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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
恋の都キャスタロック編
79/108

79.カジノ潜入①

 リュドミラはラジールがピュロキックスの瓶詰めを運び込んだというカジノに来ていた。


 オアシスリゾートカジノ。目抜き通りに立ち並ぶカジノの中でも老舗中の老舗かつ最大の収容人員を誇る。観光ガイドのトップに掲載される超有名店だ。巨大な看板には半裸のセクシーな女性を食べようとする魔物の絵が描かれている。


「趣味わるッ」


 リュドミラはカジノが嫌いだった。ギャンブル狂の男たちにさんざん泣かされた経験があるからだ。中でもこのオアシスリゾートカジノは最悪だ。なぜなら、アイツがいるから。


 レッドガルムなど魔物の迫力ある彫刻、宝石をこれでもかと散りばめたシャンデリア、魔女の秘薬に使われると言い伝えが残るディスコンダルという植物のぐるぐる巻いたツルをあしらった模様の絨毯、どれをとっても趣味が悪いとカジノの中を見渡しながらリュドミラは思った。


──さすが、アイツの趣味だわ。アイツだけには会いたくな……


 と思ったそばから、アイツが視界に入った。人混みの向こうでフロアマネージャーらしき男と話をしている。素性を知らなければ、カジノの従業員にいちゃもんをつけているチンピラにしか見えない。だらしくなく第三ボタンあたりまではずした柄物のシャツからは胸毛がのぞいている。彼の自慢のようで、しきりに胸毛を強調したファッションをする。リュドミラは胸毛自体が嫌いというわけではなかったが、この男の胸毛は生理的に受付けなかった。


 そして、だらしなくぶよぶよした身体に二重アゴ──


 男の名はパラヤン。リュドミラの出演するダンスホールの常連客で、やたらのリュドミラに絡んできてはセクハラまがいの言動をするカジノの三代目だ。会えば必ずボディタッチをしてくるし、何よりも排水溝の匂いの口臭を撒き散らしながら顔を近づけてくる。リュドミラにとって最悪の生き物だった。


 リュドミラはルーレットに興じる一群にまぎれて身を隠した。チラリとパラヤンの方を窺うと、鼻の下が伸びた間抜けヅラが目に入った。目の前でカードゲームをしている若い女の尻に釘付けのようだ。


──ほんと、最悪なクソムシだわ!


 と、言いつつもパラヤンがクソムシであるのはリュドミラにとって好都合だ。これからこのカジノでピュロキックスの流通ルートを探らねばならないのだ。パラヤンが自分に気づいたら、それどころではない。


 貿易商(それは自称で実際は麻薬の売人)のラジールから聞いた情報では、カウンターにピュロキックスの瓶詰めを置いたという。


 もともとラジールを探るように言ってきたのはディグと同じアサシン“製造工場”出身のパルだ。ラジールに目をつけたのはどういう訳なのか、リュドミラは知らなかったが、アサシンならではの情報網というものがあるのだろう。とにかく、自分はパルの目となり耳となるのだ。ディグの命を奪った者をこらしめるために。


 カウンターに肘をつくとリュドミラはウエイターに向かって手招きした。


「ファティールの蒸留酒をロックでお願い」リュドミラは微笑みをたたえながら言った。


「はい」若いウエイターは返事をすると、グラスに氷を入れながらリュドミラを二度見した。「もしかして、ダンサーのリュドミラさん?」


「そうよ。私のこと知ってるんだぁ」


「そりゃあもちろん」ウエイターはリュドミラを上から下まで舐め回すように見て言葉を続けた。「あなたはキャスタロック一の美女じゃないですか!」


「ありがと。お世辞がうまいのね」


「お世辞じゃないって! こないだのミスコンもあんなことがなけりゃ、アンタがクイーンだったよ! ってことはキャスタロックだけじゃねえ、世界一の美女だよ!! アンタと話せるなんて夢みてえだよ」ウエイターは興奮のあまり敬語を忘れてしまった。


 リュドミラはウエイターが差し出したグラスの酒を一気に飲み干した。ミスコンの話を持ち出されて、一瞬、思い出したくない映像が脳裏をよぎったからだ。グロテスクにうごめくピュロキックス、そして、自爆する寸前のディグの眼差し……それを打ち消したかったのだ。


「いい女はやっぱりいい飲みっぷりしてるぜ」ウエイターはまるでお門違いな感想を言った。


「おかわりよ。もう一杯ちょうだい」リュドミラは真顔で言った。


「はいよー」ウエイターは慣れた手つきで酒を作り始めた。


「ね、ウエイターさん」


「俺の名前はオモローツさ。オモっちって呼んでくれよ」


「オモっち。かわいい名前ね。あなたの雰囲気によく似合うわ、ウフフ」リュドミラはお世辞を言った。実際のオモっちはゴツゴツとした岩のような顔だった。


「へへっ、よく言われるんだよぉ」オモっちは頭が悪いので、リュドミラのお世辞をそのまま受け取り、上機嫌だった。


「あなた毎日、ここに立ってるの?」


「ああ、週一休みはあるけど。だいたい開店から閉店まではいるぜ。ちなみに明日は非番だ。予定はないぜ」


「あ、そう。で、聞きたいんだけど、カウンターに預け物をする客っているのかしら?」


「預けもの?」


「瓶とか」


「ああ、ミーゴスさんのやつね。たまに預かるぜ」


「ミーゴスって誰? 何を預かるの?」


「おいおい、焦るなよぉ。あそこでカードゲームやってるのがミーゴスさんだ」


 オモっちが指差した先には、リリアとカジノ友達になった男がいた。相変わらず爬虫類のように獲物を狙う目でカードのディーラーを睨めつけている。


「ミーゴスさんはプロのギャンブラーだ。とにかくヒキがすげえ。神ってるぜ。あの人の博打を見るためにここに足を運ぶ客もいるくらいだ。んで、ミーゴスさんはあの通りガリガリだろ? 胃が小さくてあんまりモノを食えないらしいんだ。で、世界各地から滋養のある食べ物を取り寄せてるのさ」


「それをここで預かるってわけ?」


「そうだ。まあ、ミーゴスさんはこのカジノの広告塔みたいなところもあるからな。パラヤン支配人からも便宜を図ってやれて言われてるんだ。で、俺、明日は非番なんだけどさ、今んところ予定なくてさ、エヘヘ」


「じゃ、オ●ニーでもしてな」リュドミラはそう言うと、ミーゴスの方へと歩いて行った。

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