりも無いが。」


 ムタロウの言葉を聞いて主は目を閉じながら答えた。


「ふむ。確かにお前はこの町に縁がなかった。しかし、この儂と出逢った事で、それが出来てしまったのだよ。神である儂に出逢った事で。」


 主はそう言うと、不敵な笑みを見せた。

 すると、主の身体中に雷光が走り、同時に主の身体は砕け散り、黄金色に輝く砂となった。

 そしてその黄金色の砂は床面に落ちることなく宙を漂い、黄竜像にまとわりつき始めていた。


「な、なんだ…これは…。」


 黄土色の石像であった黄竜像は黄金色の砂を纏い、黄金色に輝き出し始めていた。

 宿の主であった黄金色の砂が、黄竜像に何か働きかけているのは明らかだった。

 その輝きは時間の経過とともに増していき、正視できない閃光を放った。


「うッ…」


「きゃあぁッ!」


 ムタロウ達は、その閃光に思わず目を閉じてしまった。

 これが戦闘ならば、ムタロウ達の命は既にこの世には無かった。

 手練れのムタロウが思わず目を閉じてしまう程にその閃光は強烈だった。


 目を閉じた閉じた瞼越しに閃光が収まった事を認識し、ムタロウは恐る恐る閉じた目を開き、目の前の光景を見て息をのんだ。

 

「ラフェールの言う事は本当だったのか…」


 ムタロウは信じられないものを見ている気分であった。

 ムタロウの前には、黄金色の鱗に包まれた竜が鎮座していた。


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