オーシマルへ⑥
リアル生活が忙しすぎて、なかなか書けずストレスです。
ムタロウ達がセントコンドを出て22日目。
ムタロウ一行は北と西に分岐する街道で一休みしたのち、西に針路を向けた。
西へ向かう街道の先にウーマ砂漠が広がっていた。
「やっとゴールが見えて来たなァ…オーシマルは砂漠の中にあるんだろ?」
「あの竜人族…スジだっけかのぅ。そう言ってたの。」
「砂漠の中の町って、どんな感じなんでしょうね。すごく楽しみです。私。」
「まあ、確かに楽しみっていえば楽しみではあるが…町に入ってからがちょっと心配だなァ。」
「スジの言ってたヌル族の件かの?」
「ああ、あいつらの言う通り、ヌル族が好戦的な連中だとすると、俺たちは鴨が葱背負って歩いて来るようなものだな。」
「なんじゃ?そのかもが…って?」
「私も同じ事思いました。どういう意味ですか?」
「ああ、まあ俺の前のいた世界の言葉だな…。まあ、簡単に言えば俺たちは傍から見れば簡単に強盗できる弱そうなパーティだという事だ。」
「弱そうな剣士と、小娘じゃから仕方ないじゃろ。」
「…いや、汚いババアが抜けてるぞ。」
「汚いは余計じゃ!」
ムタロウ達は、たまにこのようなやり取りをしていたが、行程の大半は無口での移動であり、特にウーマ砂漠に入ってからは景色も単調な荒地が続くこともあって、話題も尽き、ひたすら無言で歩く時間が増えていた。
ウーマ砂漠に入ってから出現する魔物も、灰竜や砂漠蜥蜴程度であり、少し前に戦闘した翼竜の様な強敵との遭遇はなかった。
そんな単調な日々を過ごし、ムタロウ達がセントコンドを出て25日目を迎えた日、地平線にぼんやりと黄土色の塊が見えてきた。
その塊を目視してから更に歩き進めると、少しずつ塊の詳細が確認出来るようになる頃には、ムタロウ達はオーシマルが天然の巨大な岩を人が長年かけて改造した出来た都市である事を認識していた。
「成程…これはすごいな。ヌル族をこの町に封じるって、こういう事か。」
「ああ、そうじゃのう…これは監獄じゃの。」
「ここまでしてでも世の中に出してはいけないと当時の王は思ったという事でしょうか…」
三人はオーシマルを見た感想を思い思いに口にしていたが、オーシマルがヌル族をこの地に拘束する為の都市であるという点では認識は共通していた。
オーシマルはウーマ砂漠にぽつりとある、1辺が10キロ程ある強大な岩をくり抜き、階段や通路などを形成し、そして通路周辺にヌル族の住居エリアがある文字通り岩の町だった。
この岩の巨大さに比して、町と外を行き来する出入口は町の東と南にしか無く、コンドリアン帝国は彼らの動静管理に神経を使っていた事が見て取れた。
ムタロウ達がオーシマルの東門に辿り着くと、門前を守備していた門兵が3人寄ってきた。
「この町に入る上で、先ず氏名並びに種族、そしてこの町に来た目的を教えてもらおう。」
門兵はナメコンドの着用した人間族であった。
「この町の治安維持と守備はナメコンドの人間族なんだな。ヌル族ではないのか?」
「ヌル族はこの町に居住しているだけであって、町の出入りの管理はナメコンドが行っている。お前等の様な無知で世間知らずな冒険者に教えてやる。ヌル族はナメコンド王国によって管理されて生き永らえている種族だ。帝国から続く歴代の為政者の慈悲によってこの町でのみ、生活する事が許されているのだ。」
「つまり、ヌル族はここでのみ生きていく事を許されている…という事か?」
「そうだ。その代わり、ナメコンドに歯向かわず、生活圏をオーシマルから動かさない限りに於いては、町の中で何をしようと、我々は関知しない。さあ、質問には答えた。さっさと、我々の質問に答えよ。」
ムタロウ達は、それぞれの氏名、種族、そして旅の目的を伝え、人相書きをされた。
門兵はムタロウの名前を見て、一瞬、おや?という表情をしたが直ぐに職務の顔に戻り、淡々と入町手続きに入っていた。
「…よし、入っていいぞ。入町に当たって注意をしておくが、この町はヌル族の居住地であり、町の中でまかり通っている慣習、倫理観などはヌル族のそれに準じたものである事を肝に銘じておけ。」
「それではお主らは何のためにおるのじゃ?こんな身体検査までわざわざして?」
「我々はヌル族の管理を本国から命じられている。彼らを扇動する不届きな輩が町に入らない様にする事とヌル族が不穏な動きをしていないか監視するのが我々の役目なのだよ。」
「ふぅぅむ…ヌル族というのは噂通り厄介な連中なんじゃのう…。」
「そのようだな。まあ、せいぜい気を付けて行こう。先ずは宿を探さねばな…なあ、余所者を暫く泊めてくれる宿は何処にあるんだ?」
「この東門を通り、真っすぐ階段を上がり、突き当りを右だ。そして道なりに歩けば宿は見つかるだろう。」
「そうか、ありがとう。宿を探す手間が省けた。」
そうムタロウが言った時、門兵はムタロウに近寄り、ぼそりと言った。
「矯正委員会のデニー・ゴールドボールが出入りしている。もし、町の中で赤い眼の豚を見かけたら目を合わすな。奴らはお前らの顔を覚えている。」
そう言うと、門兵はムタロウから離れ、門前へと歩いて行くのであった。
「どうしたんじゃ?」
「あの門兵、俺が何者か分かっていながら町へ入る事を許している。この町にも矯正委員会の手が随分と入っている様だ。」
「まったく、あいつらは主張内容や普段の言動は頭が悪い事この上ないのじゃが、既存組織を侵食する事だけは異様に優れているよのう…。」
「ああ、全くだ。どこに行ってもあいつらは人を不快にさせる。」
ムタロウ達はそう言いながら、オーシマルの東門をくぐり、眼前に続く階段を上り始めた。
階段は80段程あり、各段の奥行きは3メートル程と非常に広くとっていたため、上るのは然程苦ではなかった。
そして、各段の横には居住区へと続く路地が左右に広がっていた。
この世界の常として身分の低い者、貧しい者ほど町の入り口に住居を構える傾向にあり、オーシマルに於いても例外ではなかった。
また身分の低い者、貧しい者は衛生観念に於いて一般的なナメコンド国民に比べ著しく低く、手を洗う、歯を磨く、風呂に入って身体を流すという習慣が無いため、両路地の入口からは何日も風呂に入っていない人間の体臭や、排泄物の匂い、そして正体不明の獣臭が漂っていた。
「酷い臭いじゃ…」
「私、臭くて頭がふらふらしてきました。」
「確かにこれはきついな。早く階段を上って宿のある所に行こう。」
そうムタロウが言って、階段を上がるのを早めようとした矢先に、後方の東門から叫び声が聞こえてきた。
ムタロウ達が思わず振り返ると、両手を後ろに回され、手首を拘束された竜人達がヌル族達に連行されていた。
竜人達が連行されていると知ると、ひっそりとしていた両脇の路地から多数のヌル族達がぞろぞろ出てきて、囚われた竜人達を見ると罵声を浴びせたり、手にした石を全力で投げつけたりしていた。
投げた石が向かいにいた別のヌル族の顔面を直撃し、殴り合いの喧嘩に発展し、その喧嘩を取り囲んで、不潔なヌル族が騒ぎ立て始めるなど、静かだった町の様子は一変した。
連行されている竜人達は恐怖と絶望の表情を作り、これから待ち受ける自分の運命を悟っていたかのようであった。
竜人達はヌル族に背中を蹴られながらよろよろ階段を上がらされていたが、広場に到達した処で連行していたヌル族が手にしていた棍棒で頭を殴りつけられた上で組み伏せられた。
そこに、赤い肩当てをつけたヌル族が、倒れている竜人の顔面を一人一人爪先で蹴り上げたのち、階下に集まっていたヌル族に対して口を開いた。
「この愚かな蜥蜴どもは、北の赤竜の砦で引き籠っていれば良いものを、我が町オーシマルの様子を偵察する為に街道を南下してきた処を捕らえたものである!」
すると、赤い肩当てをつけたヌル族の後ろから、ブラウンのローブを被ったヌル族がつかつかとやってきて、赤い肩当てをしたヌル族に並んだ。
「こやつらは、蜥蜴が人語を話せる事で何を勘違いしたのか、自らを竜人の末裔であると詐称し、根拠のないプライドで我々を始めとした他種族を見下す、種族平等の精神から最も離れた危険な連中である!」
「そうだ! 蜥蜴の分際で、どうしてそんな偉そうに振舞えるんだ!」
「気持ち悪いんだよ!お前らの顔は!」
「死ね!今すぐ死んでしまえ!」
二人のヌル族の扇動によって激したヌル族が口々に囚われた竜人族に対して罵倒を始めていた。
その様子は、ヌル族と竜人族の対立とは無関係であったムタロウ達にとっては見るに堪えないものであった。
「我々ヌル族にとって、我が神、黄竜さまを含めた竜神さまの末裔を騙る竜人族は一族の仇敵である!彼らの根絶こそ我々民族の悲願である!」
「そうだ!そうだ!」
賛同する声がこだまして、赤い肩当てをしているヌル族は満足そうな表情をしていた。
「なあ、ラフェール。竜人族を根絶する事がどうしてヌル族の悲願達成になるんだ? 理屈がイマイチ見えないんだが、あいつらは頭が悪いのか?」
「あいつらの理屈なんぞ、わしも分からん。頭が悪い事は間違いないと思うが。」
「だよなあ。あいつらの思考経路はユニークと言わざるを得ないな。」
そうしている間に、わらわらと集まったヌル族達は、長さ五メートル程の角材とそれを支える脚も運び込んでいた。
竜人族4人を縛り付ける目的であるのは明白であった。
「なにをしようとしているのですか?」
クゥーリィーが怯えた表情でムタロウにヌル族がやろうとしている事について問うた。
「恐らく、あの四人の竜人族をあの棒に縛り付けたのち、処刑するのだろうな…どうやって処刑するのかは分からんが。」
「そんな…助けてあげられないのですか?」
「この状況でそれをやったら、俺たちも捕まってあの竜人族と同じ状況になるぞ。流石に俺は嫌だな。」
「……。」
四人の竜人達は胴体を角材に縛り付けられていた。
そこに二頭のイヴッウを連れたヌル族が現れた。
そのヌル族は二頭のイヴッウの首に縄を括りつけたのち、縄のもう一方で竜人の両手首を縛っていた。
両手首を縛ると、ヌル族は二頭のイヴッウを引っ張り始めた。
一頭のイヴッウは竜人の右側に、もう一頭のイヴッウは竜人の左側に歩いて行った。
竜人の腕が引っ張られ、左右にぴんと伸びていく。
「ああ、俺、無理だ。こいつらは無理だ。」
「わしも同感じゃ…。」
ヌル族が竜人に何をしようとしているのかは明白であった。
手首を縛られた竜人も、残り三人の竜人もこれから何が起こるのか理解していた。
竜人達を取り囲んでいたヌル族達も無論、これから何が起こるかを理解していたが、ムタロウや竜人と決定的に違うのはムタロウや、竜人達がこれから始まる惨劇に恐怖または嫌悪している事に対し、ヌル族はこれから始まる最高の娯楽と見ている事であった、
「え、何が起こるのですか?どういうことですか?」
「まあ、いい。知る必要もないし、ましてや見る必要はもっとない。早く宿に向かおう。」
ムタロウはそう言って、階段を上って行った。
ラフェールも後に続いたが、クゥーリィーはなぜ二人が最後まで様子を見ず、この場を去っていくのか分らないまま、おたおたしながら後に続いた。
上段まで進んだところで、なんとも形容しがたい悲鳴があがったのち、ぶちっ…という肉がが千切れる音が聞こえた。
「クゥーリィー振り向くな!」
思わず振り向きそうになったクゥーリィーを見てムタロウは怒鳴った。
ムタロウの剣幕にクゥーリィーは身体をびくっとさせ、辛うじて振り向く動作を止める事が出来た。
すぐさま、ムタロウはクゥーリィーの手首を掴み、ぐいと引っ張りながら階段を上がっていった。
階下からは、竜人の悲鳴と、その様子を見て興奮の絶頂で騒ぎ立てるヌル族の歓声が入り混じり、異様な空気を作り出していた。
「何がおきているのですか?」
「何も知らなくていい、何も見なくていい。この町は早々に出よう。クズの町だ。」
ムタロウの厳しい言葉にクゥーリィーは思わずムタロウの顔を見やり、そして、黙り込んだ。
ムタロウの顔は今まで見た事がない位に怒りを露わにしていたのであった。




