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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
恋の都キャスタロック編
51/113

51.取引を持ちかけられた勇者は……

「リュドミラちゃーん! わーん!!」リリアは仕事が終わると、リュドミラの家に一直線に向かった。アピールタイムの相談をするためだ。


 しかし──


 リュドミラのアパートのドアをいくらノックしても返事がない。


「リーリ、リュドミラならさっき出ていったぜ」


 前の通りで遊んでいたブルニュス(リリアの知り合いの生意気な少年)が言った。


「あんた、どこにでもいるのね……」リリアは呆れたように言った。


 ブルニュスの家はリリアのアパートと同じブロックだ。リュドミラの家はそこから歩いて20分ほど、カジノやホールが立ち並ぶ目抜き通りの裏手にある。


「しかも、ミイラ男と一緒だぜぇ」


「ミイラ男? ディグと一緒に……」ブルニュスが<ミイラ男>と言ったのはディグのことに違いない。まだ包帯がとれていないのだ。


「リュドミラも美人なのに、なんでいつも変なのを選ぶかねー。あの男、ロクデナシ臭がプンプンしてたぜぇ」


「ガキは黙りな! あんたなんかに大人のことは分かんないんだよ!!」リリアはそう言ってみたものの、気持ちとしてはブルニュスの意見に賛成だった。確かにディグはロクデナシの部類に入らないはずはない。


「やっぱ、アイツがリュドミラの新しい彼氏なんだぁ?」


「ち、違う。まだそこまでいってないはず……ちょ、ちょっと、ブルニュス! このことを他の人に言っちゃダメだからね!!」


 リリアは知っていた。街中に溢れるゴシップの発信源は大半がこのブルニュスであることを。彼の父親はゴシップのとばし記事を書くことで有名な新聞の編集長をしている。ブルニュスが手に入れた情報をそのまま掲載することもしばしばだそうだ。


「なんでだよ?」


「なんででも!!」


 キャスタロックでも屈指の美人であるリュドミラの相手となれば、それなりの注目を集めるだろう。ディグの素性がバレると自分にも害が及ぶ可能性もある。しかし、なによりリュドミラの恋の邪魔をしたくなかった。たとえ、将来、ディグがアサシンだということを知って破局しようが、ひと時でも素敵な恋をしてもらいたい。


「他の人に漏らしたらタダじゃおかないからね!!」リリアはブルニュスを睨みつけた。


「じゃ、取引だな」


「取引? 子供のくせして難しい言葉を知ってるじゃない? いいわよ、言ってみなさい!」


「俺と1日、デートしてよ」ブルニュスはモジモジしながら言った。


だいぶ間があった後、リリアはやっとのことで一言だけ声を発した。


「……え?」 


「約束だからな、リーリ! 絶対守れよな!!」ブルニュスはそう言うと、走り去った。


 ブルニュスは12歳。彼にとってリリアは初恋の相手だった。


 リリアはなぜかポッと顔を赤らめている自分に気づいた。


──なんなの、私!? なに喜んでんのよ!! 相手は子供よ、子供!! あのマセガキ、私のことそんなふうに……。ダメ、ニヤけてる、私。ダメ、そんなのダメ!!


 たとえ12歳の子供が発した言葉であっても、<デート>という響きは恋愛経験の乏しいリリアをドキドキさせるには十分だった。


 勇者リリア22歳。壊滅的にイタい女だった。




 その頃、リュドミラはディグと一緒に、昨夜ピュロキックスに襲われた路地裏に来ていた。


 リュドミラはディグの腕に自分の腕をからめ、すっかり恋人気分だった。


「あの……姉<あね>さん、さっきからアンタの胸がヒジにあたってるんだが……」


「あててるんだよ、だから気にしないで」リュドミラはあっけらかんと言ってのけた。


「き、気にしないでって言われても……」ディグは女性経験ゼロの童貞アサシンだった。


「ねえディグ君、あなたいくつなの?」かたやリュドミラは百戦錬磨の肉食女子だ。


 そんな女にロックオンされたら童貞アサシンはひとたまりもない。


「年齢? はっきり分かんないんだが、多分18くらいだと思う」


「18? ヤバっ! 年下じゃん!! キャハ」リュドミラは嬉しそうに言った。


「姉さんはいくつなんだ?」


「私は、ハ・タ・チ」リュドミラはディグの耳元に吐息をかけるようにして囁いた。


「わわわ! ちょ、ちょっと離れてくれ!! これじゃ、何もできん!」ディグはリュドミラの腕をかいくぐって数メートルほど逃げた。


「アハハ、かーわいっ!!」リュドミラはディグの一挙手一投足すべてが愛おしくてしかたなかった。


「いでで」ディグは顔をしかめた。動いたはずみで傷が疼いたのだ。


「だ、大丈夫!? ディグ君!! もう帰ろうよ」


「心配ないよ、姉さん。これはやらなきゃならないことなんだ」


 この場所に戻ったのは、ピュロキックスがなぜ攻撃をやめ、逃げ去ったのか調べるためだった。


 ディグは目覚めると、リュドミラに頼み込んで連れてきてもらった。立つのもやっとだったが、そんなことを言っているヒマはない。


 ピュロキックスはこのまま消えてしまうほどおとなしい魔物ではない。必ずまた人間の体をのっとり、悪さをするだろう。その時に役立つのは“昨夜の経験”だ。


 ピュロキックスの生体は未だはっきりしておらず、弱点も知られていない。街の外ならばリリアの火炎魔法で焼きつくすことができるだろうが、街中に現れたら、そうはいかない。弱点を知らねば、今度こそ命を落としかねない。


「多分、姉さんが投げた物の中に苦手なモンがあるんだと思うけど……」


「私、昨日はもう必死だったから。とにかくその辺にあるものを手当たり次第に……」


「姉さん、ここに置いてるのは全部ゴミ?」


「そうねぇ……ダンスホールで出るゴミよ。お酒のビンでしょ、あとおつまみも出すから生ごみとか? 果物は多いよ、カクテルに使うから。」


 金網で仕切られた大きな箱の中をディグは覗き込んだ。確かに生ごみだ。腐った匂いが鼻につく。


「ゴミは誰か処理してくれるのかい?」


「うん、業者が砂漠に持っていって埋めるんだって」


「そうか……。酒や生ごみじゃないだろうな、きっと。酒や生ごみが苦手なんだったら、そもそもこの場所には来ないだろう」


「そうね。いくら気が動転してたって、さすがに私、生ごみは投げないわ。ゴリラじゃないんだから」


「ゴリラが投げるのは自分のクソだ……ハッ!もしかして排泄物……。この路地裏は表からは見えない。クソをする輩がいてもおかしくない! そうか、クソだ。クソに弱いんだ、あの化け物は!!」


「えー!! 私、誰かのウン●を投げちゃったのぉ!? そんなぁ〜」リュドミラは自分の両手を見て唖然としていた。


と、ディグは笑った。


「アッハッハ、ごめん、冗談だよ。それはないと思う。クソに弱いんだったら、人の体内に潜ったりできないよ」


「もう、ディグ君のバカ!!」リュドミラはディグに抱きついた。そして、ぶちゅっと思いっきり口にキスした。


「うわあああ! なんてことすんだよ!! 姉さん!!」


「へっへー、お返しぃーーー」リュドミラはディグの顔を強引に自分の豊満な胸の谷間に埋めた。


「や、や、やめろぉーーーー!!」


 その様子はただのバカップルだった。


 そして、その様子を路地の入り口から見ている人物がひとり。さっきから声をかけるタイミングを失っていたリリアだ。


──羨ましすぎるでしょ……。さすがにブルニュスとあんなことやったら、私、犯罪者よね……捕まっちゃうわ……


 少し切なそうにたたずむ勇者の姿であった。


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