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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
32/88

対冒険者戦

夜だけでもエアコンいらなくなると楽ですねえ。

ようやく寝れる!

矯正委員会と竜門会の次の手について話し合った日の翌日、ムタロウ達は自宅周りを見回り、改めて自宅周辺の地形を確認していた。

ムタロウの家は北側15メートル切り立った崖であり、家から向かって東側と南東に森が広がっており、南西が丘になっていた。

家の前方に広がる庭には木の柵が敷かれており、侵入者の侵入が数秒でも遅れる様に作られていた。

3人は南西の丘を登って、丘の頂上から自宅を見下ろしたのち、丘を下って南東の森から東の森を歩いたのち、自宅に入ってからミーティングが始まった。


「どう思う?」


ムタロウはラフェールに意見を求めた。


「ふむ。魔力の残り香がしたのぅ。」


「ほう、となると、かなり強力な魔導士だな。何人いる?」


「一人じゃな。お前の言う通り、匂いの強さからかなりできるな。」


「あの、魔力の残り香ってなんですか?」


「それはのぅ…」


ラフェールはクゥーリィーの質問に答えた。

要すれば、魔導師は無意識に己の内に秘めている魔導力を外に放出していて魔導力が大きくなれば成る程に放出量が増え、寄ってくる蟲の密度が濃くなり匂いが強くなるという話であった。

達人になると修練により放出する魔導力を抑える事が出来るのだが、滅多にいないという話であった。


「魔導師が一人で攻める事はないだろうから、剣士や治癒師、地形を考慮すれば射手士の存在を考慮した方がいいかもしれないな。」


「射手士が陣取るならば南西の丘の頂上かの?」


「ま、恐らくそんなところだろうな。昨日までなかった魔力の残り香を感じたとなると、今夜あたり動きがあるかもしれないな…ちょうど新月だし。」


ムタロウは深刻そうな顔を作ってみたが、内心、台風直撃前夜の小学生の様な妙な期待感でいっぱいだったため、深刻な表情は極めて嘘くさいものになっていた。


◇◇


その夜、ムタロウ達がいる家を南西の丘から見下ろしている4つの影があった。

影の主は、ペロシ達であった。

ペロシ達は、新月の夜にムタロウ拘束の行動を実行する事を前提に、ムタロウの家周辺の地形について事前調査をしていたのであった。


「事前の打ち合わせ通り、ニュリンは南東の森に移動し攻撃の口火を切ってくれ。ジュッセはこの丘から、ニュリンの初撃で家から飛び出た奴を狙撃してくれ。」


ペロシは魔導士のニュリンと射手士のジュッセと配置場所と攻撃の手順について確認した。


「俺はマカと東の森に潜み、ニュリンとジュッセの攻撃から逃れた連中を切り倒す。恐らくはムタロウとかいうおっさんとの斬り合いになるだろうが、お前らは魔導士を倒した事を確認したから、接近して俺の戦闘に加勢してくれ。」


「わかったよー。でも、私の仕事はなさそうだねー」


治癒師のマカはメイスをぶんぶん振りながら残念そうな声を出した。


「お前、楽をしようとするな。相手は豚を殺して悦に入っているおっさんだから、お前の見立ては正しいが、あまり手間を掛けたくない、お前のメイスでボコボコにしてくれれば、俺も楽が出来る。」


「えへへ、いいの?依頼内容は拘束でしょ?殺しちゃうよ?」


嬉しい誤算といった具合でマカは嬉しそうに声をあげた。


「構わん。荒事の末での不測の事態はよくある事だ。」


ペロシは懸念する様な事ではないと言い切った。

40万ニペスを如何に労せず得るかを考えれば、死体を依頼主に確認させた方が生け捕りにする手間に比べたら遥かに楽だと考えていたのであった。


「じゃあ、皆持ち場に付き、おっさんの家の証明が消えて1時間後に始めるぞ。」


◇◇


ムタロウの家の明かりが消え、1時間程の時間が経った。

南東の森の影から家の中の気配を探っていたニュリンは、彼らが就寝したと判断し、呪文(マントラ)の詠唱を始めた。

時間にして1分程の長時間の詠唱のち、放った魔導は直径3メートル程の火柱(ファイアーポール)であった。

火柱(ファイアーポール)が地面から夜空に吹き上がった瞬間、月明かりの無い漆黒の闇に屋根が火炎で吹き飛んだムタロウの家が浮かび上がった。


ニュリンが火柱(ファイアーポール)を放つと同時に、南西の丘に待機していたジュッセは長弓を構え、敵の襲撃に泡を食って家を飛び出てきた標的を狙撃する準備をしていた。

しかし、家からは誰ひとり飛び出してくるものはいなかった。


「どうなってやがる!?ひょっとしてニュリンの初撃で全滅か?」


ジュッセが戸惑っていたのと同様、ニュリンもこの状況がどういう事か判断しかねていた。

ジュッセの火柱がムタロウ達を直撃して全滅したか、それとも今夜の襲撃を予想して家を出て自分たちの様子を見ているのか?

もし、後者だとしたら追撃の魔導を撃つのは自らの位置を知らせる事になり非常に危険だと考え、ニュリンは追撃を逡巡した。


その時、ニュリンの右手上空がぱああっ白い光に一瞬照らされ、ジュッセの居る丘が白黒に浮かび上がっていた。


「あれは聖光!?」


聖光は治癒魔導でも高度な範囲治癒魔導である。

半径10~30mの範囲で敵味方区別なく回復をもたらすため、集団戦での使い勝手は悪いが一対複数の戦闘時などで重宝されているが、今この時に及んで何故ジュッセがいる丘に癒しの光が降りているのかマカは理解できなかった。


一方、ニュリンの次撃を待っていたジュッセは、頭上に温かい白い光が降りてきて自分の身体を包み始めた事に戸惑っていた。

射手士のジュッセでも、自分の周りを包む白い光は危害を加える類のものではないと直感的に理解はしていた。

聖光がもたらす癒しの力は、ジュッセの身体に吸い込まれジュッセの生命力に活力を与えるべく、働き始めた。

それに伴い、ジュッセの全身は聖光の効果により発光し始めた。


「…‼︎」


ジュッセは、敵の治癒師が聖光を放った意図を理解した。

しかし、時すでに遅くジュッセの網膜には5本の炎の線が闇夜を切り裂きながら、こちらに向かっている様を焼き付けていた。

聖光の光は、癒しの光ではなく死出の旅に向けた灯台であった。

5本の炎の線は、死への道標と化しているジュッセに迷うことなく飛び込んでいき、四肢をもぎ取り、そしてジュッセの頭を喰い散らかして消えていった。


マカが敵が聖光を放ってきた意図を理解したと同時に、ムタロウの家の方向から5本の青白い炎の線が漆黒の空を疾走っている様子を目の当たりにしていた。


「ペロシ!ジュッセは殺られたよ!あいつ等は豚を殺して悦に入っているだけの奴じゃない!直ぐに退避しないと、うちらもやばいよ!」


マカは、血相を変えてペロシに退却をすべきと主張した。

聖光を本来の目的ではなく、暗闇で位置が分からない敵を見出すために惜しみなく使う手口、そして見出した敵を正確に狙撃出来る極めて正確な魔導操作技術。

何より空を疾走っていった炎の色は、最も熱量のある青の炎。

少なくとも魔導師と治癒師は手練れだ。

今回の戦闘で脅威となる魔導師をジュッセの弓による遠距離攻撃で仕留めるという当初のプランが崩れた時点で、方針を変更すべきとマカは重ねて主張した。


「馬鹿野郎!ここで逃げたら俺は何もしていねえで尻尾を巻いて逃げたみてえじゃねえか!それに、ジュッセが死んだと決まったわけじゃねえ!」


そうは言うものの、ペロシはジュッセが敵に斃されたと見做し、当初のプランに拘る事無く、自身が前に出て大将のムタロウを狩る事に考えを切り替えた。

前に出る事で魔導師による攻撃に晒される事を懸念したが自らが装備している白銀の鎧は熱耐性がある為、如何に高出力の火線であっても一瞬で装甲を貫く事は無く、その間にマカとニュリンがどこかに隠れている魔導師の位置を把握する為、おいそれと自分への攻撃は出来ないだろうと判断した。

ペロシは森から飛び出し、ムタロウが居たであろう家に向かって走っていった。

そして、ペロシは侵入を遅らせる木製の柵の前にムタロウと思しき剣士が抜刀して構えているのを確認した。


「お前がムタロウとかいうおっさんかあ!」


ペロシは上段から大剣をムタロウの首から下目掛け振り下ろした。

ムタロウは軽くバックステップを踏んで、ペロシの攻撃を避けつつ、着地と同時に、前にステップを踏み、同じく上段から切り落とした。


がちいん!


星明かりしか頼りにならない闇夜で剣と剣が弾け、あたりに火花が飛び散った。

重騎士であるペロシは膂力ではムタロウを上回っており、二人の剣が交差した際、ペロシはムタロウの剣を弾き飛ばし、ムタロウは三・四歩後ろによろめいた。


ぶぅんんっ


ペロシはムタロウがよろめき、体勢が崩れた処を見逃さず、更に三歩前に進んで大剣を水平に振ってムタロウの肩ごと斬ろうとした。

ムタロウは崩れた体勢を無理に維持しようとせず、後ろによろけた勢いで、後転しペロシの攻撃を避け、更に後ろに距離を取ってペロシの追撃を躱そうとした。


しかし、ペロシはムタロウが距離を取ろうとしている事を知ってか知らずか、お構いなしに前に詰め、5合程斬りつける。

ムタロウは、ペロシの剣を剣で受け、バックステップで避け、辛うじてペロシに斬撃を避けていたが、状況は劣勢であった。


「豚を狩ってるだけのおっさんが、現役のニョドン騎士団相手に、頑張っているのだから、まあ大したものだよ。」


迂闊なペロシは自らの素性を明かしてしまっているのだが、それも勝利を確信している処から来たのであろう。


「ペロシ!加勢するよー!」


ついさっきまで退却を主張していたマカが、大将対決でペロシが優勢だったのを見て、自身の主張を変えて加勢に来た。


「はん、調子のいい奴だ!これが終わったらお前はお仕置きだからな!」


そうペロシが言い終えるや、ペロシはムタロウに斬りかかってきた。

マカはムタロウの後ろに廻り、ムタロウの前後の動きを封じようとする。

マカが見たところ、ペロシとムタロウの戦闘中の動きは大まかにいえば前に出るペロシと後ろに避けるムタロウであった。

ならば、ムタロウの背後に立ってバックステップによる動きを牽制するなり、メイスによる攻撃でムタロウの動きを止めれば良く、とどめはペロシがすればいい思った。

マカは己の役目を見出し全うしようとした。

その思いがマカの命運を決めた。


ムタロウは未来視(命の選択)を発動させていた。

ペロシの攻撃をバックステップで避け、着地してから剣を構えてペロシの斬撃を受けようと構えた瞬間に後方からマカのメイスによる一撃で動きを止められ、そのままペロシに首を撥ねられる未来だった。


この未来を見たムタロウはペロシの攻撃をバックステップで避けるのではなく、後ろに跳んでマカとの距離を詰めた上で身体を左に捻りマカの喉笛を切った。

頸動脈を切られ、マカの首からおびただしい量の血液が噴き出ていた。

ムタロウはマカの血の噴水を浴び、闇夜に白く浮かんでいたムタロウの顔はマカに血によって闇と一体になった。


「マカ!馬鹿野郎!なにやってんだ!!」


流石のペロシも仲間が斃されたのを目の当たりにして動揺していた。

しかも斃されたのが、パーティーの回復役である。

治癒師が致命傷受け、パーティーが危機に陥った事をペロシは理解し、背筋が冷たいものが流れるのを感じた。


「うっとおしい射手師と治癒師を始末出来たのでこちらも大分余裕が出来た。」


マカが斃された事によってペロシの攻撃が止まり、ようやく人心地付いたムタロウがぜいぜい言いながら声を出した。


「ニョドン騎士団のお兄ちゃんよお。お前、誰からの依頼を受けたんだ?」


ムタロウは、少し下品な口調でペロシに質問をした。


「お前が素直に答えて、かつ、武装解除するならばお前の名誉と命を助けてやるよ!」


ムタロウの言葉に誇り高きペロシは激した。


「お前の様な輩にこのニョドン騎士団でありカップ家の八男であるペロシ・カップに貰う慈悲などない!」


ペロシが怒りを爆発させたと同時に、南東の森に聖光の光が降り、白黒の木々の輪郭が浮かび上がった。

そして、漆黒の森の中から白く輝く魔導師のシルエットが浮かび上がると同時にきらきら光る4つの線が魔導師のシルエットに飛び込んでいった。


「にゅ…ニュリン!!!逃げろ!!!」


南東の森に潜んでいた魔導師の身を案じたペロシは、迂闊にも意識をニュリンに向けてしまった。

その隙を見逃すムタロウではなかった。


「お前阿呆だな…。」


ムタロウは疾風の如き動きでペロシの後ろに廻り両膝の靭帯を切断した。

両膝の靭帯を切断されたペロシは体重を支える事が出来ず、不自然に膝から崩れ落ちた。

崩れ落ちたペロシは、役に立たなくなった自分の脚の状態よりも、きらきらした何かによって四肢を拘束されて大の字で宙に浮いているニュリンと思しき魔導師のシルエットの様子であった。


「おおおお、お前ら!ニュリンに何かあったら必ず殺してやるからな!必ずだ!!!」

ペロシは、血の涙が出んばかりの勢いでムタロウを睨みつけ、声の限り怒鳴り続けていた。


「うるせえ、手前から仕掛けておきながら許さんも何もないだろが。ニョドン騎士団のお坊ちゃまは世間知らずのお馬鹿さんなのかぁ…?お馬鹿さんなんだろなあ。」


ペロシの呪詛など意にも介さず、ムタロウはペロシを挑発したのち、つま先でペロシの顔面を蹴り飛ばしていた。

最初は怒りと憎悪でムタロウに悪態をついていたペロシも、ムタロウが表情一つ変えずに1時間程ペロシの顔面を蹴り続けてると流石に意識も途切れ、動かなくなっていた。


「これが奴らの切札ってところかな‥‥さて、どうしたものか。」


ムタロウはひっくり返っているペロシを見ながら、この後始末をどうやって進めるか考えなければなと、キュアとズールの青ざめた顔を想像しながら気持ちを高めるのであった。



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