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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
恋の都キャスタロック編
50/113

50.ガクブルの勇者は……

「じゃ、リュドミラちゃん、私、仕事行くね」リリアは一応、言ってみたが返事はなかった。


 いつの間にかリュドミラは寝息を立てていた。ディグの隣に寝そべって。


──いいのかなあ。私、このままにしていっていいのぉ? ディグは命の恩人だけど、アサシンだよぉ? 味方かどうかも分かんないし。でもなぁ……


 さっきのディグを見るリュドミラの目。それを思い起こすと何を言っても無駄な気がしてきた。


──リュドミラちゃんの恋がどうか素敵なものになりますように!


 リリアにはリュドミラのために祈ることしかできなかった。


 外に出ると、雨だった。傘を持っていないから走る。クレイバーグ生花店に着くころにはびしょ濡れになってしまった。


「リーリ、傘くらい持ってきな! 早く、タオルで拭いて」ジルはリリアの姿を認めると、言った。


「はい」


「化粧もしてないじゃないか。もう、そんなみっともない姿じゃ、お客さんに出られないだろ。ちゃんと髪もセットするんだよ」


「はい」


──なんか、お母さんみたい。


 何かと口うるさいジルだが、その言葉には温かみがあった。


「明後日はオアシスクイーンコンテストなんだからね、しっかりするんだよ」


「あ」


 リリアはミスコンに出場することなどすっかり忘れていた。


「あのぉ、今さらなんですけどぉ……何か準備することってあるんですか?」


「なんてこと言うんだ、この子は! あるに決まってるだろ! ウォーキングの練習してないのかい?」


「ああ、やっぱりそういうのやらなくちゃダメなんですね……」


「はぁ……仕方ないね、リーリ、後で私が稽古つけてやるから」


「ありがとうございます!」


「で、アピールタイムは何するか決めたのかい?」


「へ? あ、アピールタイム?」


「募集要項わたしただろ! 見てないのかい!!」


「えへへ」


「えへへ、じゃないよ、この子は本当にもう……アピールタイムってのは1人ひとり3分間もらえるんだよ。踊ったり歌ったり、何でもいいから得意な芸を披露するのさ」


「はぁ……そんなのあるんですね……」リリアは意気消沈した。自分に武芸以外の芸などない。歌も踊りも苦手だった。


「リーリ、なんかあるだろ? 得意なこと」


「なにかありましたっけねえ……」


「よーく考えな。人間誰だって一芸くらいあるもんさ。コンテストの長い歴史の中には変なのもいたよ、鼻息で飛ばしたコルクを的に当てるとか、首が360度まわるとか、気持ちわるい虫を生きたまま食べたりとか……そうそう、蛇を口から飲み込んでお尻から出した女もいたよ」


「それホントにミスコンなんですか?」


「ここはエンターテイメントの本場キャスタロックだよ。ミスコンだろうがなんだろうが、楽しませたモンが勝つんだよ。ちなみにさっき言った蛇をお尻から出す女はクイーンになったよ」


「そ、そうなんですか……ちなみに、ジルさんは何をやったんです? クイーンになった時」


「私かい? 私はこれさぁ」ジルはそう言うと、一気飲みするジェスチャーをした。「蒸留酒をロックでタル丸ごと一気飲みしてやったよ、アッハッハ」


「アハハ……す、すごいですね……わ、私、なにかあったっけなぁ……なぁんて」


「もう日がないから、明日までに考えてきな。特訓だよ特訓!」


 リリアは一気に頭が重くなった。生まれてこの方、武器しか握ってこなかった自分に何ができるというのだ。まさか、剣技を見せることなどできるわけがない。万が一、勇者であることがバレてしまったら元も子もない。


「あ、そうだ! 私、花束をつくります。きれいにやればそれなりに見栄えもいいし。私、ジルさんに教わったから大分うまくなりましたし」


「バカいうんじゃないよ!」


「えええ!!」


「そんなショボいことやったんじゃブーイングだよ、ブーイング!」


「ぶ、ブーイングぅ? ブーイングとかあるんですか!?」


「当たり前だろ。さっきも言ったけどここはエンターテイメントの本場なんだ。客の目は肥えてる。いくら美人だからといって芸がなってなかったら、とっちめられるのさ!」


「ひぃいいいい!」


「ステージは戦場なんだ。いいかい? リーリ!」


「……は、はい……」


「何でもいいから明日までに何か一つ、ひねり出してくるんだ! あとは私が演出してちゃんと人様に見ていただけるようなものに仕上げてやるから!! なあに、私に任せておけば心配ないさー。なんてったって私は伝説の初代クイーンなんだからね。誰にも文句は言わせないよ! いいかい、リーリ」


「あはは……それは頼もしい……」


 リリアはパニックで頭がクラクラしてきた。どう考えてもブーイングを浴びせられる結末しか浮かんでこない。


──こりゃ、詰んだわ……


 リリアは処刑を間近に控えた死刑囚の気分だった。足がぶるぶる震えて、自分の体じゃないような気がした。


お読みいただきありがとうございます!

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