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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
恋の都キャスタロック編
46/113

46.不覚にも勇者は……

「すっごーい! リュドミラちゃん、すっごーい!!」 


 リリアは興奮していつになくはしゃいでいた。この日は仕事終わりにリュドミラが踊り子として出演しているクラブに来ていた。そこで、リュドミラの圧巻のステージを見たのだ。


 リュドミラは煌びやかな衣装(かなり露出が高い)を身に纏い、数人のバックダンサーを従えていた。音楽は生バンドだ。数百人を収容するホールを埋め尽くした観客たちはほとんどがリュドミラ目当てだろう。衆目を一身に集め、神々しいまでに輝いていた。酒を飲みながらスタンディングで鑑賞するスタイルだが、誰一人として酔っ払って悪態をつくものはいない。全員、リュドミラに釘付けでそれどころではないのである。


──素敵。さすが、エンターテイメントの本場だなあ。


 最初、ホールの雰囲気に飲まれて居心地悪い思いをしていたリリアだったが、演目が終わるころにはすっかり馴染んでいた。


──あー、お酒飲んじゃいたい気分だけど……それマズイよねぇ……こないだ、お酒で大失態したばっかりなのに。ジルさんにも言われてるし、ここは我慢しよう!


 バーカウンターの店員もしきりに強い酒を進めてくるし、さっきは太ったおじさんに「酒をおごらせてくれ」とナンパされかけたが、殊勝にもリリアは全て撥ねつけた。意思は固いのである。固いのではあるが……


──あれ? なんかいい気分になってきちゃった……。顔も熱くなってきたし……あれぇ? お酒飲んでないのになぁ。あ、分かった。フェダル茶の効果ね。このお茶、飲みやすいからゴクゴク飲んじゃうんだよね。たしか代謝が良くなるとかなんとか聞いたことがあるような気がするような。


 ヤシの皮から抽出したフェダル茶には、当然そんな効能はない。


 リリアはフェダル茶を頼んだつもりだったが、さっきからリリアが飲んでいるグラスに入っていたのは蒸留酒のフェダル割りだった。すでに五杯目。そもそもここではアルコールしか提供されていないのだ。


「もう一杯くらさーい! ウフフ……」


 リリアは自覚がないまま、完全に酔っ払っていた。


「リーリちゃん!」 ステージから降りたリュドミラがリリアの姿を見つけてやってきた。「わざわざありがとう!」


「リュドミラちゃーん! 素敵らったよぉー! ほんとぅに素敵らった、あはは……」リリアはフラつきながら言った。


「リーリちゃん、酔っ払ってる?」


「アハハ、なーに言ってるのよお……お茶しか飲んでらいろり、酔っぱりゃうわけないれしょう?」リリアはグラスを傾けて一気に飲み干した。


「リーリちゃん、それお酒。フェダル茶で割ったやつだよー」


「えー? なんだっけぇ?」リリアは頭がグルグル回っていた。


「とにかく、リーリちゃん、隅っこに座ってて。私、もう1ステージあるんだよ! それが終わったらちゃんと送っていってあげるから」


「またおろる、おどるの? リュドミラちゃん。わーい、わーい……」


「とにかく、ここに座ってるんだよ! いい?」リュドミラはリリアを壁際に座らせた。


「はーい……」リリアは先生に注意された子供のように手を上げて言った。


「おい! リュドミラ、早くスタンバイしろよ!!」舞台監督が叫んだ。


「はい! じゃ、リーリちゃん、大人しくしてるんだよ」リュドミラは後ろ髪をひかれながらも、バックヤードに戻っていった。


 リリアはうなだれたまま座っていた。


──なんか頭いたーい。目がまわる……気持ちわるーい。


 しかし、酔い潰れた若い女をそのまま放っておくほど、キャスタロックの夜は甘くないのである。


 早速、見るからにガラの悪そうな男たちが死体に群がるハエのように集まってきた。


「おーい、ねえちゃんよぉ。一緒に飲もうぜー」口髭の男が言った。


「わらしは……お酒飲んじゃらめなのよぉ。飲んだら、き、キオクがねぇ、ほんじゃうんだからぁあ」リリアはしどろもどろになりながら言った。そして、口髭の男にもたれかかるようにして眠ってしまった。


「おい、これヤレるんじゃね?」「ってか、ヤってくれって言ってるようなもんだろ!」「顔にアザはあるが、なかなか上物じゃねえか?」「そうだな、いい身体してやがるぜ!」男たちは色めきだっている。


「アイツらにも声かけてやれ」口髭の男が言うと、他の男たちはフロアで酒を飲んでいた仲間を呼び集めた。全部で七人。


 全員、非番の傭兵たちだった。傭兵は元々、荒くれ者が多い。


「俺たちゃよ、命懸けでこの街の安全を守ってやってんだ。たまには、こうやってボーナスってやつをいただいてもバチは当たらねえ」口髭の男が言うと、


「かんぱーい!」男たちの興奮は最高潮に達しようとしていた。


 そんな危険が迫っているとも知らずリリアは夢を見ていた。夢の中ではリトヴィエノフと一緒に手を繋いでいた。夜のオアシス、空には満天の星だ。


──なんてロマンチックなの……


 現実のリリアはロマンチックとは対極の汚い路地裏にいた。男たちによって連れ出されたのだ。


 生ごみとアルコールの匂い。


 地べたに寝かされたリリアは、眠り続けていた。スカートはめくれ上がり、ふとももが顕になっていた。


「見ろよ、こいつ、傷だらけだぜ」一人の男が言った。


「すげえな。虐待でも受けてたんじゃねえか、これ」別の男が言った。


「気にすんなって。どうせ暗がりじゃよく見えねえ」口髭の男が言った。


「ハハ、ちげえねえや」七人の男たちの笑い声が路地裏に響いた。


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