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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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旅の準備

漸く最初の目的に向けての話が出てきました。

赤竜のうろこを入手する為に赤竜に会い、うろこの譲渡を申し入れるという、他の人が聞いたら頭がおかしいと思う方針を決めた翌日、ムタロウ達は再度会議を開き、当該計画を実行する上での課題の洗い出しを行った。


一つ目の課題は経路であった。

赤竜は中央カマグラ山脈の中に通っている隣国コンドリアンとの国境線付近に生息をしていると言われていた。

検討された経路はノーブクロを南カマグラ山脈沿いの街道を北上し、東・西・南・北カマグラ山脈の起点となる中央カマグラ山脈に向かう山道を進みつつ赤竜の住処を調査するものであった。

ただ、クゥーリィーは無論の事、ムタロウもラフェールもナメコンド北部の土地勘に疎く、今回検討した経路が果たして適切なのか判断が出来ない為、デルンデスに相談してみる事とした。


「フーム、経路は大まか問題は無いと思う。」


デルンデスは、ラフェールが描いた中央カマグラ山脈までの経路が記された略地図を見てコメントした。


「ただ、お前らも分かると思うが、補給が必要だぞ。途中、町で食料や水の買い出しが必要になる。途中ウーマ砂漠沿いを通るから、特に水の確保が重要になるな。」


「ウーマ砂漠沿いに町があったよな。あそこで水は確保できるのか?」


ウーマ砂漠はナメコンド中央に広がる、乾燥地帯である。

砂漠と呼ばれてはいるが、中東エリアの様な砂地ではなく、乾燥した岩場の多い荒地が広がるエリアだった。

降水量は年間を通じて少なく、砂漠気候特有の昼夜の寒暖差が激しい為、人が生きていくには厳しい環境であった。


「ああ、ウーマ砂漠北部にオーシマルというオアシスを起点とした宿場町がある。そこで、水や食料の補給をした方がいい。ただ、ノーブクロからオーシマルまでも結構な距離だ。途中、少数種族の集落があるので、こまめに食料と水の補給をしないと、お前ら行き倒れるぞ。」


「移動時間を減らすと点でも馬の確保は必要か?」


「お前…なに呑気な事を言ってるんだ。ノーブクロからオーシマルまでの街道の別名を知らないのか?」


デルンデスはそんなことも知らないのかと心底呆れた声を出していた。


「死霊街道じゃろ?」


ラフェールが口を挟んできた。


「そうだ。死霊街道だ。ノーブクロからオーシマルまでの街道は基本森林地帯の中を通る道だ。この森林地帯が実に厄介でな。900年前の帝国崩壊に伴う独立戦争によって死んでいった兵士・民間人の死霊が滞留しているんだ。面倒な事に昼夜関係なく死霊が襲ってくるからな。あそこを通るならば死霊除けの聖水と聖衣は必須だぞ。馬がなきゃ聖水なんて運べない。」


「そうか…、となると入念な準備が必要になるな。カネもそれなりに必要となる。」


ムタロウはうーんと考えて、二つ目の課題を口にした。

今回の旅が長期間になるのと、彼自身一度も足を踏み入れていない地域である為、リスクの程度や必要コストがどの程度になるのか把握する必要があった。

ブクロでコンジローから貰っていた報酬の50万ニペスは、万が一の為に使わずに取っておいてあるが、馬や馬車を購入するには足りないだろう。


「まずはカネ稼ぎか。ま、ちょうどいい。今が3月だから来年の4月を目途に準備をしよう。」


「それが賢明だな。どうだ?そのカネ稼ぎで俺の隊商の護衛をしばらくやらないか?」


デルンデスは、ここぞとばかりに仕事の勧誘をしてきた。

実際、イーブクロからノーブクロまでの行程でムタロウ達に護衛を頼んだ際に、彼らの実力は確認済であり、デルンデスにとっては多少費用が嵩んでも腕の良い護衛を以て安全を買えるならば、安いモノと考えていた。


「俺はかまわない。ついでに、もし1年後にオーシマルまで行くと言うならば、それの護衛をやらせてもらえるとカネは貰えるし、準備も省けるし、目的地に行けるしでいいことづくめだが、その辺りも考えておいてくれると嬉しい。」


ムタロウはデルンデスに軽口を投げかけた。


「虫のいい話をしてくれるな。」


デルンデスがにやりと笑った。


「まあ、俺も楽をしたいからな。」


ムタロウもデルンデスの目を見ながらにやりと笑った。


「クゥーリィーはどうするんじゃ?」


ラフェールが再び口を挟んできた。

クゥーリィーをどうするか…これが三つ目の課題であった。


「クゥーリィーは9月までに初等魔導学校の課程をすべて消化して10月には中等魔導学校に行って貰う。」


ムタロウはクゥーリィーに身体を向けて話しかけていた。


「え、中等魔導学校ですか?」


「そうだ。今度の旅はこれまでの行程と違って、かなり危険なエリアを進む。出てくる魔物も極めて凶暴・凶悪であるし、戦力が必要になる。正直、今のクゥーリィーの使える火魔導では対処が難しいだろう。」


「私の火線(ファイアービーム)では力不足という事ですか?」


クゥーリィーが憮然とした表情で食ってかかってきた。


「そういうわけではない。お前の火線(ファイアービーム)は十分に強力な魔導ではあるが、死霊の様な戦術はないものの、数で攻めてくる様な敵には向いていない。中等魔導学校まで行って、範囲魔導を覚えて貰わないとこちらとしても辛いのだ。お前の稼働の技量がどれだけ上がるかに今回の旅の成否がかかっているんだ。」


ムタロウはクゥーリィーの抗議に対して、自身の発言の意図をはっきりと説明した。

予想外の返答をされたクゥーリィーは顔を真っ赤にさせ、嬉しさを堪えようと真剣な顔を作ろうと試みていたが、上手くいかず口を歪ませながら怒った様な顔をしていた。


「し、仕方ないですね。じゃあ、初等魔導学校は早々に卒業して中等魔導学校に進学できるようにやってみますよ。」


クゥーリィーはそう言うと顔を見られない様に顔を伏せながらくるりと背を向け、部屋に走っていった。


「思ったより素直に従ってくれたなァ。」


ムタロウがクゥーリィーが部屋に入ったのを確認してポツリと言ったのを聞いて、一部始終を見ていたラフェールとデルンデスは呆れた顔をムタロウに向けていた。


◇◇


ノーブクロに趣味の悪い金細工がそこかしこに入った馬車が入ってきた。

馬車だけでなく、馬そのものにも金細工の馬鎧が装備されていたが、それは馬を守ると言う本来の目的ではなく持ち主の権勢を示威するだけに装備されたものと一目で分かる趣味の悪さであった。


馬車は医療通りと過ぎ、中心の上級住民が居住する地区に入り、その中でも物々しい高い塀に囲まれた要塞の様な屋敷の中に入っていった。

馬車から出てきたのはノーブクロに拠点を持つ反社会組織「竜門会」の会長、ズール・ムツケであった。

ズールが馬車から降りてくると、配下の構成員達が並び、一斉に頭を下げて出迎えていた。

その後ろには、矯正委員会のキュア・ビーティーが半歩斜め後ろを付き添っていた。


「手前ら!早速これからの仕事を出す!幹部会合室に集まっておけや!」


ズールがドスの利いた声で幹部に指示を出す。

緊張の面持ちでいた構成員達は、ズールの命令を聞いて更に緊張の度合いを高めていた。

幹部会議室に集合を掛けるという事は滅多になく、集合が掛かるときは対立団体との抗争がもっぱらであった。


「会長、幹部会議室に集合という事は抗争ですか?」


幹部の一人が、招集の意図を探る為、恐る恐る質問してきた。


「そんなんじゃねえ!狩りの算段だ!!」


質問した幹部は、抗争ではないと分かりほっとすると共に、狩りという言葉に含まれている意図について考え、ある結論に至った時、「それは楽しみだゎ」と独り言を言いながら凶悪な薄笑いを浮かべ、幹部会議室に向かうのであった。









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