98.悪魔さがし①
リリアがビルバッキオの街に戻ったのは翌日の早朝だった。
門の前の荒れ地で焚き火がたかれ、エスメラルダとルイーズがヴァンサンの看病をしていた。
2人はリリアの姿を認めると、走り寄ってきた。
「リーリちゃん、おかえりー! 無事でよかったしー。安心したしー」
「ほんで、なんかわかったん?」
リリアはローダから聞いた"呪い"の正体を2人に言って聞かせた。
「マジで! 悪魔って実在するわけえ!?」
「そうみたいだね」
「どうするん? リーリちゃん」
「もう少ししたら街の門が開くでしょ。そしたら速攻悪魔探し。だって……」リリアは横たわっているヴァンサンの方を見た。
ヴァンサンを苦しめている青く脈打つコブは体内へ浸食し始めている。三分の一が左胸にめりこんだ状態だった。すでに意識はなく昏睡状態だ。
「時間がないもん!」
「だね! でも、悪魔って人間に化けてるんでしょ? どうやって見分ければいいんだっけ?」
「そや、そもそも悪魔とか会ったことないから、わからへん」
「だいじょぶ! ちゃんと聞いてきたから」
リリアはローダから悪魔の見分け方を伝授されていた。
「聖水をかけるの」リリアは鞄から2リットルほどの容量の大きな瓶を取り出した。「たくさんもらってきたんだー。悪魔は聖水をかけられると、皮膚が焼けるんだって」
朝7時に門が開くと、リリアとルイーズは街の中に入った。エスメラルダは門の外に残り、ヴァンサンの看病をすることにした。
朝のビルバッキオは夜の賑やかさが嘘のように静まり返っている。
「朝寝坊さんな街やな」
「さっきまでどんちゃん騒ぎだったんじゃないかな……」リリアは道端に寝っ転がっている酔っぱらいを見ながら言った」
「なあ、リーリちゃん、どうやって探すん? この街だけでも一万人はおるんやないかな? 一万人に水かけてまわるわけにもいかんし」
「だねえ。まずはヴァンサンさんの家に行って、手がかりを探そっか」
「リーリちゃん、知ってるん?」
「え? 知らないけど」
「あたた、こりゃ先が思いやられるわ……」
リリアとルイーズがまず向かったのは、街の真ん中にある市場だ。市場なら朝早くから働いている人がいるから、話が聞けそうだと考えたのだ。
確かに二人の予想通り、朝一番で届いた野菜を仕分けしたり運んだりと多くの人が集まっていた。
かごいっぱいのカボチャを運んでいる巨漢にルイーズは狙いをつけた。若く、たくましい男だ。ぼーっとしている感じだが、なんとなく柔らかい雰囲気があって優しそうだ。
「忙しいとこ、申し訳ないんやけど、ちょっと聞きたいことがあってん」
「え? 俺?」その巨漢はきょとんとして、ルイーズを見た。
「そうや。お兄さん、ヴァンサンって人知らへん?」
「ヴァンサン……ごめん、ちょっと分かんないなあ」
「エルフと付き合ってる人なんです! けっこう有名なんじゃないかと思って」リリアが言った。
「ああ! 分かった! それ、パティシエのヴァンサンだ」
「パティシエ? あの髪ぼーぼーの髭面が?」ルイーズが言った。
「1番街の真ん中あたりに、彼のケーキ屋があるよ。結構、評判良くて、観光ガイドにも載ってるんだよ。オイラもしょっちゅう食べるけど、すごくうまいよ」
「お兄さん、甘いもの好きなん?」
「うん、大好物だよ」
「私もや、アハハ。ほんまおおきに」
「ありがとうございました」リリアは礼を言って踵を返したが、ルイーズはまだ巨漢の方を向いていた。
「?」
「お兄さん、私、観光で来てんねん。今度、おすすめのスイーツ屋、案内してくれへん?」
「いいよ、また声かけてよ。大体毎日、ここで働いてるからさー」
「約束やで!」
ルイーズが満足げに笑う姿を見ながらリリアは感心していた。
──なにこの自然さ! 出会って3分でデートの約束締結じゃないよ! っていうか、もともと好みの男を選んで声をかけたんだろうけど、すごい! やり手だわ!ルイーズちゃん!! 悪魔探しのついでに男探し、やっぱりここまでやらないと、いい出会いなんてないのか……貪欲さ、そう貪欲さが最後にものを言うのよ!
「師匠! 師匠と呼ばせて、ルイーズちゃん!」
「はぁ? わけわからんこと言ってないで、はよ行くで。ケーキ屋さんにGoや!」
お読みいただきありがとうございます!
もしよかったらブックマーク、感想、レビュー、評価などいただけると大変励みになります。
どうぞよろしくお願いいたします。