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悪党狩り  作者: 伊藤イクヒロ
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山頂にて

ムタロウ達がブクロを発って8週間が経った。

一行はナカナマ峠へと続く街道入り口の名もない集落に1週間逗留したのち、ナカナマ峠を越えたところにあるイーブクロを目指し峠越えを始めていた。


名も無い集落に滞在している間、ムタロウはクゥーリィーの魔導の訓練を草原赤犬を始めとした害獣駆除という形で行なっていた。


この駆除を通じてクゥーリィーの火魔導について分かった事は次の通りであった。


・青白い炎は1日1回しか放てない。

・炎の温度調整はできない。

・魔力を増やす修練をしなければならないが方法が分からない。


類稀なる火魔導の才能を有しているクゥーリィーではあるが、世の中そう旨い話がある訳なく、現状クゥーリィーをパーティーの戦力と見做すのは厳しいといわざるを得なかった。


確かに彼女の放つ火線(ファイアービーム)の威力は絶大であったが、1日1回しか使えないが故に、使い所は考えなければならないし、何より、一度使ってしまえば、以降魔力回復するまでの自分の身を守る術がなくなってしまう為、ムタロウはクゥーリィーに火線(ファイアービーム)の使用を禁じ、当面火魔導は種火の使用のみとする旨、言いつけた。

この言いつけを聞いてクゥーリィーは酷く落胆した。


「まぁ気を落としなさんな。イーブクロで新たな魔導教本を見つけて、魔力量を増やすための修練法を探そうじゃないかのぅ。」


ラフェールがうなだれるクゥーリィーを慰めていた。

ラフェールは回復魔導を使うが、回復魔導は蟲を使わない奇跡と呼ばれる類のものであり、魔力量を上げる修練の仕方が異なるため、このような言い方となってしまうのであった。

そんなやりとりをムタロウは遠くから、普段下賎な話しかしないラファールが他人の為に心を割いている事に驚きを以て眺めていた。

同時にラフェールもクゥーリィーの事をとても好ましく思っている事も理解したのであった。


峠越え初日にそんなやりとりがあった事以外は、危険な魔物や害獣の遭遇もなく峠超えはいたって順調であった。


そんなムタロウ達がナマナカ峠越えを始めて3日過ぎた処で、一行は山頂に辿り着いた。

日は既に西に傾いており、陽光はオレンジ色を帯びていたので、一行は山頂で野営をする事となった。


山頂周りを見渡すと同じく野営の準備をしている冒険者一行が3〜4組ほど確認できた。

峠の入り口の名もなき町では誰一人見ていない連中であった。

彼らは、ちらりとムタロウ達を見たが声を掛ける様子もなく黙々と準備を続けていた。

クゥーリィーは彼らはどこから来たのだろうかとふと思ったが、野営の準備をしなければと思い、彼らに向けた意識を今夜の食事となる亀に向けた。


◇◇


その日の夕食はいつもの亀のスープと、途中の沢で採れたサンショウウオの様な爬虫類であった。

亀の〆方はラフェールの意見を尊重し、生きたまま甲羅を外す方法であった。

クゥーリィーは気持ち悪いと言いながらも、手は口とは反対に慣れた手つきで淡々と甲羅を剥がし、肉を洗いったのちに鍋で茹で、灰汁を取った後に味付け作業に入っていた。


「今日は上手く甲羅を剥がせた!」


わちゃわちゃもがく亀を手際よく捌けた事による達成感で思わずクゥーリィーは独り言ちていた。


「生きている亀の抵抗をモノともせず甲羅を剥がす手際は大したモノだ。ていうか、気持ち悪く無いのか?」


「ええ、最初は心底嫌でしたけど3週間くらい毎日亀を捌いていたらいい加減慣れてきて、今度はどうやって苦しませずに捌くか試していたら楽しくなってきちゃったんです。しかし、どれだけ亀転がってんのよと言いたくなりますね。」


「はは。しかし、アイツらのおかげで食い物に困る事はとりあえずなかった。」


「ほんと、そうですね。亀サマサマですね。」


「ワシも亀が好きじゃ、亀が欲しいのぅ。」


「お前が言うと、別の意味に聞こえるので黙っててくれないか?」


そんな他愛もない会話をしている中、ムタロウの背後から人の気配がし、程なく2人の男がぬっと現れた。

1人は身長190センチ程、顔から半分は髭で覆われ、腕には刺青が入っていて如何にもな粗暴な冒険者風情であった。

もう1人は同じく身長は190センチ程で鼻が所謂鷲鼻で全体的には痩せているものの、目には不穏な光を放っていた。


「同業者に挨拶をと思って来たが、亀好きのエロガキかよ。」


髭の男は下卑た笑みを浮かべながらムタロウを無視してクゥーリィーに声をかけてきた。


「…エロガキなどと言うな、亀が好きな子供の女…いいじゃないか。俺のアレを見たら歓喜で卒倒するだろう。お前には子供の女の価値が分からんからそういう粗暴な言い方をする。」


鷲鼻の男もやはりムタロウなど視界になくクゥーリィーの体を舐め回す様に見ながら髭の男に自分の嗜好を説いていた。


「何の用だ?」


男たちのやり取りなど聞いていないといった具合でムタロウは彼らに声を掛けた。


「おや、どこからか声が聞こえるなあ~。どこだ?どこにいる???」


髭の男はわざとらしくムタロウの絵の前で手を額に当てて大げさにキョロキョロしていた。


「俺はここにいる。」


ムタロウは髭の男に向かって淡々とした調子で声を掛けた。


「おおうっ!ここにいたか!小さくてわからなかったぞ!」


髭の男はムタロウの顔を見てニヤニヤしながら大げさに驚いたふりをした。


「皆既日食だな。」


鷲鼻の男もやはりニヤニヤしながら同調していた。


「それで、何の用だ?」


ムタロウはそんな二人の挑発に対して意にも介さず質問を続けた。

そんなムタロウの態度を見て二人は鼻白んだ。


「いや、お前らもイーブクロにポーションを仕入れに行くのだろう?近頃ではイーブクロのポーションを仕入れる為の行商人を狙った強盗団がナマナカ峠を拠点にして活動しているという話だ。見るとお前らはチビのおっさんと、婆ァ、そしてエロガキと、強盗団にとっちゃあ恰好の獲物だ!」


髭の男がベラベラと喋る。

ムタロウは表情一つ変えずに髭の男の話を聞いていた。


「…だから、お前らはイーブクロまで護衛してる。20万ニペスだ。20万ニペスで安全が買えるならば安いものだろう。強盗団に狙われたら有り金は取られる。お前と婆ァは真っ先に殺され、そこのエロガキは散々犯された挙句に人身売買だ。」


鷲鼻の男が言葉を続けた。

こちらは抑揚なく話をする。


「なるほど。言いたい事は分かった。申し出はありがたいが護衛はいらん。20万ニペスもの大金も持っていないし、それに自分の身は自分で守る。用件は済んだのでもういいか。」


ムタロウは二人の提案をにべもなく断った。


「それに、おれは小さいから強盗団も気づかないだろう。皆既日食状態になるからな。」


ムタロウは二人に対し悪意を込めた笑顔を見せた。


「…!」


男たちはムタロウを睨みつけながら離れていった。


「あれは何なんですか!下品で粗野で腹立たしい!」


クゥーリィーが顔を真っ赤にして怒っていた。


「ひひ、頭が悪いやつらというのは、どうしてこうも分かりやすいのかのぅ。」


ラフェールが面白そうに評する。


「ああ、まったくだ。今晩は狩りの時間の様だな。」


ムタロウも楽しそうにラフェールに答える。


「???」


「まあいい、メシを食ったら休むぞ。クゥーリィーもさっさと寝ろ。」


ムタロウは楽しそうにクゥーリィーに就寝を促す。

クゥーリィーは、不思議そうな顔をしながら焼いたサンショウウオの様な爬虫類を口にするのであった。


◇◇


その夜、クゥーリィーは、多数の人間の歩く音や剣ががしゃがしゃ跳ねる音を聞いて目が覚めた。

上半身を起こし辺りを見回すと、クゥーリィーのすぐ前にムタロウとラフェールが立っていた。

クゥーリィーは彼らが向けている視線の先に目を向けると、そこには10人程の人影がクゥーリィー達を囲む様な形で星の光に照らされゆらゆらしていた。


「強盗団ッ?」


思わず、クゥーリィーは声を出していた。


「よお、起きたか。」


ムタロウはクゥーリィーに気付き声を掛けた。

その声は玩具を買い自宅に帰り包装を開ける前の子供の様に弾んでいた。


「今夜襲撃があると予想はしていたが、あそこにいた連中全員が強盗団だったとはなア。」


ムタロウは楽しそうに言葉を続ける。


「夕方態々やってきて、自己紹介しているんだから頭悪いよなァ、ラフェール。これまで散々やりたい放題やってきたのだろうから、人間とは言え、狩っていいよなァ。」


「ワシは慰安専門だからお前が怪我をしたら治してやるのじゃよ。その代わりお前のアレを後で触らせろ。」


「残念ながら怪我することはないと思うぞ、クゥーリィーだけ見ていてくれや。」


そう言ってムタロウは人影に向かって走っていくのであった。









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