55.厳しい?特訓に勇者は……
午前のデート?を終え、リリアはクレイバーグ生花店に向かった。足取りが重い。
──結局、ノープランだよぉ……アピールタイムって何すればいいのよぉ……
店に着くとジルは待ち構えていた。
「リーリ、早速教えて。出し物何にるするの?」
「あの……それが……その……詩の朗読とか?」
「冗談はいいから」ジルは軽くあしらった。
「やっぱりそういうんじゃないですよねぇ……あはは……」
「フン、なーんにも思いつかなったんでしょう?」
「その通りです、はい……」
「もう来るなり顔に書いてあるから、分かったよ」
「ごめんなさい、ジルさん!」
「多分、こういうことになるだろうと思ってたよ。でも、安心しな。こういうこともあろうかと、とっておきの演目を用意してたのさ」
「とっておきの演目って……」
「私がやる予定だったけどオクラ入りになっちまった演目があるんだ。私は一年目でクイーンになっちゃったから、その後、コンテストに出場できなくなっちゃってね。本当は次の年も出場して披露するつもりだったんだよ。四十年ぶりの復活さ。そいつをリーリ、あんたに譲るよ」ジルはポンとリリアの肩を叩き、ニヤリとした。普段は見せない勝負師の目だった。
リリアはその表情を見て鳥肌が立った。
──イヤな予感しかしないんですけど。
「あんたにやってもらうのは、これさ。名付けてフライングスネーク谷間キャッチ!宙に投げたヘビを胸の谷間で……」
「イヤです! 私、できません!」リリアは即座に断った。
「わがままな子だねぇ」
「うえーん。ごめんさーい。でもぉ、私、どうしてもそれはイヤなんですぅ!」リリアは泣き叫んだ。
「仕方ないねぇ。じゃ、どうしようかねぇ……ヘビがだめならトカゲにしようか」
「そういうことじゃありません!トカゲでもカエルでもネズミでもイヤです!!谷間っていうのがNGなんです!!」
「あんた、立派なもの持ってるからイイと思ったんだけどねぇ。大丈夫、あんた自信持ちな。あんたの谷間はレベルが高い」
「え? 本当ですか?」リリアは泣き止んだ。ちょっと誉められるとすぐにその気になるのが彼女の持ち味?だ。
「本当だよ。世界中から美女が集まるキャスタロックでもそんだけ見事な谷間はなかなかお目にかかれたもんじゃあないよ」
「ですよね。私もそうなんじゃないかなって思ってました!」幾多のコンプレックスの裏返しで、より強烈に浮かび上がったボディラインへの自信。そこを突かれたリリアは完全にジルの術中にはまっていた。
「谷間はエンターテイメントさ! あんたは天から与えられた才能持つナチュラルボーンエンターティナーなんだよ!!」
「ナチュラルボーンエンターティナー……私、ナチュラルボーンエンターティナーだったんですね!」
初めて<勇者>以外の称号を与えられたリリアは、少しだけ踏みとどまっていた恥じらいの感情にとどめを刺した。「私、やります! ジルさん、頑張ります!!」
「さあ、みんなを笑顔にしようじゃないか!」
「はい!」
ヘビを谷間でキャッチして、観客が笑顔になるかどうかは疑問の余地があるが、とにかく二人の特訓は始まった。
リリアはまず、本番で着るキモノ地のドレスに着替えた。元々、谷間が強調されているデザインなので何も手を加える必要はなかった。
次に用意するのはヘビだ。ジルとリリアは店の裏手の茂みを探したが、なかなか見つからない。
「私が責任を持って明日までに用意しとくから、今日はこれで代用しよう」ジルが差し出したのは花束だ。
「あの、ジルさん。本番も花束でやった方が良くないですか? 見栄えもいいし……」
「わかってないね、あんたは!」
「ご、ごめんなさい!!」
「さっき言っただろ、谷間は……なんだい?」
「エンターテイメント」
「そう。エンターテイメントと言ったらヘビだって昔から決まってるんだよ!百歩譲ってもカエルかトカゲだ!」
「はぁ……、そういうものですか……」
それからリリアはジルの言う通りに練習をした。花束を空中に投げ、それを谷間でキャッチした。リリアは魔物との戦いに身を捧げて来た勇者だ。動体視力は並はずれたものがあるから、百発百中で成功した。
「アンビリーバブルだ! リーリ、やっぱりあんた才能あるよ! 天才だ!! でも、もうちょっと高さがあるといいね。投げる時、もうちょっと高く上げられるかい? そうした方がよりダイナミックになるんだ」
「はい、大丈夫です!」
「あとね、投げた後、キャッチするまでが棒立ちになってるね。そこで、こんな感じで腰に手を当ててセクシーポーズをとるんだ。そうすれば、もっと良くなる。観客はあんたに釘付けさ!」
「こうですか?」リリアはお尻を突き出して、やったことのないようなセクシーポーズをとった。気分がノリに乗っているせいか、ぎこちなさは全くない。
「そうだ! それだ!あんたはすごいよ!こんな筋のいい子見たことない。どこまでいっちまうんだろうね、この子は!」
「頑張ります!」
ジルの演出を取り入れながら、謎の特訓は暗くなるまで続いた。最終的にヘビは三匹同時に投げることになり、三回転半のジャンプと激しいヒップダンスがプログラムに加わった。
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