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28*地下墓地の入り口

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「さて、ここだ」


 目的地に着いたのは、それからすぐのことだった。


 普段は立ち入る人もいないのか、明かり取りの窓の数が少ない。

 通路の隅にはほこりが積もり、一目で寂れた場所だとわかった。


「さぁ、コルテ。扉を開けて」


「は、はい……」


 薄暗さにやや不気味な空気を感じながら、コルテはジロンドに促され、目の前の扉に手を伸ばした。


 ギギギ、と軋る音を立てながら、扉が開く。

 恐る恐る中をのぞくと、ひんやりと湿った空気が鼻先をかすめていった。


「コルテ、壁に蝋燭があるから灯してくれ」


「わかりました……“ともしび”!」


 コルテがつぶやくと、ボッボッボッと奥へ向かって一つずつ蝋燭に灯がともる。


(なにこれ。すごい!)


 どういう仕組みなのかわからないけれど、まるで絵本に出てくる迷宮にあるような仕組みだ。

 少しワクワクしている自分に気がついて、コルテは慌てて気持ちを引き締めた。


 見る限り、この部屋はとても古いもののようだ。

 神殿が建てられるよりもずっと前、おそらくは魔塔と同時期に建てられたという木造神殿の頃からあるのだろう。魔塔の石壁と、似たような雰囲気を感じる。


 縦に長い部屋の奥にあるのは、地下へ向かう階段らしかった。

 階段の手前には看板が立ててあり、『ここから先は死者の国。お心静かにご入国ください』と書いてある。


「……なるほど」


 と言いつつも、コルテは混乱するばかりだった。

 どうやらコルテは、地下墓地へ案内されていたらしい。


(しかし、あてとは……?)


 こんな場所に人がいるとは思えない。

 かと言って、死者にコルテを任せるなんて馬鹿げている。


(でも、木を隠すなら森と言うし……人を隠すなら地下墓地というのもあながち間違いではないのでは?)


 地下墓地ならば、一時的に(ひつぎ)が置かれていたっておかしくはない。

 その中に生きた人間が入っているとは、思いもしないだろう。


(魔塔へ身を寄せてからたくさん本を読んだせいかしら……発想が豊かになった気がするわ)


 以前のコルテだったら、こんな想像をすることさえできなかっただろう。

 日々を生きるだけで精一杯で、本を読む暇もなかったから。


 魔塔の魔法使いたちはあれでいて読書家らしく、コルテの勉強になればとおすすめの本を貸してくれることがあった。

 その中の一冊に似たシチュエーションがあって、だからそんな発想を思いついたに違いない。


(それはそうとしても……)


 コルテの混乱は増すばかりだ。

 ジロンドにどんな意図があるのかわからず、コルテの足は躊躇(ためら)うように立ちすくむ。


「あの……ジル様? ここに、その……あてがあるんですか?」


「ああ、下にいるはずだよ」


 彼は「いる」と言った。

「ある」ではなく、「いる」と。


 少なくとも、この地下墓地にコルテ一人を置き去りにしていくつもりではないようだ。

 棺に身を潜める可能性がなくなったことに安堵(あんど)しつつ、ではこんな場所に誰がいるのだと不思議に思う。


「さぁ、行こう。おいで、コルテ」


 コルテに抱きかかえられたまま、ジロンドは言った。

 エスコートする代わりなのか、鉢からはみ出した根がシュルリとコルテの腕にまとわりつく。


 それはまるで、腕を組んでいるかのようで。

 ささやかなスキンシップに、勇気をもらう。

 コルテは唇にうっすらとあるかなしかの微笑みを浮かべると、死者の国へと降りていった。


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