97.呪いの正体
動かなくなった滝の裏から、人間の歳で60歳くらいの女性エルフが歩いてきた。不思議なのは、彼女が可憐な少女の佇まいを持っていたことだ。
「クロちゃんのおばあちゃんって何歳?」
「二千……何歳だっけか。あとは知らねー」
「リリアさん、お会いできて嬉しく思います。私はローダリア・ルポラン・フォンデラクルス・メヒアール。ローダとお呼びくださいね」
「ローダ様、私のことをご存じなんですか?」
「もちろんです。あなたのおかげで世界は平和でいられるのですから」
「いえ、私は大したことは……仲間が、仲間たちが頑張ってくれたので」
「まーなんて謙虚なの!かわいいわ!よけいファンになっちゃった!どうしよ!」ローダは急にくだけた口調で言った。女子高生のようなテンションだ。
リリアは戸惑いが隠せなかったが、隣でクロアが耳打ちした。
「ばあちゃんはいつもあんなだから、気にすんな」
「クロアルダ、お久しぶりー」ローダが手を振った。
「ばあちゃん、リリアが聞きたいことがあるっていうから連れてきたんだ」
「でかした、孫よ! で、リリアさん、聞きたいことって?」
「青く脈打つコブが出来て、死にそうな人がいるんです。その人を助けたくて……何かご存じではありませんか?」
「ばあちゃん、アイツだよ。姉貴の彼氏だ」
「ヴァンサン? ヴァンサンなの!?」
「そうだよ! 姉貴と付き合ったから、呪われたってさ。街じゃそう言われてるんだとよ」
「ローダ様、そんなことないですよね!異種間で恋愛したら、呪いを受けるなんてないですよね!?」
「リリアさん、その通りよ。私は2300年生きてるけど、そんなこと聞いたことない。それに、私自身も人間の男性と付き合ったことあるけど、呪われることなんてなかった」
「ばあちゃん、何人、人間と付き合ったんだ?」
「忘れちゃった、アハハ……遠い昔のことよ」
クロアはリリアに耳打ちした。「絶対100は食ってると思うぜ。ばあちゃん、偉大なエルフなのは間違いねーけど、男関係だらしねーからさ」
「ひゃ、ひゃくにん……」一人も付き合ったことのないリリアには天文学的数字に思えた。「まあ、と、とにかく呪いじゃないことは分かったわ……」
「でも」ローダが口を挟んだ。「地方によっては、異種間交際がタブーとされているところもあるわね。だから、呪いなんてデマが流れるのよ」
「ローダ様、ではヴァンサンさんは何が原因なのでしょうか?」
「それは悪魔の心臓よ」
「悪魔の心臓?」
「ヴァンサンの身体にできた青く脈打つコブは悪魔の心臓なの。恐らく、ヴァンサンは悪魔に騙されたのね。マドンジェラの種子を飲まされたんでしょう。マドンジェラの種子は体内に取り込まれると、体外に新しい心臓を作るの。やがて、それは体内を浸食して、元々の心臓にとって代わるの。そうなれば悪魔の一丁上がり」
「悪魔に騙されたというのは……」リリアが訊いた。
「だいたい見当はつきます。人間の弱みや願望につけ込むのが彼らの手口だからねー」
「……エルフにしてあげるって言われたんでしょうか? ヴァンサンさんはクロちゃんのお姉さんとの恋を誰にも邪魔されまいと……」
「そうですね、リリアさん。私の想像もだいたいあなたと同じよ」
「では、ビルバッキオの街に悪魔が潜んでいるかもしれませんね」
「その可能性は高いでしょう。リリアさん、悪魔を見つけるのです。ヴァンサンを治すには、ヴァンサンにマドンジェラの種子を飲ませた悪魔に呪いを解いてもらうしかないのよ」
「悪魔って言うこときいてくれるんでしょうか?」
「勇者リリア、あなたならできる。絶対にできるわ。私からもお願いします。ヴァンサンを助けてあげて。ウィノーラが悲しむ姿など、私は見たくありません」
「ウィノーラって俺の姉ちゃんな」横からクロアが言った。
「わかりました、ローダ様。ウィノーラさんのためにもやってみます」
「それにしてもあの子はどこに行ってしまったのよー。こんな大事な時にー」
「人間に反対されてふてくされてんだろ」
「ねえクロちゃん、そもそもエルフは反対じゃないの? 異種間交際に」
「反対派が大多数だな。ウチはばあちゃんがアレだから……」
「人間ってたまらない魅力があるのよ! エルフにはない愚かさと儚さ、そこがたまらなくカワイイの!」ローダは鼻息荒く言った。
「ま、血筋ってことだな。姉ちゃんが人間とねんごろになっちまったのも」
「私はウィノーラさんとヴァンサンさんの恋を応援するよ! 好きになったら種別なんて関係ないんだもん!」
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