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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
恋の都キャスタロック編
45/113

45.暗殺者を前に勇者は……

「ちょ、ちょい待ち! 最後まで聞けって!!」ディグは戦闘体制のリリアを見てひるんだ。


「最後まで聞いてたら、命の危険があるじゃない! その手に短刀隠してるんじゃないの?」


「ほらよ」ディグは両手を上げて武器を持っていないことをリリアに示した。「短刀一本で勇者のアンタを殺せるとは思ってねえよ」


「じゃ、何を用意してるってわけ!?」


「警戒し過ぎだろうよ! アンタ、そんなんじゃモテねえぞ」


「あなたみたいなゴロつきになんかモテなくて結構です!!」


「ま、とにかく聞いてくれ。アンタを狙ってたのは半年前までだ。アンタがあの田舎もんの男を国境から逃してやっただろ? そして、アンタ自身もガレリアを飛び出した。そこで俺の任務は終わったんだよ」


 ディグは一気にまくしたてた。少しでも言葉につまるとすぐにでもリリアがいちゃもんをつけ始めるからだ。


「俺の役割はあくまでも“ガレリアにいる勇者を殺す”ことだったからな。そのためにわざわざ二年も前からガレリアに移り住んでたんだ」


「二年も前から私を……」リリアが言葉をはさもうとしたが、ディグは強引に続けた。


「正確に言うと、監視だよ。アンタが彼氏ほしいってホザいて、のんきにデートなんぞしてる間は別になんもしねえ。アンタが軍に手を貸してリューベルに攻め入るような気配を見せたら殺せって指示だった。だから、アンタが騎士団長と行動するようになってからは、ヒリヒリしたぜ。だが、騎士団長はアンタを戦争に駆り出そうなんざこれっぽっちも思ってねえし、それどころか、アンタを戦争から遠ざけようと頑張ってた」


「どういうこと……?」


「アンタは知らねえんだな。ガレリア国王の側近たちは実際、戦争に勇者を、アンタを駆り出そうと画策してた。あのテオドアって団長さんはよ、すげー剣幕で怒鳴り上げてたよ、大臣だろうが、なんだろうが構わずな。<勇者どのを戦争に駆り出すなど誇り高きガレリア騎士団の名折れ>とかなんとか言ってな。実際はアンタを守りてえだけだったんだと思うが。大した野郎だよ、下手うちゃ、騎士団長を解任されるどころじゃすまねえってのに」


「テディさんが……」


「ありゃ、相当アンタに惚れてるぜ。いや、イカれてる。恋ってもんに狂わされる男は死ぬほど見てきたが、あのレベルはなかなかいねえ。あの野郎は死んでも、アンタを戦争に巻き込まねえよ。だから、俺は悟ったよ。俺がアサシンとしての仕事をせずに済むとね。俺だって別に趣味で人を殺してるわけじゃねえ。人を殺すってのはそれなりに……イヤだからな。で、アンタも消えたし俺はやるべきことを失ったってわけよ。なんか全てがバカバカしくなってな。そんで身を隠して自由の身になったってわけだ。今じゃ俺もお尋ね者だ。リューベル軍に身つかっっちまったら間違いなく消される」


「……」リリアはまだ戦闘体制をくずさなかった。


「これで分かってくれたか。ここで会ったのは本当に偶然なんだ! 今の俺はキャスタロックの傭兵だ。俺は城壁の外の哨戒をサボって星を見てただけなんだよ。神に誓って!!」


「アサシンが神に誓ったからって、ああそうですか、って納得すると思う? そうやって安心させて、どれくらいの人の命を奪ったの?」


「確かにそういう手を使ったこともあるな……それはなんも言い返せねえ……」


「でも、一応信じるわ」


「え? マジ?」ディグは驚きのあまりきょとんとした。


「あなたに何か狙いがあるのかもしれない。でも、私を殺そうとはしていないことは確か。だって、私を殺すのなら、もう……」


 リリアはディグが自分を殺すのならば、あの方法だろうという検討はついていた。それは、アサシンの最強奥義にして最終手段──


──自爆だ。


 アサシンは幼少期から体内に大量の火薬を仕込まれて育つ。そして大人になるころには完全なる人間爆弾になっている。彼らは自らの魔力により、自分の体を爆発させることができるのだ。その威力は数千人を巻き添えにできるほどだと言われている。いかにリリアであっても間近で自爆されたらひとたまりもないだろう。


「とにかく、私のことは誰にも言わないで。そして、街で私の顔を見ても話しかけないで。私たちはお互い、知らない者どうし。お願い。やっと、やっと、手に入れた生活なの」


「わかった」


リリアはディグに背中を向けて立ち去ろうとしたが、少し進んでから立ち止まった。


「一つ聞いていい?」


「どうぞ遠慮なく」


「みんな何か言ってた? ……私がいなくなったこと、ガレリアの人たちはどう思ってるのかなって……」


「すまん、そりゃ分からない」


「……そうね、ごめん。変なこと聞いたね……」 リリアは歩き出した。そして街の明かりに目を向けた。その瞳は少し潤んでいた。

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