私刑
オリックス優勝しましたね。おめでとうございます。
盛夏の片隅で出番を伺っていた秋は9月半ばを過ぎたあたりからいつの間にか自己主張を始め昼夜の寒暖の差が大きくなるにつれ、野の草木も徐々に衣替えに着手していた。
ノーブクロの「ペロシM字開脚事件」の被害者は、ニョドン騎士団の棟梁の息子であったという話は、あっという間にコンドリアン大陸中に広がり、当然、ペロシの実家のあるカタイ・コンドにも伝わり、表向きは兎も角として、裏ではナメコンドとカタイ・コンド間の外交問題に発展していた。
8月のコンジロー総括事件以降、盛夏の草木の如く勢いづいていた竜門会とズールは9月に入り、野の草木に倣って急速に勢いを無くしていた。
ペロシの強制的に勃起させれた陰茎にぶら下げられた垂れ幕に書かれた宣戦布告文は名指し事こそしてはいないものの、ペロシを吊るした何者の次の標的が、ズールとキュアである事は明白であり、ノーブクロの人々の話題はもっぱら、この二人がどのような格好で吊るされるかといった具合だった。
キュアは王都ナメコンドの矯正委員会から召喚命令を受け、定期報告会で今回の顛末について説明を求められていた。
「キュア・ビーティー、あなたはノーブクロの反社会勢力の首領であるズール・ムツケに対し、魅了を用いて彼を木偶にし、ムタロウ拘束を試みましたが悉く返り討ちに遭ったため、カタイ・コンドから武者修行に出ていたバキム・カップの八男であるペロシ・カップに同じく魅了を掛け、ムタロウ拘束の走狗にさせたと聞いています。これは真実ですか?」
ウーマは静かに、淡々と委員会の調査報告書を読み上げた上で、調査内容に相違は無いかキュアに問い質した。
その場にいたキュア以外の委員会メンバーはウーマの感情を知るべく、ウーマの表情を凝視していたが、調査報告書を読み上げるウーマの表情は塑像の様に硬質で誰も彼女が今どのような感情を有しているか読み取れる者はいなかった。
「委員長、その報告はデマです。私はムタロウ拘束の為に竜門会を利用はしていません。確かに、竜門会の責任者であるズール・ムツケとは友人以上の関係となっていますが、それは魅了を使っての事ではなく、自然とその様に至った結果です。」
キュアは調査内容についてデマであると言い切ったのち、委員会席に座る、キュアと同じベリーショートの中年女を睨みつけた。
視線の先は、ミィーズゥー・ポゥだった。彼女はムタロウ捕縛失敗の責を問われ、委員会序列3位から5位に降格させられた事を酷く恨んでいた。
ミィーズゥーは、「そんな訳ないじゃないですかぁー」と言わんばかりの表情であった。
「分かりました。調査内容に齟齬があるというあなたの主張を尊重し、調査結果の内容には難ありと判断します。」
ウーマの裁定を聞いて、ミィーズゥーは無論の事、他の役員も驚きの表情をしていた。
委員会の調査報告書は調査に掛ける人員・予算が潤沢であり、情報の正確性は委員会役員ならば誰もが知る事であった。
「キュア・ビーティー、あなたの釈明は理解しました。ノーブクロに戻り、ムタロウ捕縛の任をお願いします。それと、貴方が竜門会のズールと偶然とはいえ距離を近しくしたのは非常に良い事です。今後は、竜門会に出入りしてムタロウ捕縛に努めてください。」
キュアは「えっ」という表情を浮かべた。
キュアは今回の定期報告会で、ムタロウ捕縛の失敗と外交問題を引き起こした失態について追及されることは予想していた。
調査報告はデマであると主張することで、見解の齟齬を出現させ、責任の所在を曖昧にしつつ、ムタロウ捕縛の任を解かれ、王都に戻り身の安全を図るつもりであった。
キュアの目論見は外れた。
ウーマの裁定は、死んで責任を取ってこいと言ってるに等しかった。
「どうしました?キュア?」
そんなキュアの衝撃を見透かした様に、ウーマはキュアの返事を促してきた。
「は…はい…承知……しまし…た。」
キュアがウーマの意志に正面から抗える訳なく、キュアは全身から力を絞り出して何とか返事をした。
キュアの命運が決まった瞬間であった。
◇◇
キュアがノーブクロに帰任したのは、ウーマの裁定が下りてから16日後だった。
初めてのノーブクロでは黒地に金細工であしらえた趣味の悪い蝶の柄でかでかと入った馬車に乗り、颯爽と(本人は)降り立ったものだが、二度目のノーブクロは、ムラだらけの手抜きの塗装が施された貧相な馬車に乗っての帰任であり、改めて矯正委員会での自分の立場の悪さを認識させられたのであった。
そのような扱いなので、当然馬車は町の入り口の公共馬車プール迄しか進まず、町の入り口から自宅までは徒歩で帰らなければならなかった。
「へこたれへん!へこたらへん!!」
キュアは落ち込んだ気持ちを立て直すため、自らに声を掛け気持ちを鼓舞しながら、診療通りを歩き、商業区に向かっていた。
「へこたれへん!」
キュアはこの言葉を自分に言い聞かせると元気が出るなと思い、当該のセリフを口に出しながら大広場を通った。
大広場は相変わらず人込みが多く、活気に満ちていた。
「今日の大広場の人たちは興奮している人が多いなあ。」
キュアはすれ違う人々の目が気の昂ぶりを帯びている事に違和感を持った。
気が昂った目…平たく言えば爛々としていると言えるが、その目は薬物をやったのかと思う位に常人のそれとは異なっていた。
「(そういえば、ここでペロシが吊られてから私の人生の風向きがおかしゅうなったんやなぁ…ムタロウをどうにかせんと、かなわんなぁ…)」
そうやって、ペロシが吊るされた場所と自分の記憶の整合を取ろうと何気なく顔をあげた時、キュアは眼前で繰り広げられている光景に愕然とした。
ペロシ達が吊られていた場所に、素っ裸のズールが吊られていたのであった。
ズールは荒縄でV字開脚に固定されており、やはり局部への回復魔導で強制的に勃起させれていた。
肛門には、キュアが愛用していた長さ40センチ程の長大な張形が刺さっていた。
吊られているズールの左右にはのぼり旗が3本ずつ立てられており、のぼり旗には
次の様に書いてあった。
「市民参加型。木槌を使って、打ち込んでみよう。全部呑み込んでしまったら、もう一本」
「市民参加型?なんや、それ?」
その疑問はすぐに解決された。
ズールの横には6歳くらいの子供たちが行列を作っていた。
子供たちはそれぞれに木槌を手にしており、行列を整理している大人たちが、
「はい、いいよー!」
と声を掛けると、肛門から飛び出た張形を「よいしょ!」と叩き、ズールの肛門に張形を打ち込んでいた。
「よいしょー!」
「アヒッ!」
「よいしょー!よいしょー!!」
「アヒッ!アヒッ!!」
ズールはを子供達に木槌で打ち込まれる度に、苦悶なのか快感なのか分かりかねる裏返った声を声を出しており、ケツアナに木槌突っ込んで歓喜する変態と言われ、屈辱と快感に
襲われていた。
キュアは、ズールがこのような仕打ちを受ける以上、自分の身も極めて危険だと判断し、顔を伏せてズールの前を通り過ぎようとした。
「そこに居るのはキュアか!?ノーブクロのお父ちゃんだぞ!頼むから助けてくれ!」
なんてことを言うんだ!とキュアは思った。
ここで自分の素性がバレるのは極めて不味いと考え、キュアはズールの呼びかけに気付かぬふりをして通り過ぎようとした。
がっ
誰かがキュアの右手をつかみ、キュアの動きを止めた。
「誰や!無礼に腕をつかんでくる奴は!」
キュアは激高してキュアの右手を掴んだ輩の方に顔を向けた。
キュアは、右手を掴んだ輩の顔を見てぎょっとした。
キュアの腕を掴んできた者はクゥーリィーであった。
クゥーリィーは深呼吸をして町の住民全員に聞こえる様に声の限り叫んだ。
「ここにズールの愛人の矯正委員会幹部のキュア・ビーティーがいるぞ!」
クゥーリィーの澄んだ高い声は本人の想定以上に広場中に広がった。
「なに?キュア?あのデッパの女か?」
「あいつのこのこ帰ってきたんだな!」
「ズールと愛人関係だったよな。ズールだけあんな恰好させて不公平だろ!」
「そうだ、不公平だ!!」
凶暴化した民衆はキュアに襲い掛かり、キュアを四つん這いの格好で固定し広場に出された。
剥き出しとなったキュアの肛門と秘部に子供たちが張り切って支給された張形を手で差し込んだあと、木槌で張型をトントントントンと叩き、その度にキュアとペロシは、気持ち悪い音色を奏でていた。
そんな狂騒を少し離れた距離で見ていたムタロウは、自分たちの手で悪党を狩るまでもなく、住民によってキュアとズールが制裁を受けている事に満足感を覚えていた。




