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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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ムタロウの呪い④

何気なく小説情報ページを見たら、いつの間にかポイントがついているじゃないですか。

どなたか存じませんが評価していただきありがとうございます。

 ノーブクロは噂に違わぬ冒険者の街であった。

討伐による報酬を求める者、上位種を討伐し名声を得て剣士または魔導士として地方の諸侯に士官を目指す者、名だたる冒険者の所属するパーティーに加入するチャンスを伺う治癒師、そして医師としての理想を追うためにこの街に来た者と様々であった。


ムタロウ達はノーブクロに到着するといつもの通り仮の宿を確保し、一息ついてから住居斡旋所に向かった。

そして、セキュリティと掃除の行き届いているという少々お高い宿舎を賃貸契約してから役場に向かい、魔導学校の有無を問い合わせ、いつもの通りクゥーリィーの初等魔導学校編入手続きを行なった。


「流石に2度目ともなると保護者としての行動も慣れが出てきたのぅ。」


ラフェールがニコニコしながら話しかけてきた。

この治癒師はムタロウの股間にしか興味のない色ボケ老婆なのだが、クゥーリィーの話になると途端に真っ当な老婆になった。


「そうだな。自分の想像以上に基礎教育というものが大切である事をクゥーリィーの成長を見ていて痛感した。初等魔導課程を踏ませたら中等学校に入れて更に成長の場を与えたくてな。」


「確かにあの子の成長を見ているとこの先どんな魔導士になるのか楽しみになるのぅ。」


「まったくだ。」


2人はノーブクロの中央通りを歩きながら、娘同然のパーティーメンバーの会話に花を咲かせていた。


そんな話をしているうちに、医師街で名高いノーブクロの療養通りにいつの間にか2人は出ていた。

ノーブクロは、他の街にはない構造として街の出入り口4ヶ所に医師と薬屋が集中配置されていた。

これは討伐中に怪我をした冒険者もしくは魔物に襲われた旅人が街に入ると同時に治療を受け、生存率を上げるという狙いがあった。

医師と薬屋は必ずセットとなっており、これらの店で構成されている通りを療養通りと呼んでいた。


ムニューチンは南の療養通り沿いに診療所を構えているとデルンデスから聞いていたのでムタロウ達は南の療養通りに出てムニューチンの診療所を探していた。


ムニューチンの診療所は、通りを歩いているとすぐに見つかった。他の診療所が自宅兼診療所といったこぢんまりとした建屋に対し、ムニューチンの診療所は石造りで、かつ外観から判断するに入院施設がある作りとなっていた。

それは、診療所というよりこの町に於ける中核病院といった風情であった。


「驚いたな。診療所と聞いていたせいもあるが、思っていたのと違う。」


「まったくじゃ、いつの間にこんなのが出来たのじゃ…医師の地位も随分と上がったという事なのじゃなぁ…。」


「そういえばラフェールはノーブクロ出身だったな。」


「うむ、わしが子供の頃は医師というと治療師にかかるカネのない貧乏人が駆け込む怪しい連中じゃった…。実際わしの友達も何人も医師によって酷い殺され方をしていたからのぅ。」


ラフェールは昔の記憶を引き起こし、ふと悲しげな表情を浮かべていた。

ムタロウはそんなラフェールの顔を見て、このババアにも子供の頃があったのかと本人が聞いたら烈火の如く怒りそうなことを考えていた。


そんなやりとりをしながらム2人はニューチンの診療所に入り、猫種の女性受付にムニューチンに会いたい旨を伝え、待合室でムニューチンからの呼び出しを待っていた。


待合室にいた者は多種多様で、人間族は無論の事、豚種や猫種、そして竜人種もいた。

これらのものは皆、1人ではなく大抵は子供が老人を伴っていた。


「なるほどのう…治療師が外傷の回復を得意とする反面、風邪や他の病気の治療に対しては無力であり、医師との連携が必要という主張は理解できるわぃ。」


「確かにそうだな。ここに来ている連中は自分たちを除けば皆冒険者ではないただの一般人だな。」


「それと驚いたのは豚種や竜人族が人間族の医師の診療を大人しく受診しているということじゃな。あいつらは粗暴で人間を忌み嫌っている筈なのに、ここの連中はやけに友好的じゃ。ワシがいた時はそうではなかったのじゃが…」


ラフェールはこれまで見てきた他種族の人間族に対する振る舞いとの違いにかなり驚いている様子だった。


「それは俺も思っていた。ここに来るまでに豚共を何匹か見たが、人間を含めた力の弱い多種族と普通に話しているし、働いている豚共が多かった。なぜだろう。」


このように待合室で2人は雑談に興じていた。1時間ほどして兎種の女性事務員に診察室に来るように呼ばれ2人は診察室に入っていった。


診察室の扉を開けると50過ぎの白髪の男性が座っていた。


「人間族のお年寄りと…お孫さんかな?今日はどっちを診ればいいんだい?」


白髪の男性は、二人に感じの良い笑顔を見せながら要件を聞いてきた。


「俺だ。病気について相談がある。ちょっと話を聞いて欲しい。」


「なるほど、それでお身体はどのような状態なのかな?」


「実は…陰部というか尿道というか…に痒みを覚えていて、この世界の医師に相談をしても病気に罹った経緯を話すと途端に呪いと決め付け、一切話を聞かなくなってしまうのだ。」


「ほう…それはどういった経緯で、現在自覚する症状に至ったのですか。」


白髪の男性の笑顔はすうっと消え、少し探りを入れるかのようにムタロウに質問をした。


「うむ。それは…」


◇◇


前の世界(船場)で泥酔して路上にひっくり返っている間に、この世界に転移してしまったという事実を認識したのは、腰にぶら下げた剣を見てではなく、草原赤犬に襲われた時だった。

今となっては雑魚中の雑魚である草原赤犬だが、転移したばかりの当時は、体術も剣術も…そして、なによりも命を懸けて戦うという心構えがなく、俺は恐怖で対峙することもできず逃げ回っていた。


今思えば、この時も未来視(命の選択)は発動していたのだろうが、あの時の俺は自分の身に起こった事象を全て認識した上で最適処理できる訳もなく、腰にぶら下げた剣を抜いて闇雲に剣を振り回しながら草原赤犬の襲撃から逃げ回っていた。


目的地不明、知らない場所でいつ魔物に襲われるかもしれない緊張と不安。

こんな状況にいきなり放り込まれれば、普通の人間なら体力と精神力を削られてふらふらになる。

ご多分に漏れず、俺も2日と持たずに消耗しきってしまい、見知らぬ平原を当てもなく歩いていた。


「ああ、疲れた…もういいか。」


いい加減身体も心も疲れたので、おれはその場でへたり込んで、直ぐに転がってしまった。

疲れたしもうどうでもよかったので寝ようと思った。

兎に角、考えるのがめんどくさくなり、俺は意識を切った。


次に意識が戻った時、最初に見た光景は30半ばくらいの女性が甲斐甲斐しく俺の全身を濡れたタオルで拭き上げげている様子であった。

濡れタオルで全身を拭かれるのはとても心地よかったので、狸寝入りを決めこみ、少し身を委ねようと思ったのだが、俺の意志に反して、アレが反応してしまい、女に意識が戻った事を気付かれてしまった。


「あ、起きてしまいましたか。」


「え、まあ…はい。」


何が、「え、まあ…」だ。

もう少し気の利いた返事くらい出来ただろうがと思い出すたびに当時の自分を叱りたくなる。

それはさておき、見知らぬ女とはいえ、人間に保護されている事が分かり怖い目に遭う事は無いと俺は心の底から安堵していた。


「ありがとうございます。ところで…ここはどこなのでしょうか。」


俺が転移者であると分かった時の相手の反応がどうなるか若干の不安はあったが、今置かれている状況が不明である事の不安感が勝り、俺は思い切って質問した。頭を打って記憶喪失になっていると思われるかもしれないし、まあ問題ないだろうと思った。


「ここですか?ここはナメコンドの人たちから「子なし女の里」と呼ばれています。」


は? ナメコンド?? どこよ?それ。

それに子なし女の里???それ、町の名前?

子なし…って子供がいないという事だよな。

恐らくこれ以上突っ込んじゃいけない話題だな。それをやったら事案になるな。


「そうでしたか…。助けて頂いてありがとうございます。実は私…」


「転移者様ですよね?」


「えっ?な、なんで分かるんですか?」


俺は驚いて声が裏返ってしまった。


「年に何回か、あなたの様に別の世界から迷い込んでくる者がいるのです。」


女は驚いている俺の様子など関係なく、淡々とよくある事であることを口にした。


「あ、結構いるんですね。私みたいな奴はそんなに珍しくないのか。」


「はい。大抵は状況が整理しきれぬうちに草原赤犬に襲われて命を落としています。」


「あ、私も襲われました。剣振り回して逃げまわってましたが。」


「私たちは、里長の命により、そんな露頭に迷う別世界から迷い込んだ人を助けているのです。」


俺はこの女が人の話を一切聞かず、一方的に定型文を読み上げる様な話し方に違和感を覚えた。

それに話すときに目を合わそうとしない。

そして、妙によそよそしい。

何かに緊張している様に見えた。


「…それでは。始めますね。」


ん? 始める? 何を?

あれっ、なんで服を脱ぎ始めるのですか?

あ、そういえば俺も服を着ていない。

ええ? 始めるって…いきなり??


「里長から厳命を受けてまして…」


女は目を逸らしながらおずおずと俺のアレを握ってきた。

躊躇しているのか遠慮しているのか分らぬが、力加減が均一ではなく握っては、思い直して力を緩める事の繰り返しで不安定な握り方だった。

女の手は先ほどまで濡れタオルで俺の身体を拭いていたためか、手の感触はひんやりしている。

そして、掌の表面のごわついた感触とその表面から下の保冷剤の様な肉感ある柔らかさのギャップが全身を溶かしていった。


それにしても、これは滅多にない美味しい展開だ。

何処をどう考えてもおかしいのだが、今は考えるのを止めて、このビックウェーブに乗ろうと思い、俺は全身を女のされるがままに委ねていた。


◇◇


子なし女の里に滞在して2日目。

俺は自分の身体が若返っている事に気付いた。

前の世界で50歳だった俺は、こっちの世界では20歳の身体に戻っていた。

転生ではない。何しろ20歳の頃の俺なのだから。

それともう一つ不思議な事は、女は決して自分の名を名乗らず、俺の名前も聞こうともしなかった。

そして、建屋の外に出る事も禁じられていた。

俺がここでやる事は三食のメシを食べる事と、あの女を抱くことだけだった。


◇◇


子なし女の里に滞在して7日目。

俺は陰部の猛烈な痒みに襲われていた。


痒い。とにかく痒い。

じっとしていられないくらいに痒い。

我慢できずにモジモジしてしまう位に痒い。

痒いのは尿道なので、直接患部を掻くことができない。

アレを両手で挟み込んで押し潰し、尿道を潰すことでしか痒みに対処できない。

隔靴掻痒(かっかそうよう)とはまさにこの事であった。


あの女に感染(うつ)された。

この症状は、間違いなくクラミジアだ。

前の世界だったら泌尿器科に行って抗生物質を処方し、毎日抗生物質を服用してから毎日3リットルの水を飲んで小便で尿道にいるクラミジア菌を洗い流せば1か月で治るが、この世界に抗生物質があるか分からない。

さすがにこの痒みを我慢し続けるのはきつすぎる。


扉をノックする音がした。

俺の返事を待たずに2人の女が部屋に入ってきた。

一人は俺にクラミジアを感染(うつ)した中年女。

もう一人は40歳位の、いかにも高価そうな木目細く、艶やかな水色の光を放つワンピースを着た女だった。

隣の女よりも見るからに立場が上に見えた。


「申し訳ありませんッ!」


俺に病気を感染(うつ)した女が開口一番謝ってきた。


「おいおい、ふざけるなよ。謝ってきたという事は、病気を持っているって自覚していたって事じゃないか。感染すると分かっていながら敢えて俺に迫ってきたというのか?」


俺は嫁以外の女に口汚い言葉を使ったことはこれまでなかったが、今回の件は流石に腹に据えかね、感情を爆発させていた。


「彼女が呪いに掛かっている事を承知で、あなたに抱かれる様、命令したのは私です。」


ワンピースの女が口を挟んできた。

何を偉そうに言ってんだと思って俺は怒りのストレスで胃が痛くなった。


「は? 呪い? これ病気でしょ。呪いじゃなくて!」


「いえ、呪いなのです。元々ナメコンドではこのような病は無いのです。5年前に王都でこの呪いに掛かった女性が現れ、当該女性と関係を結んだ男性もあなたの様に陰部の痒みで苦しみだしました。」


「いや、だからそれは呪いじゃなくて…」


「この呪いの恐ろしい所は、女性が子供が産めなくなることです。運良く産んでも忌み子として誕生し、母子共々、所属しているコミュニティから排斥され、生きていく場を失ってしまう。」


話の文脈から忌み子とは奇形児の事だろうと俺は推察した。


「男性も呪いに掛かると、所属コミュニティからの排斥は無論の事、娘を持つ親から予防保全と称して性交出来ぬ様、男性の陰部を無理矢理切断される場合もあります。」


おいおいおい。

確かに娘の親の気持ちは分らんではないが、それでもやりすぎだろう。

そもそも、何故これを呪いと頑なに信じるのか、俺には理解できない。


「この子なし女の里は、呪いによってコミュニティから排斥され、行き場を失った女性が生きていける為に私が作った村です。この村を作る過程で心無い中傷や妨害も受けましたが…」


ワンピースの女は村を作る苦労の記憶を脳内で再生したのか、急に押し黙って涙ぐんでいた。

悲劇のヒロイン染みたその振る舞いに、俺は嫌悪感を持った。


「すいません。いくつか質問があるのですが、よろしいでしょうか。」


「はい…。何でしょう。」


「まず、何故あなたたちはこれを呪いと考えるのですか?これは呪いではなく、明らかに病気です。理性的に考えれば、病気である事は明白なのに、何故あなたたちは頑なに呪いと言い張るのですか?」


お前等頭おかしいだろと言いたくなったが、とりあえず、ぐっと我慢した。


「それは、わがナメコンド国最高の預言者であり、矯正委員会の委員長であるウーマ・ヨーコさまが呪いであると認定したからです。」


「……は? それが理由?」


「そうです。ウーマ様はナメコンド国を平和で豊かな国へと導いてくださる尊いお方です。そのお方が、今回の事象を見て、呪いであると言った以上、これは呪いなのです。」


俺は開いた口がふさがらなかった。

こいつらには意志とか判断力といったものはないのか。

口汚い言葉を吐き出したい衝動を懸命に堪えて、俺は質問を続けた。


「この場所が呪いによって行き場を失った女性を救済する村だという事は理解しました。しかし、呪いの性質を分かっていながら何故そこにいる女性と私を関係させたのですか?私には関係のない話ですよね?」


「それは…転移者であるあなたは、今時点に於いて、この世界で家族、親戚、友人がいません。つまり、この世界に於いてどのコミュニティにも所属していないが故に、排斥される懸念がないですよね。」


「それはまあ…そうですね。」


「あなたの様なこの世界で人間関係のしがらみのない方ならば、この世界の住民の様に、呪いに掛かっている事を知られ、所属するコミュニティから排斥される事に対して怯えることもなく、大手を振って解呪法を探すことに専念出来るだろうと私は考えました。」


「はぁ…。」


「しかし、先ほどあなたが実際に申し上げた通り、解呪法を探す動機がありません。私が解呪法を探して欲しいと正面から願いしても自分には関係ないと言って断っていたでしょう。」


「まあ、そうでしょうね。」


「なので、あなたに解呪法を探す動機を()()()()と考え、それを実行しました。今、あなたは、この世界来た使命を得たのです!ここにいる哀れな女を救済する事こそが、あなたがこの世界に転移した使命だと私どもは考えています。その使命を全うすることがあなた自身の呪いの解除にもつながるのです!」


この女の身勝手な理屈と、そして「与えた」とか「使命」とか言葉の選択がいちいち上から目線であった事に頭に来ていたが、女が恍惚とした表情で神の代弁者の如く身勝手なご高説を説いている姿を見て、何を言っても無駄だと悟ってしまった。


何を言っても無駄な奴というのは性別問わず何処にでもいるものだ。

この女はまさにそれだった。


「転移時に所持していた剣を始めとした道具類をここに用意しました。早速ですが、この里を早々に退去して頂き使命を全うして頂いますよう、よろしくお願いします。」


ご高説が終わるとワンピースの女は突然事務的な口調で話し始め、俺は問答無用で子なし女の里から追い出された。

何とも釈然としない痒みを治す方法を見つけるため長いの旅のはじまりだった。


















このシーンは悪党狩り書き始めた時から頭にあったのですが、なかなかそのシーンを書くタイミングにならなかったので、ようやく形にできてとても嬉しいです。

あれもこれもとしていたので分量がとても多くなってしまいました。

読んでいただき、本当にありがとうございます。

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