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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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オーシマルへ③

世界設定をしっかり決めてから書いた方が、勢いで書いている初期の頃より書きやすいですね。

セントコンドに到着してから1週間後、ムタロウ達はオーシマルに向け出発した。

オーシマルはセントコンドの西側に広がるウーマ砂漠の北にあるため、地元住民からイヴッウと呼ばれるラクダに似た動物を3頭購入し、移動のしやすさとアンデットの襲撃を極力避ける為に、ウーマ砂漠と大森林の境目を進んでいた。

 この方針は功を奏し、砂漠気候特有の寒暖差の激しさに悩まされず、また毎夜のアンデットの襲撃もなかったため、旅程は極めて順調であった。

 魔物の襲撃は無くはなかったが、ムタロウ、ラフェール、クゥーリィーと極めて強力な戦闘力を持つ冒険者であったため、このエリアで出没する魔物…砂漠蜥蜴や灰竜、砂漠狼などは脅威ではなく、駆逐は容易であり、彼らにとって丁度よい食料となっていた。

セントコンドからオーシマルに向かう街道は利用する人が少ないせいもあり、整備も行き届いておらず、荒れ果てていたが、何度かオーシマルからセントコンドに向かう冒険者もちらほらおり、その度にムタロウ達は彼らと周辺状況について情報交換をしていた。

 ムタロウ達がセントコンドを出発して8日程経った日の朝、すれ違った冒険者と情報交換をした際に、気になる話がムタロウの耳に舞い込んだ。

その冒険者は竜人族主体のパーティーであった。

 

「南から北上してくる人間族の冒険者一行とは珍しい。どちらからいらっしゃってのですか?」


その竜人族はセントコンドでムタロウ達に絡んできた者とは異なり、丁寧な物腰で話しかけてきた。


「セントコンドじゃよ。それにしてもお主らは竜人族のくせに人間族に対して随分と丁寧な言葉づかいで接してくるのぅ。」


「おい!ラフェール!失礼だろうが。」 


ムタロウが慌てて、ラフェールの発言を窘める。

見知らぬ地で余計なトラブルを起こすのをムタロウは避けたかったのだ。


「ははは。確かに我々竜人族は他種族を見下す者の割合が多いとは思いますが、全員がそうだという訳ではありませんよ。人間族だって色々いるでしょう?」


竜人族の剣士は、そういってラフェールの発言をやんわりと否定した。


「まったくその通りじゃ。失礼な物言いをしてしまい大変すまなかった。」


ラフェールが珍しく、心底申し訳なさそうに謝罪をしていたのを見て、ムタロウは少し意外に思った。ラフェールが自らの誤りを認める姿を見た事が無かったからだ。


「皆さんはどちらからいらっしゃったのですか? オーシマルですか?」


クゥーリィーが問いかけていた。

竜人族を近くで目の当たりにしたのは初めてだったので、クゥーリィーは彼らと話したかったのだ。


「人間族のお嬢さん、我々竜人族はオーシマルには立ち寄りません。あの町に行った竜人族は良くて奴隷、大抵はあそこにいるヌル族に嬲り殺されます。我々は、赤竜の砦から真っすぐセントコンドに向かっているのですよ。なかなかの長旅ですが。」


「すまん。竜人族とヌル族の間は何かこう…民族間の対立があるというのか?」


 竜人族の思わぬ返答に「しまった」とちょっとしたパニックに陥ったクゥーリィーに助け舟を出す形でムタロウが、竜人族の発言に対して質問を重ねた。


「そうですね。彼らは帝国による統一の前から我々竜人族を狩猟対象として見做して、竜人族の女や子供を攫っては、食料にしたり皮を防具にしたりしていたのです。このため、度々彼らとは民族間の紛争が起きていましてね…今でも竜人族はヌル族を民族の敵として見做す教育がされています。」


「なぜ、ヌル族はそんなことをするのだ?」


「彼らの歪んだ宗教解釈ですね。彼らは黄竜を信仰する民族ですが、魔人族の近隣種という事もあり気質的に強き者に近付きたいという欲求が強く…まぁ、この強き者は黄竜となりますが、黄竜の強さに近付く為には、竜種にまつわる物を身に着ける、取り入れるという思考に至るのですよ。」


「それは、ひょっとして竜種から分派した竜人族を取り入れる事で、自分の信仰する神に近付くという発想か?」


「まさにおっしゃる通りです。神に近くなりたいが故に、竜人族を狩るという発想が我々には全く理解できないのですが、そんな調子なので竜人族にとって彼らは不倶戴天の敵なのですよ。そんな連中の町であるオーシマルに我々が立ち寄れる訳がない。」


「確かに、それはその通りだな。しかし、セントコンドでもヌル族の話は聞いていたが、随分と極端な連中なのだな。」


「はい。彼らは長年に渡る刻印呪術と人間族との交配でその力を大分失ってはいますが、それでも極稀に先祖返りといいますか強力な魔導力と身体能力を持った個体が出てきて、そういった個体が集まって戦闘集団を作って、竜族や他の種族を襲っている者がいると聞きます。雷魔導を駆使するので厄介な事この上ないのですが、ナメコンド国の種族平等宣言のお陰で、このような輩を捕縛して、刻印呪術を施す事が出来ず、状況は深刻化しています。」


「ここでも矯正委員会の影響か…。」


 ムタロウは忌々しそうに呟いた。


「そうですね。矯正委員会の影響は我々竜人族も懸念しています。彼らがナメルス王との距離を縮め、平等主義を宣言された辺りから、豚種やヌル族といったおよそ社会性や協調性が無い種族、民族がのさばってきており、急速に治安が悪化しています。少なくとも我々の町である赤竜の砦では、ヌル族は無論の事、豚種が町に入る事も禁じています。」


「それを、前時代的だと啓蒙しようとする輩もいるのだろう?」


「はい。4年程前から矯正委員会のナンバー3であるデニー・ゴールドボールという者が我が町に度々訪れ、無知な若者を集めて説法会と称して啓蒙活動をしています。恐ろしいのは、彼が能力者であり、説法を受けた者のかなりの割合で思想汚染が進んでいるのです。おかげで、砦の門戸開放を訴える愚かな若者が増えているのです。」


「矯正委員会の最高幹部の連中は、皆それぞれ特殊能力を持っている。恐らくそのデニーという奴も、人の心に作用する能力を駆使しての事だろう。そういう精神攻撃は無知で世間知らずな若者に非常に効く。それは気を付けた方がいいな。」


「はい。精神汚染されていない若者をどうやって守るかが課題ですが…ところで、あなたたちはオーシマルに行くのですか? 話の流れからそのように聞こえますが。」


「ああ、そのつもりだ。しかし、なにぶん町の情報やらヌル族がどうなのかよく分かっていないからな。あなた達の話はとても貴重だ。」


「そうでしたか…ひとつ忠告と言ってはおこがましいですが、ヌル族の先祖返りと事を構えるのは極力避けた方がいいですよ。特に雷矢による攻撃は麻痺を伴うが故に全滅の確率が跳ね上がります。」


「ああ、それは承知している。そのために、クゥーリィーに水魔導の修練をさせていた。」


 ムタロウはクゥーリィーの顔を見やった。

 いきなり話題が自分の事になったので、クゥーリィーは何を言えばいいのか分らず、愛想笑いをしていた。


「お嬢さんは水魔導を使えるのですね。髪の毛の色で勝手に火魔導使いかと思ってしまいました。」


「い、いえ、仰る通り火魔導が主体なのですが、ムタロウに水魔導も修練しておけと言われていて…あまり水魔導は使ったことがないのです。」


「そうでしたか。失礼ですが、火魔導はどの程度使えるのですか?それから火の色は?」


「はい、使える火魔導は火柱で…火の色は白です。」


 クゥーリィーは目を上に向けて思い出す様に自分の使える火魔導を伝えた。


「なッ…」


 ここまで落ち着いた調子で喋っていた竜人族の剣士は、驚き声を裏返していた。


「失礼しました。私も大分長く生きているのですが、白の炎を出せる火魔導師は初めてでして…。白の炎を出せながら術は火柱迄となるとまだまだ発展途上ですね。」


「まあ、この子は魔導の修練を初めて2年ちょっとだからな。技術的な部分は言われる通り発展途上だ。」


「うちのクゥーリィーは天才じゃからの!天才!!」


「ちょっと! や、やめてください!」


 勝手に興奮し始めた二人に、クゥーリィーが真っ赤になってやめてくれと懇願していた。


「ははは。自分の子供の様な入れ込みようですね。しかし、その修行期間で白の炎を出せ、火柱まで出来るのは尋常ならざる才能である事は確かですね。」


「あ、ありがとうございますッ!」


 クゥーリィーは姿勢を正し、頭を地面にぶつけそうな勢いで何度も頭を下げていた。


「クゥーリィーさん、少しあなたの魔導を見せて貰えませんか? よろしいでしょうか…ええっと…」


 竜人族の剣士は、お互いに名前を聞かずに会話を続けていた事に気付き、どう呼んだらいいか困った顔をした。


「ああ、すまない。私はムタロウ。で、こっちの老婆がラフェールだ。」


「誰が老婆じゃ!ほんとに目の悪い奴じゃ…。」


「はは。こちらこそ失礼しました。私はスジ・ラウ。そして、こちらに控えている二人は

モンコウ・チヂとトーキ・チヂと言います。」


 スジの後ろでじっと黙っていたモンコウとトーキが軽く目礼をした。

 まだ若い竜人族の様であった。


「では、あちらに枯れ木がありますが、そこに…そうですね、火線を撃って貰えませんか?」


「は…はい。」


 クゥーリィーは返事をしながらムタロウの顔を伺った。

 クゥーリィーの視線に対してムタロウは黙って頷いたのを見て、クゥーリィーはスジが指定した枯れ木に対して火線を放った。


 ぱん


 という枯れ木が弾ける音が周囲にこだまし、その様子を見ていたスジ達は口をだらしなく開けて絶句していた。


「く…クゥーリィーさん…詠唱は? 詠唱はいつしたのですか?」


スジは信じられないものを見たという様子で、クゥーリィーに問いかけた。


「あ、はい。詠唱はしましたよ。「行ってください」って火蟲さんにお願いしました。」


スジ達は、クゥーリィーの言った事が俄かに信じられない様子で、暫くの間、思考停止している様であった。


「いや、あの…クゥーリィーさん。あなたは我が神、ムセリヌ様にお会いした方が良い…いや会うべきだ!オーシマルに立ち寄らず、赤竜の砦へ行き、我が兄、テカピカルに会ってムセリヌ様に会う為の手形を貰ってください!」


「話が見えないな。何をそんなに必死になっているのだ?」


「これは…申し訳ありません…実は3か月程前から魔導のバランスに変化が生じておりまして…つまりは、火・水・土・風とある魔導のうち、水魔導の力が弱まっているのです。」


「それはつまり、この世界の水蟲の数が減っているという事かの?」


ラフェールが真剣で質問を重ねてきた。


「はい。ラフェールさんの仰る通りでして、水魔導を得意とする我々の仲間が軒並み、水魔導の発現が出来なかったり、出来たとしても威力が大幅に落ちている者が続出しておりまして…これによってヌル族の襲撃に対処できない状況になっているのです。」


「水蟲の減少か…それは非常にまずい話じゃのう。」


「何がまずいのだ? ラフェール。」


「ふむ、以前にも話した通り、魔導というのは各元素の神の身体の一部である蟲の力を分けて貰う事で発動するものじゃが、その蟲の数が減っているという事は、神そのものに何か良からぬことがあったと考えるのが自然なのじゃよ。」


「それは、水の神の身に何かあったという事か?」


「今の段階では推測でしかないんじゃがな…そうでも考えないと、スジ殿の言われる事象の説明がつかないのじゃ。」


「神の身に何かあるとか、雲を掴む様な話でどうにもピンとこないものだな…。そもそも水の神ってのは、白竜の事だろう? 神の化身である白竜が病気でしにそうになるとか寿命を迎えるとかあるのか?」


「フーム…確かにちょっと考えにくいのぅ。いったい何が起きたのか想像がつかんのう。」


「それに、スジ殿が信仰している神は火の神であり火竜であるムセリヌだろう?なぜ水魔導の異変なのにムセリヌなのだ?」


 そう言ってムタロウはスジに視線を向けた。

 ムタロウの目にスジに対する猜疑の色が宿っていた。


「そ、それは…。」


「スジ殿、本当に申し訳ないのだが俺はこの世界に転移してから10年、何度も騙されたり利用されたりして辛酸を舐めてきた。そのため自分の心に引っ掛かりが生じた時は、自分の感覚を信じる事にしている。」


「……。」


「あなたは俺たちを嵌めるといった悪意が無い事は伝わるが、かといってクゥーリィーの能力を見てから整合性のない話の展開で赤竜に会わせようとしているのは俺的に気持ち悪い。様々な助言を頂いておきながら、こんなことを言うのは心苦しいが俺たちは当初の予定通りオーシマルに向かおうと思う。」


「……わかりました。」


スジの目には後悔の色が浮かんでいた。

ムタロウの指摘に対してムタロウを納得させるだけの合理的な理由が浮かばなかったのだ。


「すまなかったな。しかし、赤竜の砦にはオーシマルを訪問した後、必ず行こうと考えている。赤竜に会うのがそもそもの旅の目的だからな。その際はあなたの兄上であるテカピカルの下を訪れよう。あなたの名前を出して。」


「ぜ、是非よろしくお願いします。兄にはその旨、申し伝えておきますので。」


そう言ってムタロウはスジと別れた。

ムタロウはイヴッウを曳きながらヌル族と竜人族の関係について考え、なんとも言えない気持ち悪いものを感じているのであった。




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