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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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方針会議

涼しくなってきましたねえ。

セミが鳴かなくなると、鳥さんの声が良く聞こえて朝はなかなか良いです。

 ノーブクロの初等魔導学校のカリキュラムは冒険者の集まる町という町のせいか、座学もさることながら実践科目がイーブクロのそれよりも多かった。

 クゥーリィーは、街によって学校の教え方が異なる事に感心しながら魔導士が実戦で戦力になる為にも最低限の体術の習得が必要であることを授業を通じて痛感していた。

 クゥーリィーの魔導操作力や魔導の威力は初等魔導学校生徒の年齢や魔導力を比較すれば群を抜いていたが、体術の心得が全くない為に、戦闘中の位置取りや攻撃対象となった時の攻撃回避方法などを知らず、簡単にやられてしまうため、実践授業で行われる模擬戦では敵方の格好の的になっていた。

 

「そういうわけなので、私に戦闘における体術を教えてもらえないでしょうか?」


ムタロウは少し考えてからクゥーリィーの申し入れを請けた。

2人はノーブクロの外れの空き地まで出向き、模擬戦闘を行う事とした。


「模擬戦闘を終えてから、座学と実践をやろう。」


「はい。」


戦闘前の取り決めでムタロウは模擬刀の使用、クゥーリィーは火線(ファイアービーム)を最も温度の低い赤の炎で行う事を取り決めた。双方20メートル程度離れ、お互いに向き合った所で、模擬戦は始まった。


「行ってください!」


クゥーリィーの右手指から3本の火線(ファイアービーム)が弾ける。

三本の火線(ファイアービーム)は標的であるムタロウに向けて直進するもの、上方に飛翔してから直角に落ちていくもの、周囲の石、木、地面に当たる度に反射を繰り返してムタロウに向かうものという三種三様の軌道でムタロウに迫った。

並の剣士ならば、この攻撃で決着がついてしまう程に苛烈な攻撃であった。


しかし、ムタロウは上方から落ちてきた火線(ファイアービーム)を斬り落としたのち、剣勢を止めることなく流れるように直進してきた火線(ファイアービーム)を左に薙ぎ、最後に余裕をもって鋭角に進みながら迫ってきた火線(ファイアービーム)を切り裂いていた。


「なっ…!」


「はい、ダメ。」


気付いたら目の前に剣を突き出しているムタロウがいた。

ムタロウの剣先はクゥーリィーの喉を軽く触れていた。

ちくりと触れる剣先の冷たさにクゥーリィーは血の気が引いていった。。


「なぁ、クゥーリィー。」


クゥーリィーは、ムタロウの声に怒りの成分が含まれていたことに気付いた。


「お前、模擬戦なんて本気を出していれば的にされる前に蹴散らせる思っていないか?」


ぎくりとした。


「お前の魔導操作の正確さと威力は大したものだよ。でも、今のお前の攻撃には驕りを感じる。」


「…。」


「何故、火線(ファイアービーム)を撃った後に、直ぐに移動をしなかった?初撃を避けられた段階でお前は、危険な奴と見做されて優先攻撃対象だぞ。お前の初撃を躱せる様な実力者ならば、木偶(デク)の様に立っているお前はいい鴨だぞ。」


「ムタロウの言う通りでした。このコンビネーションはムタロウに見せた事がなかったので、絶対当たると思ったのです。」


「えらい自信だな。それで俺が避けるという事態を想定していなかったのか。」


ムタロウはクゥーリィーの言い訳を聞いて、更に腹を立て、口元を歪めた。


「はい…それで、火線(ファイアービーム)が当たったらムタロウも驚いて、「お前すごいな!」ってわたしのこと、褒めてくれるかなって思って。そんなことばかり考えていて、避けられること、一切考えていませんでした。」


そう言うと、クゥーリィーはしくしくと泣き始めた。

そして、ムタロウはクゥーリィーが自分の成長を喜んでくれるだろうと思って、模擬戦の提案をしてきた事に気付き、きつく当たり過ぎた後悔し始めていた。


「と、取り敢えず、火線(ファイアービーム)に限らず魔導を放ったら、直ぐに移動することだ。生存率を上げるための基本だ。」


クゥーリィーは無言でこくんと頷いた。


「それと…お前の意図を理解しきれず、強く言ってしまい申し訳なかった。お前の成長を喜ばないといけなかったな…お前はいつも俺たちの役にどうやって立つかばかりを考える子だった。」


ムタロウの言葉を聞いて、なんとか抑えていた心の堰が外れ、クゥーリィーは声をあげて泣き始めた。

ムタロウがちゃんと自分を見てくれている事を知って嬉しかった。

嬉しくても涙は出るものなのだと、クゥーリィーは思った。


そんなクゥーリィーの心の内をよそに、ムタロウは、クゥーリィーが声をあげておいおい泣き始めた事に激しく動揺し、どうやって声を掛けたらよいのか分かず固まっていた。

おいおい泣いている娘、それを見て固まっている男。

はたから見れば、女を泣かして困っている情けない男のそれであった。


◇◇


 ノーブクロの自宅では、ムタロウ、ラフェール、クゥーリィーの3人が今後の方針について話し合っていた。

赤竜のうろこをどうやって確保するかについてであった。

 コンドリアン大陸で一般的に炊事用の火というのは、薪木や油、黒石(石炭)であった。

これらが火を放つという事は酸化反応の結果であり、酸化反応が終われば火と熱を発するのを止める。

故に、10日間もの間、一度も絶やさず火・熱を放出し続けるには大量の燃料が必要であった。

カネさえあれば、10日程度の燃料を準備するのは可能であろう。

しかし、ムニューチンはいくら、ノーブクロで有力な医師だとしても、個人負担で成功するか分からないペニシリン生成の為に燃料を用意することは経済的に難しい。

そのため、酸化反応をせず、長期間熱を発する燃料が必要だった。

ムタロウの前の世界では原子力がそれにあたるのだが、コンドリアン大陸ではそもそも原子力という概念が無い。

となると、原子力ではない酸化反応に拠らない燃料が必要であった。

そして、その燃料となり得るものが、赤竜のうろこだった。


 赤竜はコンドリアン大陸に生息する竜の頂点であった。

寿命は一説によると500年であり、灰竜や緑竜とは姿は似ていても全く別の生き物であるとの事であった。

人語を理解し、食事は空気中に漂っている蟲を全身で取り込んでいるとの事であった。

赤竜は特に火蟲を好んで取り込むとされており、故に全身が火魔導のうろこで覆われているとの事だった。

なぜ、魔導として使役すると最後には死んでしまう火蟲が赤竜のうろこにこびりつくと長期間生存しているのか不明であるが、兎に角、赤竜のうろこ1枚あれば、70平米程度の部屋であれば1年は暖房いらずというもっぱらの噂であった。

このうろこさえあれば、燃料問題は解決する。

通年カビ部屋を高温多湿に維持できるというのがムタロウの考えであった。


しかし、先にも述べた通り赤竜は竜の頂点である。

その辺りにいる灰竜の様に討伐してうろこを取る事はほぼ不可能であった。

となると、まれに落とした赤竜のうろこを拾うか、町の道具屋で赤竜のうろこを買うか、人語を解するという赤竜の知性と理性に掛けて直接頼み込むという選択肢しかなかった。


「うろこをどこかで買えないか?」


ムタロウがラフェールに訊いた。


「デルンデスに聞いてみればわかるかもしれないが、売っていたとしても恐らく1,000万ニペス以上じゃろうなあ…」


絶望的な金額であった。

ただでさえ稀少な物なのに、その金額では何年依頼をこなしてもとても到達できるものじゃない。


「討伐は論外だから…となると、頼み込むしかないか…。」


ペニシリンは諦めて残りの人生この痒みと共に過ごしていこうかなとも一瞬考えたが、弱気を打ち消した。


「ま、お前さんがそうしたいというならば、いいじゃないかのぅ。」


ラフェールが同調した。


「わ、私も赤竜さんと話してみたいし、火蟲ともっと仲良くなるにはって聞きたいです。」


クゥーリィーの少々的外れな発言を聞いて、ムタロウは噴き出し、そして自分の考えを纏めた。


「ま、悩んで時間を費やすよりは、やるだけやってみた方が前向きだな。それに竜と話が出来たら自慢話にもなるし。」


「そうじゃ!早くあそこのかゆみからさらばなのじゃ!」


口に出した瞬間、「あ、しまった」とラフェールは両手で口を押えた。


「なんですか?そのあそこのかゆみって?」


クゥーリィーが「はぁ?」という顔で訊いて来る。


そんなやり取りをムタロウは耳まで真っ赤にしながらラフェールの発言を見てない、聞いていないと下手な芝居をしていたのだった。









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