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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
恋の都キャスタロック編
53/113

53.秘密基地で勇者は……

ブルニュスは路地裏をずんずん進んでいった。リリアは歩きながら、断片的な記憶を取り戻していた。排水溝のような男の口臭が蘇る。思わず顔をしかめた。


「リーリ、臭えとは思うけど、もうちょっとの我慢だ。その先だから」


 ブルニュスはリリアが苦い顔をした理由を生ごみの匂いだと察したらしい。本当はそれよりももっとひどい“記憶の中の匂い”が理由だったのだが。


「大丈夫、大丈夫。あんたたちこんなところに秘密基地なんてよく作れたねー」


「俺たちがつくったんじゃないぜ」


「じゃ、誰がつくるのよ。子供以外にそんなものつくる人いないでしょ」


「いるんだなー、これが」


「ええ?」


「ま、解説よりも見る方が先だ。ほら、着いたよ、ここだ」


 ブルニュスは路地の突き当たりで立ち止まった。ダンスホールの壁ととなりのカジノの壁に塞がれてこれ以上は進めない。


「行き止まりじゃない? どこに……」


「リーリ、見てろよ、へへ」ブルニュスはにやにやしながらリリアの顔を見た。

そして、壁際に立つと壁のブロックを一つはずし、中に手を突っ込んだ。


ガチャリ。


 歯車が噛み合うような音がしたとたん、ゴゴゴと音を立てて、壁が横にずれた。


「な、なに!? 隠し通路?」リリアが覗き込むと、そこには下へ続く階段があった。


「へへ、すげえだろ?」ブルニュスはそう言うと、扉の内側に置いてあったマッチに火をつけた。そして、同じく置いてあったランプに明かりをともした。


 ランプの明かりをたよりに、ゆっくりと階段を降りると、そこは10メートル四方の広い地下室だった。壁際には酒樽が並び、テーブルや椅子がいくつも置いてある。


「まるで酒場じゃない」リリアは独り言を言ったつもりだったが、


「そうだよ」ブルニュスは応えた。「ここは秘密の酒場の跡地なんだ」


「どうして、酒場を秘密で営業するわけ?」


「何十年か前、このキャスタロックは禁酒法ってのがあったんだと」


「きんしゅほう?」


「酒を飲んでもいけねえし、売ってもいけねえって法律さ。でも、大人は酒をやめるなんてできねえだろ?」


「フン、私は大丈夫ですけど!」リリアは“酒にのまれる女”とは思えない一言を放った。


「悪い業者がこうやって街の中にいくつも隠れ酒場をつくったのさ。賑わってたらしいぜ。親父が子供のころの話だってさ。俺の爺ちゃんなんかは隠れ酒場の常連だったって。禁酒法が終わってほとんどがぶっ壊されたけど、ここはなぜかそのままにされてるんだ。ま、理由は知ってるんだけどさ」


「なんなの? 理由って」


「知りたい?」ブルニュスはニヤニヤしながら言った。


「ここまで来ておいて、もったいぶらないでよ!」


「こっちに来な」ブルニュスは酒樽のところまで歩いていった。蓋を開けると、中には白い粉がぎっしり詰まっていた。


「砂糖?」


「砂糖じゃねえよ、麻薬だよ!」


「ええええーーーー!! じゃ、ここは……」


「そう、麻薬の密売所なんだ。夜になると、売人とか用心棒とかが来るぜ。当然、客もな。今じゃ、キャスタロックに来る観光客の半分は麻薬目当てだって話もあるぜー。すごいだろー!」


「何がすごいか分からないけど、あんたたち子供がこんなとこに来ちゃ危ないじゃない!ダメよ、今日からもう来ちゃダメ!!」


「大丈夫だって。ヤツらが顔を出すのは夜だけだ。しかも、だいぶ更けてから。昼間は来ねえよ」


「もしかして、あんた、麻薬やってないでしょうね?」


「ハハ、やってねえよ、そんなもん。親父に聞いて知ってるからさ。麻薬やったヤツがどんな悲惨なことになるかってのは」ブルニュスは神妙な面持ちで言った。


 その顔を見てリリアは本当のことを言っていると思った。ブルニュスはいたずらっ子かと思いきや、妙に真面目な一面もある。リリアはそのことに改めて気づいた。


──そうだった。この子、小さい子の面倒をよく見るし、近所のご老人のお手伝いをしてたりもする。忘れてたけど割といい子な部分もあるんだよねぇ。口のきき方とか態度とか、くそガキ過ぎて殺したくなるんだけど。


「キャスタロックはエンターテイメントの本場……私も憧れた1人だけど。こんな裏の顔があったんだね」


「麻薬もエンターテイメントの一種なんだろ」


「違いますぅ! 絶対違いますぅ!!」


「でも、お役人は見てみぬフリだぜ。っていうか、自分らも麻薬やってやがるぜ」


「あーそういうの聞きたくなかったわー」


 どんよりした気分になってリリアは地下室を後にした。


ガチャリ。ゴゴゴ。


 “秘密の扉”が開かれ、地上の明かりが目に入ってくる。


 と、そこにはこちらを見てきょとんとしているリュドミラの顔があった。


「リーリちゃん! そんなところで何やってるの!? っていうか、そんなとこに扉が!!」


 リュドミラの腕は当然のように隣にいるディグに絡められていた。


「リュドミラちゃん! ディグ!」リリアは叫んだ。


「よう、リーリ。元気そうでなにより」ディグは優しく言った。


 リリアは二つのことに驚いていた。一つはディグが自分のことを<リリア>ではなく<リーリ>と呼んだこと。もう一つは、包帯をとったディグは金色の逆立った髪をしていたこと。リリアは、初めてディグの顔をちゃんと見た気がした。


──意外とかっこいいじゃないよ!!

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