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愛のこちょこちょ

作者: hito

 彼女の元気がありません。いつも朝に仕事へ出かける時、彼女は玄関まで顔を見せてくれます。元気いっぱいで笑顔を絶やさない彼女が、今日は珍しく真顔に近い状態でした。その変化に気づいた俺は彼女に何があったのか聞きたい思いに駆られました。でも、仕事の時間が迫っていたので仕方なく家を出ることになります。

 いま仕事をしていますが、それに集中できません。彼女の朝の変化の原因が何なのか思い巡らすことをやめられないのです。その原因のひとつとして考えられるのは昨日の出来事でしょう。

 昨日は、俺たちが暮らしている家へ、彼女のお義母さんが遊びに来ていました。どの家庭でもあることですが、母親は娘を愛しているがゆえに、気が付いたところがあれば幾つかちょっかいを出してしまうものです。お義母さんは、いわゆる”無農薬野菜”至上主義のお方です。対して、彼女は野菜を買う時に農薬のことなど脳裏に浮かぶことすらありません。それで、お義母さんが、冷蔵庫にある明らかに無農薬野菜ではない、ツヤツヤで見た目の綺麗な野菜を見た時、親子喧嘩が開戦。開戦数分後、仕事を終えて帰宅した俺が終戦のための仲裁をし、事なきを得ました。ちょうどお義母さんが大根を片手に、彼女が人参を両手に持っている状況でした。

 さて、今日は珍しく残業がなく定時帰社に成功。帰りの電車の中、スマホを開きニュースを見ていると、気になる記事を発見します。それは、親子のスキンシップに関する記事でした。親子のこちょこちょなどのスキンシップは夕方以降が効果的で、シナプスを増やして脳の働きを良くしたり、リラックス効果があったりすると書かれていました。それを読んで、俺が彼女に対してこちょこちょしてみるのはありかもしれないと思い立ちます。そうすれば、彼女の少し緊張した気持ちも和らぐのではないかと思いました。そんな計画を頭の中で練っていたら、いつの間にか電車が降車駅に到着しました。

 俺は頭の中の計画にワクワクしながら、彼女のいる我が家へ向かいます。そして、玄関の鍵を開け、靴を脱いでリビングへ向かうと、ソファーでうつ伏せになってスマホを見ている彼女がいました。

「おかえり~」

 彼女が俺に気がつくと、スマホから目を離して、できる限りこちらに顔を向けて声をかけてくれます。やはり少し元気のない声です。数秒後、彼女は再びスマホに目を戻しました。今が計画を実行する絶好のタイミングだと悟りました。忍者のごとく、静かに仕事用の鞄を足元に置き、右手を彼女のワキへ忍ばせます。

「ふひゃん!!」

 軽めにワキをこちょっとした瞬間、人生でほとんど発することのないような軽い悲鳴が彼女から聞こえました。同時に彼女の手にあったスマホが宙へ飛びます。すかさず俺は持ち前の反射神経を使ってスマホの捕獲に成功。そして、彼女の顔を見ると、朝の表情とは見違えるほど素敵な笑顔になっていました。

「びっくりした!…でも、そっちから仕掛けてくること普段ないから少し嬉しかった!」

 俺は彼女に今日の朝、少し元気がないように見えたことについて尋ねてみました。お義母さんとの喧嘩で元気がなかったのか、と。すると昨日のお義母さんとの喧嘩は日常だからまったく気にしてないということなので驚きました。そして、彼女は少し恥ずかしそうな表情をしながら本心を語ってくれます。

「最近、残業続きで仕事が忙しいのは分かってるよ。でも、ちょっとスキンシップが足りなくて寂しかったの。だから、ちょっと元気なかったかも。でもね!こちょこちょしてくれたから元気でたんだ!ありがとう!」

 まさかの原因俺、解決俺でした。

元気のない原因は、だいたい一番得たい対象からの愛の不足かもしれません。

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