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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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オーシマルへ④

仕事が忙しすぎてなかなか書けません。

 ムタロウ達がセントコンドを発って16日を過ぎた。

 ムタロウとクゥーリィーはウーマ砂漠と大森林の間にある草原を這って進んでいた。

 ムタロウ達が進む先に草原にぽつりと生えているカーリィーと呼ばれる木にあり、その木に一匹の竜がとまっていた。


「あの竜、なんて種類ですか?見た事ない。」


 クゥーリィーは小さな声でムタロウに問いかけた。


「あれが翼竜だ。竜種ではあるが灰竜に近いな…まぁ、魔物だ。」


「あ、魔物ですか。神々しい方じゃなくて。」


「そう。質の悪い方だ。あれは餌探しの見張りだ。」


「見張り…ですか?」


「そうだ。ああやって周囲を索敵して獲物を見つけたら俺たちの耳では聞こえない声を発して仲間を呼んで集団で獲物を襲うんだ。」


「あ、だからいきなり草むらに伏せたんですね。」


「そういうことだ。」


◇◇


 ここまでオーシマルへの行程は順調であった。

 街道は長年保修されず放置されていたため、かなり痛んでいたが、それでも砂地や視界の悪い森林を歩くよりは遥かに条件がよく、曳いているイヴッウも機嫌よく歩いていた。

 そして迎えた16日目、ムタロウ達は街道に消化しきれず排泄された人間の手足が飛び出た糞の山が街道脇に何個も落ちているのを見つけた。

 ラフェールは、糞のもとに走っていき、その糞を手で掬うとくんくん匂いを嗅ぎ始めた。


「これは…。」


「きったねえなぁ…何が「これは…」だよ! それは食い物じゃねえンだぞ。今にも食べそうな勢いだけど、やめろよな!食うんなら、俺が見てない所でやれよ!」


 ムタロウは、嫌悪感たっぷりにラフェールに食糞だけはやめろと忠告した。


「だれが糞を喰うんじゃ!馬鹿にするな!」


 ラフェールは顔を真っ赤にして怒り出し、手に持った糞をムタロウに投げつけた。


「うわっ! やめろ! 悪かった!喰うつもりはなかった!!悪かった!」


 ラフェールが心底頭にきたらしくムタロウ目掛けて糞を掴んで投げ続け、ムタロウは謝り続けていた。


◇◇


「で、この糞の何が問題なんだ?」


 ムタロウは糞まみれの顔でラフェールの最初の反応の意図を聞いた。


「ぷっ…」


 ムタロウが糞まみれの顔で真面目な質問している姿があまりにも滑稽なので堪えきれずクゥーリィーは噴き出していた。

クゥーリィーの顔が耳まで真っ赤になっていた。


「あそこはな、翼竜の糞場じゃ。」


「糞場? 翼竜の糞場…ですか?」


「そうじゃ。翼竜は竜種としては珍しく集団生活をするやつでの、魔物の癖に生意気にも家と便所を別にしているんじゃ。 ここが糞場ならば…この周囲に、翼竜の巣があるの。」


「成程な。糞ひとつひとつ見ていると…人が喰われているな。糞から色々見える。」


 ムタロウの発言内容を聞いて、クゥーリィーは糞に近寄り、強烈なにおいにえずきながら、糞を見た。

 糞の中には消化しきれなかった人間の足や髪の毛が混じっていて、クゥーリィーはそれらに気付くと、みるみるうちに顔色が悪くなり、糞から逃げる様に走り、そして嘔吐していた。


「翼竜の糞場があるとなると、近くに翼竜のコロニーがあるということか。これは厄介だなァ…。」


「確かにのう、それぞれの糞に人間の痕跡が確認出来る事を考えると、このコロニーは街道を通る冒険者や商人達を餌にしているの。」


「そうなると、このまま進むと翼竜に襲われるな。最低六匹から相手をすると考えると極めて厄介だ。」


「そうじゃのう…、時間を掛けて討伐するしかないのう…」


「だよなァ…」


 翼竜はラフェールの言う通り、竜種としては珍しく集団生活を送る性質がある。

この集団はコロニーと呼ばれており、コロニーはボスたる雄竜とその妻を中心に、四匹以上の配下の翼竜で構成されている。

 ラフェールが最低六匹と言ったのは、翼竜のこういった生態を指しての事であり、それは、いくらムタロウ達が強力な冒険者であろうと、数で勝る翼竜相手では討伐も一筋縄に行かない事を意味していた。


「ここは、手間だが一匹ずつ、他の翼竜に気付かれないように潰していくしかないな。」


 ムタロウが溜息をつきながら、言葉を発した。


「正式な討伐依頼であれば結構な報酬が貰えるはずじゃが…まぁ、こればかりは仕方ないの。」


 ラフェールも溜息をつきながら、「まあ、仕方ない」と何度も自分に言い聞かせて、これから始まる手間と時間のかかる討伐に気持ちを切り替えようとしていた。


「すいません…匂いと、人の身体を見て気持ち悪くなってしまって…」


 胃の中の内容物を出すだけ出し、もう吐き出せるものが無くなったと思われるクゥーリィーが目尻に涙をつけながらムタロウとラフェールの所に近寄ってきた。


「おお、丁度よいタイミングで戻ってきたの! 早速ムタロウと討伐に向かってくれ!」


「は?…はい、と、討伐ですね。話が呑み込めませんが承知しました。」


クゥーリィーは話が全く読めず、取り敢えず適当な返事をしていた。


◇◇


 ムタロウとクィーリィーは翼竜のいるカーリィーの木まで20メートルという位置まで這って移動したのち、翼竜の様子をうかがっていた。


「これからどうするんですか?」


 良く分かっていないままにムタロウに連れられ、言われるがままに草の中を張って移動してきたクゥーリィーは、困った表情をしていた。


「あ、ああ。クゥーリィーは聞いていなかったか。遠くで吐いていたもんな。」


「ごめんなさい…。」


「いや、別にそれはいいんだが…、まあ簡単に言えばあの糞の主である翼竜を討伐するんだが、あいつ等群れで動くんでな、あの見張り役の翼竜の様子をしばらく見て、群れの規模をある程度把握しておきたい。」


「様子を見ていると群れの規模が分かるってどういうことですか?」


「翼竜は見張り役と獲物探しの役を交代で行う習性があってだな、あの個体が何時間おきに交代するのか確認したい。それから、交代した翼竜がどの方向に飛んで行って、やつらの巣の方向も確認しておきたいな。」


「今すぐあいつを殺しちゃダメなんですか?」


「もしあいつらが交代するタイミングで戦闘となって、仲間が来たら最悪だ。あいつら直ちに仲間を呼んで集団で襲い掛かってくる。あいつらのコロニーの規模が分からない状態で戦闘はしたくない。」


「分かりました。取り敢えず今は戦闘を始める適切なタイミングを調べているという位に考えておけば良いという事ですね?」


「そういう事だ。ここからは持久戦だが、一度戦闘が始まったら一瞬で殺さないとこっちがやばい。モタモタしていると仲間を呼ばれてしまうからな。」


「はぁ…。」


「とりあえず俺は暫く寝るから、見張りをよろしくな。」


 そう言うとムタロウは這いつくばった姿勢のまま、昼寝を始めた。


◇◇


 クゥーリィーが見張りを始めてから3時間程経った時、カーリィーにとまっていた翼竜が翼を広げ、バサバサと前後させ始め、耳に刺さる不快な鳴き声を発し始めた。

 クゥーリィーは驚いて反射的に立ち上がりそうになる処を何とか堪え、翼竜を凝視していた。


「やっと動きがあったか…随分待たせやがって。」


「あ、起きていたのですか?」


「あんな耳に刺さる不快な声を聞けば目も覚める…それにしてもえらいな。翼竜のあの声を初めて聞いたものは大抵がビビッて固まってしまうか、飛び上がって逃げるかのどっちかだ。よく堪えたな。」


「褒めなくていいですから、起きているならば起きていると言ってください!」


 クゥーリィーが顔を真っ赤にして抗議するとムタロウは慌ててクゥーリィーの口を右手で抑え、左手人差し指で声を抑えろというゼスチャーをした。


「翼竜に気付かれるだろうが!デカい声を出すな!」


「す、すいません。」


 ムタロウ達がそんなやり取りがある事に翼竜は気付かず、翼をはためかす速度を強め、身体を宙に浮かせ、暫くホバリングしたのち、北東へ飛んでいった。

 すると暫くしてから北の空から別の翼竜が飛来し、街道方面に身体を向けてカーリィーにとまっていた。


「やはりあいつ等、街道を通る冒険者や商人達を食料にしているな。」


「やはりそうですよね。街道を見張っていますね。」


「暫く待ちの時間が続くが、2日はここに居て、翼竜の動きをウオッチするぞ。」


 こうしてムタロウとクゥーリィーは2日間同じ場所で2日間翼竜の監視を続けていた。

 トイレと食事には非常に難儀したが、苦労した甲斐もあり、見張りのローテーションのピッチも把握し、それにより翼竜のコロニーの大きさも推察できるようなった。


「大体3時間毎に交代になって持ち場を逆時計回りに回っているな。同じ奴が来るタイミングが最初に離れて15時間後に戻る。最初の奴が戻って来るまでの間、4匹の翼竜があの木に止まっていた…となると、配下の翼竜は5匹いるという事になる。ボス竜とその妻を管ゲル7匹の翼竜がいるという事か。」


「流石にまとめて相手はしたくないですね。」


「まったくだ…。」


ムタロウは暫く考え込んだあと、「よし」と一人呟き、クゥーリィーに顔を向けた。


「リスクはあるが、ここで一匹、一匹殺していくしかないな。出来るだけ数を削る。」


「でも、彼らはすぐに仲間を呼ぶんですよね?難しいのでは?」


「そうだ。難しい…だからこそ、クゥーリィーの魔導が需要になってくる。」


「私の魔導ですか?」


「そうだ。あいつらは仲間を呼ぶときは、あの不快な鳴き声ではなく俺たちの耳では聞こえない声で呼ぶんだ…それが非常に厄介でな。仲間を呼んでいる事に気付かずに目の前の翼竜討伐に夢中になって後方から奇襲を受けて奴らの餌になる冒険者が多いんだ。」


「あの糞の中に残っていた手足の持ち主もそうですか?」


「そこはなんとも言えんが…その可能性は高いだろう。なので、あいつらが仲間を呼ぶ前に殺す…クゥーリィー、お前の火糸を使ってあいつが声を出す前に首を切断出来るか?」


「やってみないと分からないとしか言いようがないですが…やります…いや、やれます!」


「よし、いい返事だ。」


「ありがとうございます。それで、私は何をすればよいのですか?」


「作戦自体は単純だ。あのカーリィーの木にとまる翼竜を一匹ずつ仕留めるんだ。三時間毎に持ち場交代するのだから仲間が殺されたと気付かなければ確実に各個撃破出来る…まあ、仲間を呼ぶ前に仕留める事が出来ればという前提付きだけどな。」


「もし失敗したらどうすればいいですか?」


「翼竜の羽をもぎ取れ。片方でも無くなれば、あいつらは空中姿勢を維持できず墜落する。そうしたら、俺がとどめを刺す。」


「分かりました。」


「じゃあ、早速始めよう。お前が学校で習ってきた魔導の成果を見せて貰うぞ。」


 ムタロウはそう言うとうつ伏せになり、草むらの中で匍匐前進を始めた。

 ムタロウが前に進み始めるのを見て、クゥーリィーもうつ伏せになり、右手人差し指をカーリィーの木にとまっている翼竜に向けながら深呼吸をした。


「行ってください。」


 クゥーリィーが火糸(ファイアストリング)を発動させると同時に、ぼひゅっという音と共に、きらきらした透明な意図が指先から飛び出した。

火糸と言いながら、その糸は常温であり、炎の糸とはおよそかけ離れたものであった。

ただのクモの糸…ではなく、蟲が発した糸であった。

糸は真っすぐ20メートル先の翼竜に向かって飛び、翼竜の首の周りを一周した。

クィーリィーの火糸は蚕の吐き出す生糸の様に極細であり、熱も帯びていない為、翼竜は自分の命を絶つ死の糸が自分の首に巻き付いている事に全く気付いていなかった。


「おねがいします!」


 クゥーリィーの言葉と共に翼竜の首に巻き付いていた糸は瞬時に白銀に輝き、常温の糸は1500℃を超える熱を放つと共に、翼竜の首を絞めあげた。

 鉄を溶解させる熱を放つ糸は、翼竜の首を豆腐の如く切り落としていた。

 あまりにも一瞬の出来事であった為、翼竜は自分が命を絶たれた事すら自覚が無かったと思われる程に呆気なく、無慈悲な死にざまであった。


「それにしても…魔導操作と温度制御が以前より格段に上達しているな…俺の出る幕はないんじゃないか?これは。」


「自分でも思っていた以上に出来ました。あまりにも一方的なので、ちょっと申し訳ない気がしますが…。」


「こいつらが喰い散らかした冒険者や商人の数と放置した場合の被害を考えれば、申し訳ないと思わない方がいい。」


「はい…」


「さあ、今のうちに翼竜の爪や角、肝や心臓を取っておくぞ。これらは、オーシマルに入った時に高く売れる。それに翼竜の血に誘われて草原赤犬や腐肉鳥がやってくる。さっさとやるぞ。」


「は、はい!」


 翼竜を捌くと言われても嫌な顔一つせず慣れない手つき翼竜の腹をずたずたに裂いているクゥーリィーを見て、ムタロウはクゥーリィーを保護して2年で随分とたくましくなったなと感嘆しつつ、一方で戦闘に於いてクゥーリィーに頼り切っている自分自身に焦りを感じていた。


「(このままでは、俺がクゥーリィーとラフェールの足手まといになるな。)」


 ムタロウはそう思い、同時に自己嫌悪に苛まれつつも、人間の性というか弱さというか安きに流れてしまい、全ての翼竜の討伐をクゥーリィーにさせてしまったのであった。





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