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第8回 覆面お題小説  作者: 読メオフ会 小説班
5/10

午前零時の案内人 ―殺し屋編―

今どきの殺しっていうのはチームでやるもんなんだ。

殺し屋っていうと一匹狼ってイメージだろ。そういうのは所詮フィクションだ。現実のこの世の中、人殺しって犯行を一人でやるには荷が重すぎる。役割分担が重要で、それぞれが役割を全うして成し遂げることができる。普通の会社と同じさ。営業、製造、総務とか色々あるだろ。俺らのチームの場合、情報収集、ハニートラップ、雑用、実行犯と四人でやっている。

 

情報収集はダークっていう三十前後の男だ。本名は知らない。俺らはそれぞれの素性は知らないんだ。能力があって役割さえ果たしてくれればそれでいい。ダークは元々引きこもりでコンピュータウィルスとか作ったり、ハッキングをしていたらしい。一度やらかしてムショに入っていたんだが、務めを果たしてフラフラしていたところを拾ってやった。前科があろうが関係ないね。俺は使えると判断した人間を使うだけだ。ダークにはターゲットの情報収集をやってもらっている。ダークの手にかかればパソコン、スマホに入り放題で情報がザルのように筒抜けだ。SNSはもちろんログインし放題だし、どんな検索をしてるなんかもわかる。これでターゲットの性格や行動を把握し、もちろん脅しのネタなんかも手に入る。


ハニートラップはmikaっていう女子大生だ。SNSでのフォロワー数が数百万というインフルエンサーでもある。なんでそんな女が殺しに加担してるかって。単純にヤバい女なんだよ。ターゲットをハニトラにかけて誘導し、そいつが死ぬのが楽しいんだ。表は若い女から憧れのインフルエンサーとして見られ、裏では殺し屋というチームに所属している。俺はオモテ・ウラがある奴が大好きでね。それこそ人間味があるといえる。元々mikaは一人で殺しをやっていた。だがやはり一人で殺しをやるには荷が重い。それにmikaはターゲットが死ぬ様子を見るのが好きなだけで、自分で実行をするのは後ろめたさがあったようだ。俺のチームに入れば自ら手を汚すことなく人の死を間近で見ることができる。マジで狂ってる女だよな。殺しにおいて女は重要な存在だ。男は若くて可愛い女には抗えない。mikaが入ってから格段に殺しがやりやすくなった。


雑用は剣蔵という爺さんだ。あらゆる殺し屋の雑用をやってきて、今は俺のチームに入ってもらっている。殺し屋の世界で剣蔵を知らないヤツはいないっていうくらい有能な爺さんだ。剣蔵は何でもやる。車の運転、鍵開け、死体処理、トラブル対応、剣蔵無しではまずこの仕事は成り立たない。剣蔵はとにかく金だ。金さえ払えばなんでもする。有能すぎて他の殺し屋からの引き抜き勧誘が多く、引き止めておくのも大変なんだ。剣蔵にはかなりの報酬を支払っているが何に使っているのかは謎だ。身なりは質素だし、家を持たずホームレス同然の生活をしている。博打、酒、女とも無縁だ。まぁ、他人の詮索をしないのが俺らの流儀。仕事さえしっかりしてくれればそいつがどんな生活をしていようが関係ない。


そして実行犯は俺だ。ダーク、mika、剣蔵がいくら頑張ったところで結局は俺にかかっている。失敗は許されない。フィクションの世界の殺し屋はあっさりと殺しをするが、実際に人を殺すってなると恐ろしく神経を使う。だから依頼は月に一回までと決めている。その代わり仕事の成功率は100%だ。報酬も高額だが依頼は絶えない。俺にはポリシーがあってね。悪い奴しか殺さない。別に俺が正義を気取っているわけではない。単純に悪いことをしている奴が痛い目を見るのが愉快でたまらないんだ。てめーは人に悪いことをしておいて、まさかてめー自身が悪いことをされるなんて微塵も思っちゃいない。そんな奴を殺すことほど楽しいことはない。まぁただ、俺は殺しをする際にはあっさりと殺す。いたぶったり拷問したりする趣味はない。同業者には拷問がとにかく大好きな奴もいたりするが、そいつに狙われたターゲットは可哀想だと思うよ。俺なら痛みなくあの世に送ってあげられるのにな。


ところで、俺らのチームは”午前零時の案内人”と呼ばれている。実行するのがいつも午前零時付近だから、同業者からそう呼ばれるようになった。午前零時っていうのは絶妙な時間帯でね。基本的には静かな時間帯だが、まだ若干騒がしかったりもする。午前零時よりも前だと人目に付く可能性が高まり、午前零時より後だと静かすぎてなにかあったとに周囲に響く可能性が高い。午前零時が実行するのに一番適しているんだ。


おや? どうした、真っ青な顔をして?

時計をチラっと見てそろそろ午前零時だと気づいたのか?

そしてお前自身がターゲットだとようやく気づいたのか?

俺には悪い趣味があってね。ターゲットに俺らのチームの話をついしてしまうんだ。殺し屋っていう仕事は完全に極秘でなければならない。ただ唯一、内容をべらべらと話しても良い相手がいる。それは殺しのターゲットだ。どうせすぐに死ぬんだしな。


どうした? 体が動かないか?

さっきまでお前が一緒に飲んでた女、あれがmikaだ。

そしてバーテンダーは剣蔵。剣蔵は変装の名人でもある。普段は質素な身なりの爺さんだが、もしかしたらあれすらも変装かもな。剣蔵がお前の飲み物に薬を入れておいた。


お前は年寄りから散々巻き上げてきたらしいな。お前の殺しの依頼はその年寄り連中だ。俺の殺しは高額だから、年寄り連中が必死に金をかき集めてきて依頼してきた。お前に毟り取られて無一文同然となったのに、それほどお前のことを恨んでいたようだ。俺はお祖父ちゃん子だったんでね。特に年寄りを騙すやつは許せないんだ。ちなみにダークがお前の口座に侵入してあらゆる資産はこちらに移しておいた。これは年寄り連中に返金することにしよう。


そんな顔をしてどうした? 

まさかお前、自分だけは絶対に悪い目に合わないと、おめでたい頭をしていたんじゃないよな?

mikaみたいな女がお前みたいな野郎に近づいてきて勘違いしたか?

まぁ一時の愉悦の時間を味わえたんだ。冥土の土産となったな。


……少し喋りすぎたな。もう午前零時になりそうだ。

おう、mika。やっと来たか。そろそろだ。

それにしてもmika、お前の今の形相、ものすごいことになってるぞ。

え、これから死の瞬間に立ち会えるから嬉しくてたまらないって。

ほら、こいつもビビってる。さっきまでの顔とはまるで別人だからな。


ちなみに今回、俺は殺しはやらない。

年寄り連中からの依頼で、殺せる寸前のセッティングまでしてくれればいいと言われたからな。

じゃあ誰がやるのかって。

もういつでも実行できるから入ってきていいぞ。


ほら、お前が騙して金を毟り取ってきた年寄り連中だ。


これで依頼完了なので俺は帰るぜ。

mikaは思う存分見学すればいいし、お前の後始末は剣蔵がやってくれる。

ダークにも労いの電話を入れないとな。


じゃあな。


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