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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
44/89

敗者のその後③

長くてすいません。

話を区切れませんでした。

 3月になった。

 ムタロウ達がいるナメコンドであれば、春の訪れをそこかしこに感じる事が出来る時期であったが、ペロシが軟禁されているデンマでは未だ厳冬期にあり、春の訪れを感じるには、もう少し時間を要した。

 カタイ・コンドの北部辺境に位置するデンマは漁業を主産業とする町であり、海に出られない冬の間は、ルーナ海沿岸に生息するイックというアザラシに似た海生生物や北カマグラ山脈に生息するキョーンという大型の鹿に似た獣を狩猟していた。

 イックは冬場の貴重なタンパク源として食用とし、キョーンは食用は無論の事、食肉加工の過程で剥いだ毛皮を交易品として売買するなどして冬の生計を立てていた。

 こんな調子である為、ただでさえ外部の人々との行き来が少ないデンマは厳冬期になると外部の人との交易が無い閉ざされた町となっていた。

 そんなある日の夜、北カマグラ山脈の裾野からデンマに向けて進んでいる集団があった。

 その集団は闇夜の中で目を赤く光らせ、口から洩れるフゴーという荒々しい呼吸音からも暴力的な雰囲気を漂わせていた。

 この日は北風が強く、夕方から吹雪いていた事もあって、デンマの人々は家の中に籠り、吹雪の夜をやり過ごしていた。

 そんな荒天にも関わらず、赤い眼の集団は吹雪をものともせず歩を進めていた。

 彼らの腰には刃元から刃末まで60センチはあろう戦斧が下げられており、その漂わす空気感と相まって彼らの行く先で何が起こるか容易に想像が出来た。

 少なくともデンマにとって招かれる客である事は間違いなかった。


 「止まるダニ。ギョリンダニ。」


 赤い眼の集団の先頭の者が、行軍を止める様、指示を出した。

 集団は歩みを止めると共に、魚鱗の陣形を取った。


 「ゆっくりと進むダニ」


 集団は、魚鱗の陣形を維持したままじりじりと前に進んでいった。

 風は強まり、視界はなお一層悪くなっていったが、集団が歩を進めていくにつれ、影は形作っていった。

 それはしゅうしゅうと呼吸音をたて、赤い眼の集団を青く光る眼で睨みつけていた。

 白竜であった。

 竜はカマグラ山脈を生息地としているが、北カマグラ山脈は白竜のテリトリであった。


「攻めるダニ!」


 わあっと赤い眼の集団が白竜に向けて突進する。

 突進しながら、腰の戦斧を手に取り、片手に木製の盾を取って白竜に斬りつけていた。

 白竜は、口から白い息を横一文字に吐き出した。

 冷息(コールドブレス)であった。

 冷息(コールドブレス)は、水魔導の冷壁に相当する強力な範囲攻撃であった。

 冷息(コールドブレス)を直撃した者は、瞬時に凍結して絶命した。

 盾で防御した者もいたが、防御しそこなって戦斧に冷息が当たった者は腕が凍結して戦闘能力を失っていた。

 赤い眼の集団は、白竜の驚異的な攻撃力に苦戦しながらも数の力でどうにか何人かが竜の懐に飛び込み、渾身の一撃を白竜に与えていた。


「首ダニ!竜の首を狙うダニ!ブレスを出せなくするダニ!」

 

 大将らしき者が大声で指示を与えると、赤い集団は再度数による飽和攻撃を試みた。

 冷息(コールドブレス)と尻尾による薙ぎ払いで致命傷を負う者も多数いたが、彼らの命を賭した捨て身の攻撃により、白竜のダメージも蓄積しているようであった。


「俺がやるダニ!」


 先刻、部下に対して指示をしていた大将らしき者は右手に持っていた戦斧を白竜の首目掛け投げ放った。

 ぶんぶんと風切り音を発しながら白竜目掛け飛んでいった戦斧は白竜の喉を切り裂いた。グギャーアという金切り声とも悲鳴ともつかない鳴き声を発すると、怒りで燃えさかる眼で大将らしき者をひと睨みした後、翼を広げるや否や、南の空へ飛び去って行った。


「逃げたダニ。白竜、逃げたダニ。」


 わあっという歓声が沸き上がる。

 赤竜と並ぶ上位竜種である白竜との遭遇戦で生き残ったのである。

 全滅してもおかしくない強敵を退けた事によって赤い眼の集団の士気は大いに上がった。

 100騎の集団は白竜との交戦で30騎に減っていた。

 それでも白竜を相手にして70騎を失っただけで済んだのは僥倖と言えた。


「オレタチは、やれるダニ!竜族すら倒せる最強の軍団ダニ!進むダニ!」


 赤い眼の集団の大将格が叫ぶと、集団は「応!」という掛け声と共に再び縦列となりデンマへと進んでいった。


◇◇


 翌朝、大荒れだった前日とは打って変わってデンマ周辺は穏やかな晴天であった。

 町の人々は久しぶりの太陽を有難がり、女はここぞとばかりに洗濯物を外に干し、食材の購入の為に店に足を運び、男たちはイックやキョーンの狩猟の為、町を出ていた。


 子供たちは久しぶりの晴天にはしゃぎ、近所の友達と広場の小山で滑るのだとたらいを持って走っていった。 それを見ていた母親達は、勝手に家の物を持ち出して遊び道具に使うなと大声をあげるが、その目は穏やかであった。


「……?」


 子供たちが走っている先に、縦列で歩いている30人程の集団が現れたのが見えた。

 子供たちは滅多に来ない他所からの訪問者に好奇心を働かせ、やってくる集団に向かって走って行く。


「……!」


 子供たちが集団に近寄った時、集団に一番近くまで近寄った子供の身体が3メートル程上に飛びあがっていた。

 次に集団に近付いていた子供は、首を切断され、噴水の様に血を噴き出していた。


 こめかみに両手を当て、言葉にならない悲鳴をあげる者、子供の名を叫びながら子供を助けに駆け出す者、何が起こったのか現状認識出来ず立ち尽くしている者と町は穏やかな日常から一転して恐慌状態となっていた。

 その間にも赤い眼の集団は前進して、手あたり次第に辺りの人を戦斧で頭を叩き割り、首を刈と虐殺を始めていた。

 町の様子がおかしいと戻ってきた男達は、赤い眼を持った豚種によって、町が血の海になっていたのを見て激高した。


「何してやがんだあぁあああ!」


 男たちは生まれて初めて豚種を目にしていた。

 豚種がどのような連中であるか知らなかったが、デンマの町の脅威である事は明々白々であった。

 男たちは、イックの捕獲の為に所持していた銛を以て、飛び掛かった。

 しかし、豚種達は手に持った木製の盾で銛を受けた上で、戦斧で男達の頭を次々と割っていった。

 戦闘訓練を受けた事のない一般人が叶う相手ではなかった。

 豚種は男たちを叩き殺した後、家を一軒一軒まわり、女が居れば外に引き摺り出し、犯してから殺し、男であったら問答無用に戦斧で叩き割っていた。


「おい!お前ラ!女ヲ犯すのハ後にシロ! ここにいる連中ヲ皆殺しにしタ上で、あの塔に居る連中ヲ晒せ!」


 折角の楽しみをお預けされた豚種達は腹いせに犯し損なった女の背中を戦斧で何度も叩きつけ女を惨殺するとぞろぞろとデンマの塔へ向かい始めた。


 ペロシ達も町の異変は察知していた。

 給仕たちは、塔の入り口を閉め、豚種が塔内への侵入してくるのを防ぐ為閂を施した。


「なんだあれは…? 戦闘統制がとれた豚種など聞いたことが無いぞ。」


 塔の窓から惨状の見ていたペロシは男たちを屠っていた豚種の動きを見て驚愕した。

 豚種の動きには無駄が無く、効率的に人を殺していた。

 豚種達が塔に向かって進んでいるのを確信すると、ペロシは自室を出て給仕を呼んでいた。


「おい、この塔に武器は無いのか? 剣じゃなくてもいい。ナイフでも構わん!」


 いくら塔の入り口を閂で固めても門が破られ塔内へ豚種の侵入を許すのは時間の問題であった。また、このような辺境で人の行き来も殆ど無い町に、ハタテからの迅速な救援が来る事は期待できなかった。


「申し訳ありません。御屋形様のご命令でこの塔には武器の類の所持は禁じられていて…。」


 状況は最悪であった。

 武器が無いとなると、豚から戦斧を奪う他ない。

 王都の飲食街で屯っている豚種ならば、どうにかなるが、相手は戦闘訓練を積んだ豚種であり、一騎を倒すのも難儀する事が予想されている中、そんなの豚種を一人で二十~三十騎を相手すると考えると心が折れそうになった。


 どんどんどんどん!


 塔の入口を激しく叩く音が聞こえた。


「頼む!入れてくれ!助けてくれ!」


豚 種から逃げてきた町の住民が我先と塔に押し寄せ泣き叫んでいた。


「せめて子供だけでも助けてやってくれ! 頼む!子供だけでも!」


「うわっ…ああ、たっ…助け…ぎゃあっ!」


「ぐぶっ…」


「痛い!痛い!痛い!」


 塔にやってきた豚種は、塔の前に集まる人間の存在を認めると、戦斧を無造作に振るって人々を殺戮し始めた。

 人々は豚種から必死になって逃げまどい、豚種は逃げまどう人間を追い掛け、戦斧を振るい死体の山を積み上げていった


「この扉をこじ開けるダニ!」


 豚種軍団の大将が、命令をすると、町の人の虐殺を愉しんでいた豚種はくるりと方向転換し塔の扉に体当たりを始めた。

 豚の身体が扉に当たる度に、木製の扉は歪み、閂はガタンと跳ね上がった。

 あまりにも絶望的な状況にペロシは自分の心が折れ始めている事を自覚していた。


「俺の命運もここまでか…最後はブタに嬲り殺されるなんてなァ…。糞みてェな人生だ。」


 ムタロウという野剣士に敗北して以来、衆人環視の下で醜態を晒し、本国に戻れば辺境の町に軟禁され、軟禁先で配下の者に愚かさを責め立てられた上で、最後は豚に殺される。

 思えば、何と惨めな人生なのかとペロシは思った。

 もうどうでもいいと思った時だった。


「やはり、あなたは成長していませんね。」


 ペロシが振り向くと、そこにはニュリンが立っていた。

 ニュリンはペロシを睨みつけていた。

 ニュリンが怒っている事は分かったが、何故ニュリンが怒っているのか理解出来なかった。


「ここに来てから呪術について調べていたのではないのですか?」


 ニュリンが唐突に呪術について言い出したのでペロシは困惑した。


「知識は使ってこそ意味を成すのですよ! それが何故分からないのですか!」


「知識は使って……あッ!」


 ペロシはニュリンの言わんとしている事を理解した。

 しかし、ペロシは自分が頭に思い描いた事を口に出す事が出来ず、黙り込んでしまった。


「そうです。解呪すれば、豚達を殲滅出来ます。」


「ニュリン、それは無理だ。ここには医師もいなければ治癒師もいない。解呪は出来ない!」


「医師がいなければ刃物を使える人間がやればいいし、治癒師がいなければ貴方が取り寄せたポーションがあるじゃないですか。」


 「ペロシ、お前がやれ!」とニュリンは暗に言っていた。


「俺の腕では紋様を綺麗に剥げない…お前に与えるダメージは相当だし、ポーションでは剥いだ背中の再生は無理だ…俺には出来ない。」


 ペロシは声を震わせてニュリンの提案を拒否した。


「うるさい! 私はお前が私の背中を剥げと言っているんだ!私を魔導師として死なせず、豚の性欲を満たしてから死ねと言うのか?」


「……ッ!」


「どこまで傲慢で卑怯な男なのだ、ペロシ!私を巻き込んだ責任を今ここで取れ!私を魔導師に戻せ!」


 塔の外で豚種達が扉に体当たりしている音が響いていた。

 断続的に響く衝撃音が、検討している時間が残り少ない事を暗に示していた。


「……分かった。ニュリン、今すぐ俺の部屋に来い。」


◇◇


「ニュリン、この布を口に咥えていろ。痛みで苦しむ声を聞くと決意が鈍る。」


「……はい。」


「それと、患部にぶっかけるポーションは気休めだ。肉の再生は殆ど無いと思ってくれ。精々、痛みが和らぐだけだ。」


 ペロシは医師や治癒師がおらずとも解呪が出来ないか検討し、自らの身体を使い削った肉へポーションを直接掛け、効果を検証していた。

 検証の結果、町で販売されている一般的なポーションでは痛み止め以外の効果は見込めなかった事を知っての発言だった。


「ニュリン、俺は出来るだけ迅速にこの包丁を使ってお前の背中に刻まれている紋様を剥がす…剥がし終わったら、直ぐに塔の前の集まっている豚共を火柱で殲滅しろ。」


「……はい。」


「残った豚は俺が全て殺す。それで終わりだ。作戦の成否は全てお前に掛かっている。自分から解呪を言い出したのだ。痛みで気絶して出来ませんでした…は許さん。」


「はい…ふふっ」


「何だ? 何がおかしいのだ?」


「やっと、昔の自己中心的で人の気持ちを考えずにモノを言うペロシ様に戻りましたね。最近は会うたびに反省しているとか、お前の為にとか、正直、気持ち悪かったですよ。」


「う、うるさい! お前が散々俺の事を責めるものだから…。」


「ありがとうございます。…では、始めてください。」


 ニュリンは服を脱いで半裸になり床にうつ伏せになった。

 布を口に突っ込み、激痛で声が出ないように口を塞いだ。

 ペロシは、目を瞑り、深く深呼吸をしてかっと目を見開き、包丁の刃をニュリンの背中に当てた。


◇◇


 デンマの塔は人成らざる者が発する唸り声と暴れ回る音が響き渡っていた

 それは生き残る為に足掻く修羅達の狂宴会であった。

 狂宴の奏者であるペロシはニュリンという楽器の背中を包丁で削り続け、ニュリンという楽器はこめかみに青筋を立て、体中から脂汗を噴きだし、鼻と目から血を流し、そして、人外の唸り声をあげていた。

 ニュリンの口に突っ込まれていた布は、溢れ出る涎を吸い込んでびしゃびしゃとなり、吸収しきれなくなった涎は雫を作っては床に垂れていた為、床は涎の水たまりが出来ていた。

 ニュリンは背中を削られる激痛で失禁、脱糞し、そして失神していた。

 ペロシは皮を剥がされ血塗れになっているニュリンの背中にポーションをぶっかけ、傷口にポーションが浸み込む激痛で無理矢理ニュリンを覚醒させた。


「よく頑張ったな、ニュリン。」


 ペロシは無理矢理笑顔を作ってペロシを労おうとしたが失敗し、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。

 ペロシの目尻、眉間、小鼻の脇は狂宴のもう一人の主役を務めた際に出来た皺が深く刻まれ、墨汁で塗ったかの様であった黒髪は灰色に変色していた。

 ニュリンは激痛で意識が飛びそうになる処を、意志の力で踏みとどまりながら、ペロシの顔を見てぽつりと言葉を発した。


「随分と…変わりましたね。」


「余計な声を出すな。ポーションをぶっかけながら移動するぞ?歩けるか?」


「は、はい…。」


 二人は窓側に移動した。

 ニュリンは背中の肉を剥がされた際の激痛と出血で酷く衰弱しており、自力で歩けずペロシがニュリンを引き摺っていった。

 豚種達はと言うと、相変わらず閂で閉鎖された扉をこじ開けようと馬鹿の一つ覚えの様に代わる代わる体当たりを繰り返していた。

 非効率である事この上無い作業であったのだが、豚種達は既に勝利を確信しており、抵抗活動も脅威ではないと考えている様だった。


「ニュリン…やれるか?」


「はい…。」


 ニュリンは静かに目を閉じ詠唱を開始した。


「この世の炎の神でありまた炎の王である炎神ムセリヌよ、この塔のもとに集う忌まわしき獣たちに裁きの柱を穿ち、消し去り給へ……」


 ニュリンの目尻から涙が零れた。涙はニュリンの頬をつたい、雫となって床に落ちるや否や、デンマの塔に集まっていた豚種の周囲半径20メートルに紋様が発現し、炎の柱が天に向かって噴き上がっていた。

 炎の柱は200メートルの高さまで噴き上がり火柱に呑まれた豚種達は超高熱の炎に焼かれこの世から消えてなくなっていた。

 直撃を免れた豚種も手足を焼かれた者、瞬間的に火炎に晒され大火傷を負ったものが多く、30騎居た豚種の内、無傷でいられた者は二騎程しかおらず壊滅状態であった。

 ペロシは生き残った豚種を確認すると直ちに塔の階段を飛び降り、扉の閂を抜いて塔の外に飛び出し、瀕死の豚種から戦斧を奪い取って二騎の豚種の首を撥ね飛ばした。

 残りの豚種は抵抗能力がない為、拘束した上で今回の襲撃の意図を吐かせようと思ったが、妻や子を理不尽に奪われた人々が、次々に生き残った豚種に襲い掛かっており、豚種は全て肉塊に変わっていた。

 豚種を殲滅した事を確認すると、ペロシは塔に戻りニュリンの下に駆け寄った。

 ニュリンは既に虫の息であり、目は開いてはいるものの、焦点は定まっておらず虚空を見つめていた。


「ニュリン…終わったよ。お前の火柱で豚共を全部殺したよ。」


 ペロシの声を聞いたニュリンは微笑を浮かべ、そのまま息を引き取った。

 ニュリンの最期を看取り、ペロシは声をあげて泣いていた。

 いつまでも泣いていた。


◇◇


 豚種の集団によるデンマ襲撃事件から11日が過ぎた頃、デンマでは豚種に殺された人々の合同の葬儀が開かれていた。

 葬儀には、バキムと息子達、そしてタマリンも出席した。

 ペロシは軟禁を解かれ、領主であるカップ家の人間として出席していた。

 王族である他の二家…シュイン家とインカク家も当主の名代が葬式に出席していた。


 バキムからは遺族に対して十分な補償を約束し、両親を殺され孤児となった子供たちはハタテにある孤児院に入り、成人まで十分な教育と生活保護を施す事を宣言した。

 町の危機を救ったニュリンは、名誉回復の宣言のち、2級魔導師から名誉上級魔導師の称号を与えられ、ニュリンの生家であるカイデ家には恩賞が施される事となった。

 そして、ペロシは、父であり、カップ家当主であるバキム・カップに呼ばれ、葬儀に出席している人々の前で今回の件についての沙汰を受けていた。


「ペロシ・カップ!」


「はッ!」


「其方はデンマの塔に軟禁されている処、豚種に襲われたにも関わらず、徒手空拳で豚種に立ち向かい、これを斃しデンマの町の危機を救った事、賞賛に値する。」


「はッ!ありがとうございます。」


「よって、其方の功績を鑑み、軟禁を解く事とし、また、ニョドン騎士団への復帰も許可する!」


「御屋形様!恐れながらよろしいでしょうか。」


「よい、申せ。」


「今回、デンマの罪のない人々の命、そして、英雄 ニュリン・カイデを失ったことは、全て私の軽率な言動・行動が遠因であると考えます。私は、自分だけが生き残り、私の行動が原因で名誉を貶めてしまったニョドン騎士団への復帰はカタイ・コンドの威信を考えると、決して良い判断ではないと考えます。」


ニュリンの死は兎も角、デンマの人々が豚種に虐殺された事はペロシが原因ではないのだが、ペロシは全ての原因は自分であると強弁した。


「ほう…儂の配慮は間違っていると申すか!ペロシ!」


「はッ、誠に恐れながら間違っていると愚考します!」


「ならば、どういう処置をすれば国は納得すると思うのか其方の考えを訊かせろ!」


「は、簡単でございます。私からカップの名を剝奪し、一生、その顔を外では見せない様に命令をして下さい! 私はカップ家ゆかりの者と死ぬまで主張しません。」


「…。」


「その代わり、外を自由に歩く権利を頂きたく存じます。それだけで私は十分です。」


「お前の望んでいる事はカップ家の後ろ盾を無くし、一人で生きていくという事だが、それで良いのだな?茨の道だぞ。」


「承知の上です。私はその道を歩かなければなりません。」


「……分かった。カップの名を捨てると言うのならば、最後に父として其方の第二の人生を歩む上で名を与えたいと思うが、よろしいか?」


「…ありがとうございます。父上。」


「…お前は今日から、灰騎士(グレーナイト)を名乗れ。灰の仮面は後日、使者を通じて渡しておく。その仮面を着けたとの時から、お前はカップ家の人間ではない。勝手にどこにでも行くが良い。」


「…はッ!ありがとうございます。」


「これで、葬式の儀は終わりとする。皆、儂の宣言に従い、直ちに町の復興に当たれい!」


◇◇


 葬儀が終わり、バキム達がハタテに帰った後、ペロシは約束の仮面が届く迄の間、滞在を許された。

 ニュリンの遺体はハタテにあるカイデ家一族の墓に埋葬されるとの事だった。

 ペロシは遺体が引き取られる前に、ニュリンが手首に巻き付けていた犠牲のアミュレットを取り、自らの首にぶら下げた。


「解呪をすると言ったが、こんな形で果たすとはなァ…」


 ペロシはニュリンが最後に微笑を浮かべていた事を思い出していた。

 多分、自分のやった事は正しかったのだろうと、思い込む事にした。


 ハタテの父から仮面が届けば、ペロシの人生は終わり、灰騎士(グレーナイト)としての人生が始まる。

 その時、ペロシは何を目指して生きていけば良いのか分らなかった。

 ムタロウとの再戦など、もうどうでもよかった。


「まァ、それはおいおい考えていけば良いか。俺は賢くないからな。」


 ペロシは、そう言い、旅の準備を始めたのだった。


この話を出し切れてとても満足してます。

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