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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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事前調査依頼

仕事が忙しくてなかなか書けません。

 ムタロウ達はキュアの私刑を実行したのち、ノーブクロに帰還した。

 赤竜のうろこを目指す旅はあくまでも翌年の4月からであり、今は旅に向けての情報収集や資金調達といった準備期間であるという考えからであった。

 然しながら、今回の旅で死霊街手前まで行ったことで、ここまでに必要な移動日数、出現する魔物等のデータを得る事が出来たのは極めて有意義な事であった。

 ノーブクロでは、ズールとキュアという強力な後ろ盾を失った事で昨日までの傍若無人な振る舞いと打って変わって町の人々に媚び諂う豚種が多数出現した。

当然と言えば当然であるが、豚種の蛮行への記憶が鮮明な人々は豚種の排斥に積極的であり、ノーブクロは矯正委員会の力が一切効かない町となった。

 人々はこの町を反社と矯正員会とそして豚種から救った名もなき戦士を「悪党狩り」と呼ぶようになり、この町に棲む守護神として崇める様になっていた。


 ノーブクロの飲食街の一角にあるパブに神と呼ばれるには程遠い容貌の中年剣士と老婆治癒師が酒を飲んでいた。言うまでもなくムタロウとラフェールである。


「なあ、ラフェール。」


「なんじゃ。」


「この前のあの矯正員会の女の一件なんだが。」


「ほう。」


「色々考えさせられた。」


 ムタロウは口下手だった。

 無口という訳ではないのだが、考えを纏めて相手に伝えるという事が苦手でムタロウと会話をすると焦れる者が大半だった。ラフェールもその一人であった。


「だから何を考えされられたのじゃ?どうせクゥーリィーの姿を見て今後どうしたらいいかとか、そんなとこじゃろう?」


「そうなんだよ!」


「俺はこの世界に転移してからの10年間、病気を治す事と差別差別とうるさい豚やら豚の仲間やらをぶち殺す事しか考えていなかったのだが。」


 ムタロウはムーを発酵した(ドンコという)をひと口飲んでから言葉を続けた。


「クゥーリィーを仲間に入れてから、俺の生きている理由がそれだけでいいのだろうかと思うようになった。」


 ムタロウは、ラフェールを見ることなく、ドンコの入ったジョッキを見つめながら言った。


「やはり、矯正委員会の様な連中が特権を持って、それに豚やら反社やらが裏で手を組んで表に裏に社会を牛耳るこの社会は間違っていると思う。コンジローは嫌な奴だったが、かといってあんな風に名誉をずたずたにされて、絶望するなんて理不尽にも程がある、」


「となると、どうするんじゃ?指導者にでもなるのか?」


 面白そうにラフェールはムタロウに問うた。


「まあ、俺が指導者なんて向いて異なことは承知しているよ。自分に出来る事は、」


 ムタロウは再度ドンコをごくりと呑み込んだ。


「まあ、矯正委員会の連中を狩るしかないよな。」


 ムタロウの言葉を聞くとラフェールはくくくと笑い始め、ドンコの入ったジョッキを手に取った。


「ほんとにお前は頭が悪くて面白い。悲しむクゥーリィー見て、矯正委員会に腹が立ったからあいつらを潰すと言えばよいものを、わざわざカッコつけてのう。」


 ムタロウは耳まで真っ赤になって、うるさい!と怒鳴っていた。


◇◇


 翌日、ムタロウは、デルンデスが滞在している宿泊所に出向き、キュアとの旅で得た死霊街手前までの情報を共有していた。

 ノーブクロより北のある程度の規模を有す都市は、セントブクロになるが、死霊街と呼ばれる森林地帯の実態が分かるものがいない為、森林地帯の手前とはいえ、販路拡大を目指すデルンデスにとっては非常に貴重な情報であった。


「なあ、ムタロウ。死霊街死霊街と言うが、俺はあの森林地帯に行った奴に一度も会ったことがないんだ。おかしいと思わないか?」


 デルンデスは、北部森林地帯が死霊街となぜ呼ばれるのか懐疑的な見解を示した。


「思うに、あの森林地帯はあまり人に入られたくない何者かが、いくつかある歴史的事実を紡いで他人を寄せ付けぬ伝承に仕立て上げているんじゃないか?」


「ほう、しかし何のために?それに、お前と同じ考えを持って森林地帯に足を踏み入れた者もいるだろう。そういう奴らはどうなってるんだ?」


「それは知らん!だから、そういうの含めて、旅の前に調査をお願いしたいんだよ。」


「なるほど。…で、どこまで調査すればいいんだ?」


「話が早いな。セントコンドまで行って帰ってきて欲しいんだ。セントコンドまでの道のりにどれだけのリスクが潜んでいるのか確認したい。」


「報酬は?」


「往復で得た拾得物はお前のモノ。それと、調査料として10万ニペスだ。」


「駄目だ、未知のリスクに対する対価と考えると安い。」


「‥‥分かった。ならば、15万ニペスだ。」


 ふーっとデルンデスは溜息をついた。

 ムタロウはデルンデスの様子を見て、にやりとした。


「ま、いいだろう。行ってくるよ。15万ニペスは約束だぞ!」


◇◇


「…というわけなんで、一緒にセントコンドまで来てくれ。」

自宅に戻るなり昼寝をしていたラフェールをたたき起こしてデルンデスとのやり取りを説明した上で、セントコンド往復の依頼に同行して欲しい旨を伝えた。


「お前さん、ちょっと人使い荒くないか?」


「今回は確かに否定できないが、4月からの本番前にやっておきたいんだよ。15万ニペス貰えるし。アンデット対策としては治癒師のラフェールがいないと駄目なんだよ。」


「しょうがないのぅ…。」


 珍しく下手に出てきたムタロウに違和感を感じながらも、お願いされる心地よさから、ついつい了承するラフェールを見てムタロウはちょろいなと思ったのだった。


「死霊街が死者達で溢れかえっているとなると、場合によっては、わしの治癒魔導だけでは対処しきれない可能性がある。」


「聖光を使って範囲攻撃をすればいいじゃないか。」


「馬鹿か!わしの治癒魔導はクゥーリィーのそれと違って、発動に時間が掛かるんじゃ。

その間、お前さんがわしを守ってくれないとわしも死霊の仲間入りじゃ。」


 この世界では死霊の類は自分だけが天にも地にも召されない事を恥と思っており、その身にのしかかる恥を分散するために生きている者を殺害して仲間にするといわれていた。

 

「半分死霊みたいな奴が何を心配しているんだか…」


「は?何か言うたか?」


「いや、別に。」


 ムタロウは余計な事を言ってラフェールが臍を曲げ、死霊街の調査に行かないと言い出されたら困るので、流石に口をつぐんだ。


「クゥーリィーはどうするんじゃ?」


「ん? ああ、クゥーリィーはお留守番だ。中級魔導学校を早く卒業して貰わないと困るからな。」


「んにゃ、それならばよかった。では、日程決めと食糧等の準備に掛かろうかのぅ。」


 ムタロウは、クゥーリィーは恐らく自分を置いて旅に出る事を強く抗議するとだろうが、今クゥーリィーには取り扱える魔導を増やす事こそ大事なのだと説明すれば分かってくれるだろうと妙な自信があった。


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