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第8回 覆面お題小説  作者: 読メオフ会 小説班
3/10

『午前零時の案内人』:シチレアの二人の少女

 シチレアは「雨が止まない町」と言われている。気象台の報告によると、一年の通して雨の降る日が多い。そして、雨が降らなくてもどんよりとした雲がシチレアを覆っている。

 この気候のためか、シチレアでは屋内で楽しむ娯楽が発達した。芸術もその一つである。大陸全土を見渡しても、シチレアを越えるほどの数の美術館や劇場を有した町は無い。

 シチレアの人々は、美術館や劇場に足を運ぶ。特に劇場ではオペラの人気は高い。

 ただ、これはあくまでもシチレアの「表」の話しである。

 「表」があれば、必ず「裏」がある。「裏」のシチレアは「血が流れる町」と言われている。シチレアはマフィアの町である。


    ※


 チリアーヌは、シチレア中央駅に降り立った。うーんっと両手を上に上げながら大きな伸びをする。

「夜行列車の三等席はキツいな。ボスに頼んで二等席にしてもらえば良かった」

 肩から下げた二本の細剣を背負い直して、駅舎を出る。

「久しぶりだな。いや、懐かしいというべきか」

 幸いにも雨は降っていなかった。雨具を用意していなかったので好都合だった。空を見上げると、厚い雲が頭上を覆っていた。

 チリアーヌは中心街へと向かうことにした。石畳の歩道を歩きながらチリアーヌは、棒付きの飴を取り出し、口に咥えた。今日は故郷であるシチレアに三年ぶりに戻ってきた。懐かしさもあるが、人通りが無く、閑散とした中央通りを見ると、心がざわつく。

大龍門ダイロンメンと比べると、雰囲気が違うな」

 飴を舐めながら、昨日までいた町のことを思い出す。

 ここは悪くは無いが、ちょっと異常である。

 途中の煉瓦壁にポスターが張り出されていた。舞台の宣伝広告のようで、古いポスターの上に重ねるようにして新しいものが張られていた。目に付くものがあった。

 ポスターの中央に黒いドレスを着た少女がスポットライトを浴びていた。その上部にタイトルである『オペラ 午前零時の反逆』が厳かなフォントで書かれていた。小さな文字で「中央劇場」という記載もあった。

 チリアーヌはこの広告を壁から破り取った。そして、劇場へと向かうことにした。


 雲の厚みが増し、ポツポツと雨が降ってきた。その雨が石畳の地面にはねる音の中に、微かに鈍い音が聞こえた。

 これは大龍門で何度も聞いた、人が殴られ、地面に叩きつけられる音だ。

 好奇心は猫を殺すという言葉がある。ボスからも「変な事件を起こすな」と強く、何度も、耳にタコができるくらい聞かされた。ただ、特殊急便業プライベート・クーリエをやっていると、いろいろな事件に巻き込まれる。これには暴力沙汰も含まれる。

「折角の帰省だから首を突っ込まないようにしよう」

 チリアーヌは自分を戒めるようにつぶやく。ボスには問題事をさっさと片付けて戻ってこいと言われたことを思い出した。


 ただ、自分から問題事を避けていても、向こうから問題事がやって来ることが常である。

 路地裏から若い男が飛び出してきた。

「やめぇくれ、俺は何も知らないんだ」

 白いシャツに青いズボン。シチレアの典型的な労働者だ。

 男を追うように、二人の黒服が出てきた。

 大龍門では見慣れない人たちだが、チリアーヌにとっては懐かしいと思ってしまう服装だ。

「俺はファミリーにも、マフィアにも一切関わっていない! ただ、平穏に暮らしているだけなんだ!」

「お前の店で薬の売買をしているのは知っているんだ。許さねぇぞ」

 チリアーヌには見ぬふりをすることができた。久しぶりに故郷に戻ってきて、やっかいな事はごめんであった。

「おい」

「ぁあん」

 黒服の一人が厳しい視線を向ける。

「一般人は引っ込んでいろ。お前が見るものじゃねぇ、どっかいけ」

「そこの人は、一般人に見えるが、あまり痛めつけないほうがいい」

 チリアーヌは飴を舐めながら答える。

「関係ねぇヤツが首を突っ込むことじゃねぇよ、どっか行け!」

 黒服の一人が近づいてくる。

「おい、かわいい顔をしているじゃねぇか。ちょっと遊ぼう。これからベッドの上でドートル・ファミリーの強さを味わって貰う。その前に、」

 黒服は腰から短剣を引き抜いた。

「まずは、これで俺の強さを教えてやる」

 黒服はチリアーヌの肩に手を乗せた。

「君たちはドートルの者か。当主はフィル、それとも、グライスになったのかな」

「ほう、ファミリーのことを知っているじゃねぇか」

 黒服はにたりと笑う。チリアーヌは小さくなった飴を噛み砕き、棒を口から吐き出す。

「まぁ、私にとってはどうでもいいことだな。それより、その汚い手をどけろ」

 黒服が反応する前に、彼は地面に倒れていた。

「剣を抜くほどの事でも無い」

 チリアーヌは剣の柄で黒服をなぎ倒した。

「おい」

 もう一人の黒服がチリアーヌに近づこうとする。

「・・・黒い髪、赤い瞳、二刀流。まさか、テリアル家の一匹狼、チリアーヌ」

「久しぶりにその名前で呼ばれたな」

 黒服は倒れている相方を担ぎ上げて逃げていった。

「あの、」

 倒れていた労働者が足をふらつかせながら立ち上がる。

「あの、その、さっきのマフィアたちは、あなたのことをチリアーヌと言っていたが、」

 チリアーヌは鞘ごと外していた剣を背中に担ぎ直す。

「その黒い髪と赤い瞳はまさに」

「そうだ、私はテリアル家のチリアーヌだ」

「本当に、帰ってきたんですか」

「私の故郷だからね。ところで、これから本降りになるのか? 傘を持ってこなかったんだ」

 チリアーヌは大きな雨粒が落ち始めた灰色の雲を見上げた。


 チリアーヌは劇場の中に入った。先ほどの労働者は、チリアーヌの名前を知った途端に、慌てて逃げて行った。彼は傘を忘れて行ったが、チリアーヌはありがたく借りることにした。

「お客様、まだ開場前でございます・・・」

 劇場のホワイエに入ったところで、奥から劇場の制服を着た若い係員がやって来た。

「ここに、アソラはいるか?」

「はい?」

「このポスターに載っている、この人のことだ」

 チリアーヌは煉瓦壁から破り取ったポスターを係員に見せた。

「お客様、舞台の関係者についてお話することはできません」

「そうか。なら、自分で探す」

 チリアーヌは係員を押しのけようとする。

「お、お客様、開場前につき、劇場にはまだ入場できません。もし今日の公演を観劇したいのであれば、チケットボックスが入口横にございますので、そちらでチケットをお買い求め下さい。後方になってしまいますが、まだ席が空いております!」

「いや、私はただアソラに会いたいんだが、」

 チリアーヌと係員が押し問答をしているところで、初老の男性がやって来た。

「支配人!」

「どうしたのかね」

「こちらの方が開場前に劇場に入ろうとするのです」

「ふむ、あなたは」

 チリアーヌと老人の視線が合わさった。

「チリアーヌ、」

「ロドじぃ、久しぶりだな」

「チリアーヌ、無事でいらっしゃったのか、チリアーヌ。どうぞ中にお入りください」

「支配人!」

「この方はねぇ、この街、シチレアにとってとても大切な方だ」

「ありがとう、ロドじぃ。アソラは中にいるか?」

「アソラ様なら大講堂でリハーサルを行っています」

「そうか、ありがとう。どうか許してくれ」

 チリアーヌは劇場の中へ入った。

 舞台の中央では黒いドレスを着た少女が熱を持って歌唱をしていた。舞台の左側では小太りの男が少女を支えるようにアルトで歌う。

 チリアーヌは後方の席に座る。そして、少女の歌声に耳を傾ける。


 ※


 シチレアを舞台にした物語が語られていた。

 シチレアはマフィアの町であった。特に五大家と呼ばれる、五つのマフィア組織がシチレアを牛耳っていた。それぞれに専業があり、互いの事業に影響を与えないように、また時には干渉し合いながら、長らくシチレアを支配していた。

 物語は十年前の出来事に遡る。

 テリアル家という五大家の一つがあった。この家はシチレアの経済や貿易に関わっていて、その関係もありシチレアの外とのつながりも多い。当時の当主は先進的な人として知られていた。シチレアに新しい風を吹き込んだ。これにより五大家がバランス良く存在していた体制から、テリアル家一強の時代が来たと思われていた。

 それから七年後、三年前のある日、テリアル家の屋敷が火災にあった。これはテリアル家に対抗心を持ったとある一家の下級構成員によるものと思われるが真相は明らかになっていない。

 大きく炎をあげた屋敷を見て、シチレアに大きな衝撃と動機づけを与えた。日頃からテリアル家に恨みを持っていたマフィアが一斉にテリアル家を襲撃した。

 この日は「テリアルの恐怖」と呼ばれた。

 ただ、当時を知らない、特に若いシチレア市民にとって、これは誤った名付けだという。本来は「テリアルの没落」や「テリアルの終焉」といったほうがよいはずである。

 これには、続きの物語がある。

 テリアル家の屋敷が炎に飲み込まれた、その日の午前零時、ちょうど日付が変わった時、一人の少女が燃え落ちる屋敷から出てきた。

 この夜、テリアル本邸を襲撃したマフィアの構成員は誰一人成功を収めなかった。多くの者は負傷して逃げ出し、死んだ者もいる。全員口々に、テリアルの「一匹狼」について話していた。

 テリアル家には剣を二本操る少女がいた。次期当主と言われた存在であった。彼女はテリアルを襲う全ての敵を切り倒し、燃える屋敷から出てきた。そして、テリアル家唯一の生き残りとなった。

 この夜に起こった出来事はテリアル家の崩壊と消滅であり、これによりシチレア・マフィアの構成図が大きく変わった。

 旧来の五大家――テリアルの消滅により四大家となった――の他に、新興組織がいくつか立ち上がった。テリアルの地盤を引き継いだ組織もあった。

 どの組織にも「テリアルの一匹狼」と呼ばれた少女はいなかった。

 彼女はシチレアを去ってしまった。

 二刀流の少女は、テリアルの名前と共に、永遠にシチレアのマフィアの記憶に残った。


 ※


 舞台の少女は歌い上げた。

 静寂の後、ゆっくりと舞台の照明が消える。

 一人分の拍手が客席内を響く。

 チリアーヌは、一定のリズムで両手を打ち鳴らす。

 すぐに照明が点灯する。

 部外者がホールに入ってきたことに気づいていなかったのだろう。前方に座っていた舞台関係者がチリアーヌへ振り向く。嫌そうな表情を浮かべる者もいた。

 ステージ上の少女は、予想外の拍手に一瞬驚きの顔を浮かべたが、すぐにそれを上回る笑顔を見せた。

 少女はステージから飛び降り、客席の通路を駆け抜ける。

「チリアーヌ!」

 チリアーヌは席から立ち上がる。

「チリアーヌ、いつ帰ってきたの? 今日? 連絡をしてくれたら迎えに行ったのよ。雨が降っていたでしょ、いつもの事だけど。それで、いつまでいるの、今夜舞台をやるけれど見に来れる?」

「アソラ、久しぶり。いっぺんに全部答えられない」

「そうだったわね。これだけ教えて、いつまでシチレアにいるの?」

「わからない。今日大龍門に戻ると言ったら、アソラも一緒に来る?」

「うーん」

 アソラはステージの前に集まっている劇場スタッフに視線を向ける。

「ちょっと待ってね」

 アソラは客席の最前列に座る男性に向かって駆け寄った。

 一言二言相談した後、すぐに戻ってきた。

「ちょっと休憩時間を貰ったわ。少し話しましょう」

 アソラはチリアーヌを引き連れてホールを出た。

 関係者以外立ち入り禁止と書かれたプレートを貼り付けた扉へ入る。ここは劇場のバックヤードのようだ。

「ここが空いているわ」

 ソファとテーブルの応接セットが置かれた空間に立ち入る。

 アソラはすぐにソファに座る。チリアーヌは彼女と向かい合うように着席する。

「チリアーヌ、さっき言えなかったことがあるのよ」

「何?」

「もし、あなたが今私をここから連れ出してくれたら、すぐにでもこの町を出て行くわ」

「どういうこと?」

「私ね、大龍門の劇団からお誘いを受けているわ。すぐにでも向こうのステージに立てる。ただ、」

「今日の舞台に出たい」

「それもそうなんだけど、私の家のことも知っているでしょ」

「アソラは、どこだっけ? ルミナス、それともドートル?」

「グラフィアス家だよ。チンピラのドートルと同じにしないで」

 グラフィアス家は、テリアル家がシチレアの筆頭の時の第二位で、今ではシチレアのほとんどを手中に収めている。

「私はグラフィアス家から逃れられないの。あなたと違って、自分の生まれた家との関係は切れないわ」

「私は逃げたくて切った訳ではない。勝手に切れた」

「そう、あなたはあの事件があったから家とも、マフィアとも、この町とも関係を切ることができた。ただ、事件があったからといって、簡単に関係は切れないわ。やっぱりあなたは強いのよ」

「そう」

「だから私を連れ出して。この町から私の逃して」

 チリアーヌはアソラの言葉を考えていた。自分の過去をもう一度思い返そうとした。

「・・・来た」

「え、何?」

「アソラ、最初に謝っておく。ごめん」

「何? チリアーヌ、どうしたの?」

 チリアーヌはソファから立ち上がる。剣に手をかけながら部屋を出た。


 チリアーヌは劇場のホワイエに戻って来た。

 劇場の係員が誰かと怒鳴りあっていた。会話の中から微かに、テリアルやチリアーヌの名前が聞こえた。

「何事?」

 チリアーヌの存在に気づいたマフィアの一人が大きな声をあげた。

「おい、一匹狼」

「私のこと?」

「復讐だ。やっと恨みを晴らせる」

 マフィアたちはコートの内側や腰のベルトから自分の武器を取り出す。

 一触即発の中で支配人の老人が前に出た。

「待ちなさい」

 劇場の支配人であるロドリゲがマフィアとチリアーヌの間に立った。

「ここは劇場だ。劇場は芸術を鑑賞するための神聖な場所だ。血と暴力で汚したくない。もし、ここで争うのなら、私も混ぜて貰う」

 チリアーヌは、ロドしぃことロドリゲは実力のあるマフィアだったことを思い出した。

「うっ」

「私はどこでも構わないが、ロドじぃが言うのなら場所を変えよう」

 マフィアたちの中で動きがあった。後ろから現れた人を通すように、マフィアたちは誰かが前に進み出てきた。

「グラフィアス家のサリアスか」

 ロドリゲは嫌そうな表情を浮かべた。

「いつ来てもしみったれた劇場だな」

「何しに来た」

「そこの反逆者に会いに来た。ついでに娘を引き取りに来た」

「私にはそういう予定は無いのだが」

 チリアーヌはいつでも抜剣できるように、剣の柄に手を添える。

「会いたいとは思っていなかった。笑わされることを言う。お前がこの町、このシチレアに何をもたらしたか、知らないとは言わせないぞ」

「サリアス、ここは劇場だ」

 ロドリゲがチリアーヌとサリアスの間に入る。

「そうさ、劇場だ。シチレアの古いものが詰まった、カビ臭い場所だ。俺はここを打ち壊す」

「私は、」

 チリアーヌには言葉が継げなかった。

「ちょうどいい、テリアルが生み出した一匹狼とシチレアのつまらない因習をここで断ち切ろうじゃないか」

 サリアスは背中から大きな剣を取り出した。

「下がって、」

 サリアスの一振りでホワイエに設置されたテーブルやソファが吹っ飛んだ。劇場の係員も壁まで吹っ飛ばされて、うめき声をあげる。

 チリアーヌはロドリゲの前に立ち、剣を抜いていた。

「さすがテリアルの一匹狼。俺の剣を防いだ」

 サリアスの振るった大剣はロドリゲを狙っていた。チリアーヌはロドリゲを守るためにサリアスの剣を防いだが、その威力を消すことはできなかった。

「ロドリゲ、宣戦布告だ。このシチレアを変える」

 その一声でサリアスの傘下のマフィアたちが一斉に動き出した。

「すまない、私が戻ってきたことでこの事態を招いた」

「気にするな、それよりも早くアソラのところへ行きなさい! そしてアソラをこの町から連れ出しなさい。彼女も君と同じように、この町の外でも生きていける」

「ロドじぃは」

「私は問題ない」

 ロドリゲはジャケットの内側からピストルを二丁取り出し、それぞれ左右の手に持って、劇場に入ってくるマフィアに向けて撃った。

「早く行きなさい」

「ごめん、ロドじぃ」

 チリアーヌはマフィアの一人を切り倒して、アソラまでの道を切り開く。

「チリアーヌ」

「何?」

「こういう時は『ありがとう』と言うんだ」

「そう。ありがとう、ロドじぃ、そして、さようなら」

 チリアーヌはマフィアたちを飛び越えて、劇場の奥へと進む。


 劇場内では至る所で戦闘が繰り広げられていた。シチレア中のマフィアがこの劇場を目指しているようだ。

 チリアーヌはマフィア同士の戦闘を掻い潜りながら、ステージへと向かう。

 アソラは一人ステージの上に立っていた。

「アソラ」

「チリアーヌ!」

「行くよ」

 チリアーヌはアソラの手を取り、ホールの出口へ駆ける。

「行かせない」

 サリアスが二人の前に立つ。

「チリアーヌと、私の娘。私は芸術に疎くてね。こんなものは無くてもいいと思っている。だから、ちょうどいい、古いシチレアと一緒に消えて貰う」

「アソラ、下がって」

 チリアーヌは、アソラを庇うようにサリアスの前に立つ。

「私は十五歳でこの町を出た。運良くボスが拾ってくれたので、今まで生き延びることができた。三年も経ち、今日、過去を清算する時が来たと思う」

「清算か。テリアスにはお前が負えないくらいの負債があると思うけどな」

「そうかもしれない」

 チリアーヌはアソラだけが聞こえるように小さな声で言った。

「アソラ、ごめん。ありがとう」

 チリアーヌは抜剣する。

「ここで全てを断ち切る」

 アソラの目には高速で振られるチリアーヌの細剣がサリアスの首を狙うのが見えた。サリアスは自分の大剣で首を守り、そしてカウンターを放つ。チリアーヌの細かい剣裁きとサリアスの大剣がぶつかりあう。

 そして、勝負は一瞬で決着がついた。

 サリアスは地面に膝をついた。

「テリアルの、一匹、狼よ」

「これでシチレアとも、テリアルとも関係が切れたと思っている」

 チリアーヌはアソラの手を取る。

「行こう」

 二人は劇場を飛び出した。

「アソラ」

「何に、チリアーヌ」

「ごめん、いや、ありがとう」

「また同じことを言っている。どういうこと?」

「これから、大龍門へ行こうと思っている。それで、」

「いいんじゃない。私も行く!」

「ありがとう」

「まずは駅に向かわないとね。この時間だと、三等席しかないと思うけど、もうすぐ大龍門行きの列車が来るよ」

「はぁ、仕方がない、急ごう」

 チリアーヌは駅までの道すがらで何人ものマフィアを切り倒した。


 ※

 

 大龍門の小劇場でミュージカルが上演されていた。

 この物語にはマフィアの家に生まれた少女が二人いた。片方はマフィアの娘でありながら、歌と演技で生き延びようとする。もう一人は、あまりにも強い力を持っていたために憎まれ、やがて火災で全てを失ったことにより、町の外へ出て行った。数年後に町の外へ出た少女が戻ってきた。彼女は町に残った少女を連れて町の外へ出た。

 その作品のタイトルは『午前零時の案内人』。

 チリアーヌは棒付きの飴を舐めながら、華やかな衣装を着た親友を眺めていた。

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