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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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オーシマルへ⑦

時間と余力があったので、連投出来ました!


 ムタロウ達は、オーシマル東門の前に広がる広場での狂騒を無視して、宿を探していた。

 竜人達が次々に処刑されているのであろう、狂騒は収まるどころか、時間が経つ毎にエスカレートしていき、その異様な空気はムタロウ達の後を追ってくる様であった。


「どんな殺され方をされたか分かりませんが、人が殺されるのを見るのがそんなに楽しい事なのでしょうか?」


「お前の感覚は正しいと思うが、世の中にはそれを楽しいと思えてしまう欠落した者というのが一定数存在するのだよ。ここの連中はちょっとひどすぎるが。」


「しかし、思っていた以上に酷い状況じゃのう。」


「本当だな。こんなことやっていたら、竜人族との民族対立などいつになっても解消なんて出来る訳無い。」


「思うに、彼らの感性のズレも長年この地に封じられる事で培われたものと考えると、根が深いというしかないのぅ。」


「しかし、なんだ…そんな心配をしている場合じゃないな。お前等狙われているぞ。」


「えっ?お前等??」


「ひひ、わしとクゥーリィーじゃよ。小娘と年寄りなんて、こいつらの目から見たら、かもが…ええっと…」


「葱背負ってな。」


「そうじゃ、鴨が葱を背負ってやってきたという奴じゃよ。」


 ムタロウ達は階段の突き当りを右に曲がり、幅5メートル程の道を進んでいた。

 周囲は住居が連なっていたが、先刻の東門周辺に広がる貧民街と様相は大して変わらず、相変わらず悪臭がたちこめていた。

 各住居の入り口からは粘っこい視線がムタロウ達に向けられていた。

 ムタロウに対しては恐れと警戒を、クゥーリィーに対しては性的欲求を、ラフェールに対しては容易な獲物といった意志の様なものが感じられた。

 流石にクゥーリィーもその異様な視線には感づいたようで、腕に鳥肌を立てて身震いをしていた。


「クゥーリィー、水盾(アクアシールド)の準備をしろ。」


 ムタロウが小さな声でクゥーリィーに耳打ちすると、クゥーリィーは意識のスイッチを切り替え、すぐさま水盾(アクアシールド)を発現させた。

 ぽんと、クゥーリィーの頭上に水玉が3メートル程飛んだところで、パチンと弾け、水の幕が半球状にムタロウ達を包んだ。

 と、同時に、左右のヌル族の住居の入り口から電撃が走った。


雷矢(ライヤ)かッ!」


 雷矢は雷魔導の基本魔導であるが、あらゆる攻撃魔導の中で最も速く、回避は不可避の必中攻撃魔導であった。

 命中すると、対象は身体中に電撃が走る事で麻痺状態になる為、この麻痺の間に攻撃を畳みかけられた場合、致命傷を負う可能性が極めて高い危険な魔導であった。


 が、必中の雷矢は水幕をなぞり、地中へと帰って行った。


「予想通りだな!やる事が見え透いているッ!」


 ムタロウは路地右側の住居の入り口へ跳び、半開きとなっていた入り口扉の隙間に剣を突き立てた。

 ムタロウの手に、何か柔らかいが、中身が詰まったモノが剣先の圧力に一瞬抵抗をしたが、抵抗しきれず表面が破れ、ずぶずぶと剣がそのモノにめり込んでいく感触が伝わった。

 ムタロウは、手ごたえを感じると、手にした剣を左に90度捻った。


「ぐぎゃああああッ! 目ッ…目がぁ!」


 悲鳴と共に右目に剣が刺さったまま住居から汚らしいヌル族の男が飛び出した。

 ムタロウは住居から飛び出したヌル族を確認すると、荒っぽく目に刺さった剣を引き抜き、返す刀で、ヌル族の頭を叩き割っていた。

 頭頂部からムタロウの全力を打ち込まれたヌル族の男は、頭上からの剣撃の勢いで、そのままべちゃりと地べたにへばりつく形で倒れていた。


 その様子を見ていた道路左側のヌル族は仲間が殺られたのを見ると、住居から勢いよく飛び出しながら、自らに雷魔導を掛けていた。


「気をつけろ! 電光(デンコウ)だ!」


 ムタロウが叫んだ時、飛び出したヌル族はニタリと笑い、常人とは思えぬ迅さでラフェールめがけて突進していた。


 雷魔導は他の魔導と異なり、対象に付加効果を与える特徴があった。

 ムタロウが電光と叫んだ雷魔導は、生物の身体が微弱な電気で動く特性を利用し、更に強烈な電気を身体に流す事で強制的に筋肉を高速可動させ、通常では得られない速さを得る魔導だった。

 元々身体能力の高いヌル族がこの魔導を自らに掛けた時、大抵の相手はヌル族の動きについて行けず、一方的に急所をやられるという非常に厄介なものであった。


 そういった意味ではこのヌル族の攻め方は基本に忠実な模範的な攻め方であった。

 しかし、攻撃対象が未だ経験の浅いクゥーリィーではなく、ラフェールを標的にしたのは痛恨のミスであった。

 ラフェールは飛び込んできたヌル族の左手にナイフが握られている事を目視確認し、その刃先が自らの喉元を狙っていると確信するとナイフの先端が自らの喉に触れるか否かのギリギリまでひきつけた上で、左手首を掴むと同時に逆関節に捻っていた。

 その勢いで半回転にひっくり返り、だらしなく仰向けになったヌル族の左胸にラフェールは手を当て、


 「死ね!」


 と、一声かけると、そのヌル族は口から血をごぼっと噴き出し、二・三度痙攣してこと切れていた。

 この一方的な戦闘を扉越しに観戦していたヌル族の住民は目の前にいる三人の戦闘力を見誤った事に気付き、同時に戦意を喪失していた。


「ああ、こいつらはそういう奴らか。本当に俺の嫌いな奴だ。」


 ムタロウは、何かを思い出した様な素振りをし、目に憎悪の影をたぎらすと、今しがた頭を叩き割ったヌル族の住居の隣へと走り出し、半開きになっている扉の隙間に剣を立てていた。

 愚かで、卑怯で、残忍で、そして野次馬根性の強いヌル族達は悉くムタロウの剣によって目を潰されていた。

 ムタロウの剣の洗礼に遭ったものは良くて失明し、大抵のものは脳まで剣先が達し、絶命していた。

 ムタロウが一通り、半開きになっている扉を刺して回ったあとは、先ほどまでの粘っこい視線は無くなり、ムタロウ達に対する恐怖の空気で充満していた。


「こいつらは、雷魔導を使った奇襲を得意とする連中の様だな。」


「そのようじゃな。しかも、人の形をした動物じゃな。」


「ああ、全くだ。」


「あの…どういうことですか?」


「こいつらは、雷魔導を使って暗殺や奇襲を掛けるのが得意なのだが、見た処精神的な弱さ…まあ、民族的な気質だと思うのだが、強い者に弱く、弱った者、弱いと見做した者には強く当たる連中なんだ。」


「それが、今の会話でどう関係するのですか?」


「こいつらは、お前が水盾を展開して雷矢を防いだ事、俺が直ぐに雷矢を放った奴を倒してのを見て、このパーティーで一番弱いのはラフェールと思ったんだ。」


「ほんと失礼な奴じゃのぅ…。」


「大方、この馬鹿なヌル族はラフェールを見て安易に最も簡単に屠れる奴と見做したのだろう。ババアだから動きは鈍いと見做し、それでも一応、念のため電光を自らに掛けて動作スピードを上げて倒しに入ったのだろうな。」


「相手が悪かったのう…というか、相手の力量を見極められない時点で、愚かなんじゃがな。」


「まあ、そういう事だ。そしてこいつらは、俺たち三人が厄介な連中だと認識はしたのだが、己の欲と野次馬根性に抗えず、じっと見ていたのだよ。だから、覗き見している連中には制裁を下した。」


「そしたら、自らに危害を加えると分かって、慌てて家に引きこもったのじゃ。仲間を殺されたと激して立ち向かうことなく、家に引きこもってしまった…なんとまあ、情けないものよのう。」


「そういえば、あの嫌な視線が無くなった気がします。」


「そりゃ、怖くて家の奥に引きこもれば、視線の送りようもないからな。いずれにせよ、悪臭は消せないが、少なくともうっとおしい視線は無くなり、宿探しに専念できる。」


「宿はこの道を道なりに進めば見えてくるとあの門兵も言ってたしの!」


「ああ、そうだ。早く宿を見つけて、この不快な町を出るまでに最低限やるべき事を話し合おうじゃないか。」


「私も賛成です…ちょっとこの町は無理です。臭い的に…」


「まあ、嘆いても仕方ないからの。どうすべきか、目標が定まれば、この町の良い所もみえてくるだろうしのう!」


 珍しくラフェールが皆を励ましたのを珍しいという目でムタロウもラフェールも見ていた。

 いつも皆を発奮させる人がムタロウだが、普段そういったことを言わないラフェールが言うと新鮮でそれなりに効果はあるなと、クゥーリィーは思うのだった。



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