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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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外出②

ブクロの町の中央を貫くブクロウ通り。

ここはブクロのでも富裕層が住居を構えるエリアであった。

その中でもひと際目につく…木造の住宅が並ぶ中、明らかに周りの雰囲気にそぐわない趣味の悪い派手な石造りの邸宅…コンジローの邸宅の前でムタロウとラフェールはいた。


「おい。」


「なんじゃ?」


「この町、以前に比べて豚が増えていないか?」


「そうじゃのぅ。確かに増えているのぅ。」


ムタロウは2年程前にブクロの町に流れ着いた。

何の特徴もない辺境の田舎町であったブクロは、獣人族が殆どいない町であった。

面白味の無い町ではあったが治安もよく、住民はムタロウの様な余所者に対しても良い意味で無関心で、ムタロウにとって居心地の良い町であった。

ムタロウはブクロを気に入っていた。

しかし、この半年で獣人族…豚種の流入が目立つようになり、豚種を目にする頻度が増えると共に治安も目に見えて悪化していった。


ムタロウは豚種を嫌悪していた。


強欲で不潔、そしてずる賢い。

彼らは強いものにはへつらい、弱いものには徹底的に残忍であった。

そんな種族が、ブクロに入り込めばどうなるか、火を見るよりも明らかであった。


「何とかならないのか?」


ムタロウは吐き捨てる様にラフェールに問うた。

「そうじゃのぅ。こいつら皆ぶち殺してしまえば早いのだが、あとがめんどくさいからのぅ…」


ラフェールはぼそりと呟いたのち、すぅっと深呼吸をしてからおもむろに。。。


「コンジローどの!ラフェールですぞ!きましたぞ!!!」


ラフェールは大声を出して、コンジローを呼び出し始めた。


「お前はガキか?うるせえんだ!!!」

不意を突かれたムタロウは、ラフェールに文句を言った。


「何を言うか!ならば、どうやってコンジローどのを呼べばいいのじゃ!文句ばかりでロクに対案も出せない莫迦は黙っているのじゃ!」


二人が小競り合いをしている間に、邸宅の玄関の門が開き、黒づくめの中年の男が邸宅から姿を現した。


「いらっしゃいませ。ラフェールさま、ムタロウさま。ご主人がお待ちしておりました。」


男はコンジローの邸宅で働く執事であった。


「お入りください。」


二人の小競り合いなど無視して、二人を邸宅に招き入れた。


◇◇


「よくぞ来てくださった。お二方!」


コンジローは「都会かぶれ」の評判よろしく、ナメコンド国内で評判の服・銘品・アクセサリーで固めた典型的な田舎の成金中年の出で立ちであった。

田舎者の金持ちにありがちな世間の評価が高く、かつ、値段が高いものに対して思慮なく価値のあるものと考える男であった。

「(相変わらず醜い猿だ…そして、もう一人も無銘の剣をぶら下げて如何にも貧乏そうで冴えないな。)」

コンジローは目の前にいる二人の品定めを行い、用件を話して早々に追い出そうと考えた。


「来ていただいて早々に申し訳ないのだが、二人が腕が立ち、なおかつ口が堅い事を見込んで頼みがある。」


「なんでしょうかのぅ。コンジローどの。」


「わが娘、クゥーリィーが豚種に攫われている。何とか表沙汰にならずに娘を助けてくれまいか。そして、クゥーリィーを攫った豚種を処分して欲しい。」


「ほう、『処分』ですか。随分と豚種を見下した物言いですのぅ。」


ラフェールが(お前大丈夫か?)といった表情をしながら返答する。


「そうなのだ。知っての通り、わがナメコンドではナメルス王が定めた種族平等法令によって、他種族に対する差別行為・発言は禁じられているが、豚種はそれを逆手に取ってやりたい放題だ。奴らは人様のものを奪い、性別年齢関係なく犯すただの獣だ。種族というのもおこがましい。」


ムタロウの表情が曇った。

コンジローの言いたい事が痛い程理解できたのだ。


ナメコンドのナメルス20世は今から5年前、突如、「この世に生きる種族に上下はない」と宣言し、種族平等法令を公布・施行した。

この法令はナメコンドの大多数を占める人間族が獣人族を始めとする他種族に対して、差別的と認定される言動・運動・出版等を行うと厳罰に処されるというものであった。

しかも、差別的言動・運動・出版を判断するのは人間族を除く他種族で構成される「矯正委員会」が決めるという極めておかしなものであった。

矯正委員会の権限は絶大であり、同委員会によって逮捕・拘留されたもの、拘束時に殺害された者、財産を没収された者と多数いるために、他種族…特に獣人族(豚種)の乱暴狼藉を見て見ぬふりを強いられる状況になっていた。


つまり、クゥーリィーの救出が首尾良く上手くいっても、実行犯の豚種を全員処分…殺さない限り、生き残った豚種によって矯正委員会の知る事になり、コンジローの立場は極めて危うくなるという事を意味していた。


「金は惜しまない。50万ニペスは出す!」


命の値段が安いナメコンドで50万ニペスは破格の報酬額であった。

クゥーリィーの値段というよりはコンジローの未来の価格とも言えるが…。


「…わかった。やろう。」


ムタロウは静かに答えた。


「ひひ。言った通りじゃろぅ?デカいじゃろう?硬いじゃろう?」


ラフェールは歯茎と前歯を剝き出しにして、ムタロウの股間を触ろうとしてくる。


「詳しい話を聞かせてほしい。豚共はどこにいるのか知ってる情報を頼む。」


ムタロウはラフェールの手をぴしゃりと払いのけつつ、コンジローに詳細内容を問うのであった。

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