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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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オーシマルへ②

 ポルン夫妻はオーシマルに向かうと聞いて、表情を曇らせた。


「ムタロウさん、オーシマルに行くならば少なくともデルンデスさんは連れて行かない方がいい。あそこは危険だ。」


「なんで俺が行くと危険なんだよ?」


 デルンデスがむっとしてブッカに詰問した。


「気を悪くされたならば大変申し訳ありません。しかし、失礼ですが、皆さんはオーシマルがどういう町かよくご存じないのではないでしょうか。」


 デルンデスが気を悪くしたのを見て、ブッカは慌てて詫びを入れた。


「いや、確かに俺たち…少なくとも俺はオーシマルがどんな町であるかよく分かっていない。もしよければ、俺たちにオーシマルについて知っている事を教えてもらえないか?」


 これまでムタロウが滞在していた土地はナメコンドでも比較的安定した地域であり、その町や周辺地域の持つ事情を気にした事はなかったが、セントコンドの事前調査を経て、周辺情報の事前取得が非常に重要である事を認識していた。


「はい、オーシマルは、元々町の成り立ちがヌル族によって出来た町であるという事を理解しないといけません。」


「ヌル族? 人間族ですか? それとも他種族?」


 クゥーリィーは初めて聞く種族の名に興味津々だった。


「ヌル族はコンドリアン帝国がコンドリアン大陸を統一する前…つまりは大陸暦が始まる前からいた種族で、魔人族が人間族に近い方に分化した種族と言われています。」


「魔人族に亜種が居たとはのう…初めて聞いたわい。」


「はい。いくら人間族に近い方向に分化したとはいえ、元は魔人族。魔導力や身体能力は人間族のそれよりも高く、個々が強力な兵士となるため、コンドリアン帝国も彼らを降伏させる過程で多大な犠牲を払ったと言われています。」


 ムタロウはイーブクロで襲撃されたテカールという魔人族の事を思い出していた。

 テカールは戦闘経験が浅く、各種能力も魔人族としてみれば低かった為、何とか退ける事が出来たが、あのレベルでも集団でこられたら非常に厄介である事は容易に想像がついた。


「ですので、帝国は統一後、ヌル族をウーマ砂漠に一か所に集め、徹底した軍事的管理の下で統治しました。それが今のオーシマルなのです。」


「しかし、そんな一人一人が強力な民族なのに、一つの町に閉じ込めたら却って危険じゃないか?どうやって統治したんだ?」


 先程までむくれていたデルンデスが、オーシマルの成り立ちを聞いている内に好奇心が勝ってしまったようで、興味深々に口を挟んできた。


「帝国にとってヌル族の厄介な所は、高いバランスでの身体能力と魔導力です。特に、彼らは伝統的に黄竜を信奉する民族である為、土魔導に長けたものが多く、土魔導の一つである電光を掛けたヌル族は、その名の通り目で追えない速さを手に入れ、手がつけられなかったそうです。」


「元々高い身体能力の者が電光を使って身体速度を上げてくるとなると非常に厄介だな。一騎当千も例えではなくなってくる。」


 土魔導は雷魔導とも言われ、雷の神オルガの雷蟲のお裾分けによって発現される魔導である。ポルンが口にした電光は中級魔導であり、対象に当該魔導を当てる事で対象の動作・反応速度を向上させるものであった。

 魔人族の亜種であるヌル族はポルンの言う通り、一般の人間族よりも身体能力が高い上、更に電光の魔導で動作・反応速度を高めた場合、相手にとって脅威以外の何物でもなかった。


「そのため、帝国はヌル族に魔封と力封の刻印呪術を体中に刻みつけ、彼らを無力化したのです。そして、あとは人間族をオーシマルに入植させ、交配し、少しずつ民族の特性を薄めて今に至っています。」


「ほほぅ…なかなかえげつない事をしていたのじゃのう。」


「帝国の悪行の一つといってもいいな。それは。」


 ラフェールとムタロウは集団の非人道的な振る舞いに呻いた。

 どんなに一人一人がいい人だったとしても、国家という集合体になった時、その民族の持つ特性というものが出るのだろうかと、ムタロウは考えた。


「その話を伺っていますと、今のヌル族は弱体化していて無害な人たちになったという事ですか? それならば、別にデルンデスさんは行かない方がいいという話と整合がつかないのですが。」


 クゥーリィーはちょっと言葉遣いをがんばって、ポルンに質問した。

 ムタロウを驚かせたいと思い、ムタロウ達のやり取りに入る為、一生懸命考えていたのだ。


「クゥーリィー、お前随分と大人びた言い方をするじゃないか。」


 クゥーリィーの狙い通り、ムタロウが驚いてクゥーリィーの事を褒めてきたので、クゥーリィーは「えへへ」とはにかんでいた。

 そんな二人のやり取りを見て、ポルンは


「(あらあら)」


 と内心思いながら、声には出さず、クゥーリィーの質問に答えた。


「確かに、刻印呪術と長い年月をかけた人間族との交配でヌル族は弱体化しましたが、その攻撃的な気質はそのままです。そして、オーシマルはこれといった産業もなく非常に貧しい町であるため、傭兵訓練場や戦闘訓練、傭兵部隊を組んで他国の紛争に出稼ぎに行くといった輩の多い町です。」


「あ、身体的なものは弱体化しても気質はそのままなんですね。」


「そうです。その好戦的な気質と慢性的な貧困は、彼らにより一層力への信奉を強める結果をもたらしまして、結果、余所者は余程の強者でない限り、町に入るや否や、町の人間に襲われて身包み剥がされるのがオチです。」


「つまり、ポルンが言いたいのは、戦闘経験のないデルンデスがオーシマル入りするとかなりの確率で強盗に遭うという事を言いたいのだな?」


「平たく言えばそうなります。」

「と、なるとセントブクロの時と同じく俺たちが先にオーシマルに出向いて町の状況を確認してから、問題なければデルンデスも来るとすればいいな?無論その時は俺たちが護衛につくのが前提だが。」


「まあ、それならば納得だ。先ず優先すべきは身の安全だからな…しかし、オーシマルが貧しい町とは言え、戦闘訓練場や傭兵関連の施設が多いならば、イーブクロのポーションの需要もあるだろうから、やはり販売先の拡大はしたい。頼むわ。」


「こちらもボランティアではないから、同行の際は護衛料を取るぞ。」


「いちいち確認を取るか? これまで支払いを欠かせた事は無いじゃないか。」


「話がまとまった様で良かったです。そういえば出発はいつ頃をお考えでしたか?」


「今の処1週間後くらいにここを出発しようかと思っている。」


「分かりました。私たちとしてもムタロウさんの行動が解呪の手がかりである事は理解しておりますので、お代は勉強させていただきます。我が家の様に寛いでくださいね。」


「ああ、言葉に甘えさせてもらおう…ところで、クゥーリィー。」


「はい。なんでしょう?」


「お前は水魔導をどれくらい使えるのだ?」


「あ、はい。水魔法は、その…あまり得意ではなくて水盾しかできません。」


 クゥーリィーは答えにくいのか、ムタロウと目を合わさずにもじもじと答えた。


「水盾が出来るならば十分だ。その様子だと火魔導ばかり使っていたのだろうから、この1週間、学校で貰った魔導書で水魔導の練習もするように。」


 ムタロウは、笑いながらクゥーリィーに指示を出した。


「は、はいっ!」


 怒られるかと思って縮こまっていたクィーリィーはムタロウの様子を見て安堵し、元気よく返事をしていた。

そんなクゥーリィーの様子を見て、ポルンは再び


「あらあら。」


 と思うのであった。




仕事が異様に忙しくて、なかなか書けませんでした。

設定の整理は時間見つけてやっているので、落ち着いたらまた更新頻度をあげたいなあと思っています。

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