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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
恋の都キャスタロック編
56/113

56.大事な話をしに勇者は……①

ジルとの特訓が終わると、リリアはキャスタロックの城外へと出た。街中の喧騒が嘘のように静かだ。


 目的はただ一つ。ディグに会うためだった。今夜はリュドミラはダンスホールでステージに出るし、ディグは傭兵の仕事に戻ると言っていた。


 であれば……


 リリアはディグと初めて会ったあたりまでやってきた。


「おーい、ディグ」リリアが呼びかけると、風が吹いて砂煙が舞った。


ザザザ


 砂の下から現れたのはディグだった。


「やっぱりここだと思ったぁ。サボっちゃダメだよー」


「サボってねえし。今は休憩中だ」


「ディグ、本当に砂の中が好きだねー」


「落ち着くんだよ。静かで……街はやっぱりいつまで経っても慣れねえ。で、なんでリリアはここに?」


「二人の時は<リリア>って呼ぶんだ。使い分けが上手だね」


「みんなの前で<リリア>って呼ぶと、あんた困るだろ? <リリア>って名前を聞くとどうしてもみんな世界をお救いになった勇者さまを連想しちまう」


「あなた、アサシンのくせによく気が付くっていうか、心が細やかっていうか、変な人ね」


「逆だよ。アサシンに大胆さや豪傑さはいらねえんだ。必要なのは几帳面さと冷静さと……冷酷さだ。それにもう一回だけ言っておくがあくまでも俺は引退してる。元アサシンだからな。その辺、勘違いすんな」


「じゃ、あなたはアサシンじゃない生き方、できてる? 私は勇者じゃない生き方を探してもがいてる」


「できてるぜ」


「え? どうやって? 教えて教えて」リリアは本気で聞きたがった。


「簡単な話さ。アサシンは人を殺すのが仕事だろ?」


「そうね。それしかないものね」


「今の俺は人を守るために生きてる。それだけで十分だろ?」


「守るって、もしかして私? 私のこと、守ってるの?」


「そうだ。俺はリリア、あんたのことを守ってる」


「ちょっとやめて。リュドミラちゃんは親友よ。親友の彼氏とそんな……三角関係なんて私……困っちゃうよぉ」リリアは両手で頬を包み込んで、照れた乙女のポーズをした。


「アッハッハ、あんた、そういうとこあるよな。こっちが恥ずかしくなるぜ」


「? なによ?」


「ホント、これだから信じられねえんだ。このアホみたいな女が魔王を倒して世界を救ったなんてよ、ハハハ。勘違いすんな。俺はあんたのことが好きだから守ってるんじゃねえ」


「えー! じゃ、あんた、私のこと好きでもないのに付きまとってるわけ? もしかしてカラダ目当てとか? 私、●フレとか、そういういかがわしい関係はキライなの!」


「あーあー、なんとでも言っとけ。俺があんたを守ってるのは、テオドアさんのためだ」


「て、テディさん?」


「本当はナイショにするようにテディさんに言われてたんだがな。もう隠しきれねえから言うぜ」


「どういうこと? 全く意味がわかんないんですけど」


「リリアがガレリアを脱出した後、俺の標的はテオドアさんになったんだ」


「こ、殺したの!?」


「まあ、聞けよ! 殺そうとはしたさ。でも失敗した。アサシンがミッションに失敗した時は自死あるのみだ。俺は自爆をしようとした。もう俺には力が残っていなくて、テオドアさんたちガレリア軍を巻き添えにすることも無理だった。だから、つまり犬死だな。アサシンの運命さ。失敗したら死あるのみ。でも、テオドアさんは自分の危険をかえりみずに、俺の方へ駆け寄って来て俺を止めてくれた。それで……細けえことはいい。とにかく俺はあの人に借りがある。あの人に言われて、アサシンをやめようって思えたんだ」


「テディさんなら……アンタみたいなゴロツキを改心させるくらい朝飯前かもね。あの人は天使のような人。顔はゴリラだけど」


「だよな! だよな! マジ、優しいよな!俺はあんな人がこの世界にいるなんて知らなかったんだ。物心ついた時から殺人マシーンに仕立てられた俺に、優しくしてくれる人なんていなかった」


「聞かせて。テディさんはあなたに何をしてくれたの?」


「話を聞いてくれた」


「それだけ?」


「ああ、そうだよ。地下牢でな。何時間も何時間も鉄格子の向こうに座って話を聞いてくれたんだ。そして、泣いてくれた。俺なんかのために」


「あの人、泣き上戸だから、なんでも泣くんだよねーアハハ」


「……」ディグは軽口をたたいたリリアを睨みつけていた。


「ウソだよ、うーそ。ちょっといい話過ぎて、チャチャ入れたくなっただけ。で、私のこと、頼んだの? テディさんは」


「テオドアさんが言ったまんま言うからな。聞いとけよ。リリアさんは最強の勇者だが世間知らずだ。おまけに人もいいから騙されやすい。悪い男の甘い言葉なんかには一発でひっかかってしまうだろう。そして、なによりすぐに自分を犠牲にしようとする。それが勇者の定めなのかもしれないが、俺はイヤだ。あの人は幸せになる権利がある……ってさ」


「それ半分くらい悪口でしょうよ……テディさん、ヒドい!」リリアはむくれた。


「は? 何言ってんだ? これ以上の愛の言葉はねえぞ」


「うるさい! 余計なお世話なのよ! しかも、よくもまあ元だかなんだか知らないけどアサシンなんかを私の元に寄こしたわね。そんなの信頼できないでしょ、ふつう。ホント、あのゴリラは最低ね! 信じられない馬鹿野郎よ!」


「だけど、あんたを守っただろうが!? リリア、俺は証明したんだ! テオドアさんの目に狂いはなかったってな!! そして、俺はこれからも信頼してくれたテオドアさんのために働く。アンタは関係ねえ。俺が勝手に守る。それだけだ!」


「……フフ」リリアは笑った。


「何がおかしい?」ディグは馬鹿にされた気がして、少し怒気を込めて言った。


「冗談よ。私はよーく知ってる。あの人の誠実さや温かさ、そして何より騎士団長としての能力を」


「じゃ、なんであんなことを……」


「あなたのテディさんへの想いを聞きたかったの。怒らせてごめんね」


「で、どう思ったんだ?」


「ディグ、あなたは信頼できる。心からね。だってあなたはテディさんの弟子なんだから」


「弟子……か。弟子っていいな。俺、そういうことにしといてもいいのかな? テオドアさん、怒らねえかな?」


「いいに決まってる。テディさんならきっとこう言うわ。<お前、俺なんかの弟子でいいの?>って」


「ハハ、言いそう」ディグは笑った。


 リリアも笑顔を見せたが、次の瞬間、一気に真顔になってものすごい威圧感で言い放った。


「で、リュドミラちゃんのことどうするつもり?」


「え? 姉さん……?」


「これが本題。返答次第ではタダじゃおかないからね。たとえテディさんの弟子でもね!」


「……どうしよっか?」ディグは泣きそうな顔で言った。


 冷徹な元アサシンも一皮むけば、恋に臆病な18歳の若者だった。

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