43.驚きの展開に勇者は……
リリアは自宅のベッドの上で目覚めた。昨夜はジルの家で思わぬ飲み会に突入してしまった。リュドミラと失恋話で大いに盛り上がったことは覚えているのだが、途中から完全に記憶を失くしている。どうやって帰ってきたのかも分からない。ジルからもらったキモノのドレスは丁寧に畳んでベッドの横に置いてある。
──うわ。記憶が飛ぶってこういうことを言うんだぁ。初体験……っていうかこわー。まあでも、無事みたいね。良かったぁ。そりゃそうか、女どうしだもん。こういうのも大人としての体験の一つってことで。
リリアにとっては飲み過ぎたことを反省する気持ちよりも、楽しかった記憶の方が勝った。女子会の楽しみを知ったのだ。
──またあのメンバーで飲みたいな。
いい気分でアパートを出た。今日も仕事だ。
路地では今日もブルニュスが小さい子たちと遊んでいた。彼はリリアを見るなり声を上げて笑った。
「ひゃっはっは。リーリ、なんだその顔? すげえパンパンじゃん。風船みてーだ、あっはっは」
「うるさい! クソガキ!! 飲み過ぎたんだよ!」リリアは今朝も子供相手にムキになって言い返した。
──わかってるよ。鏡見てびっくりしたもん。でも、汗をかけばムクみもとれる。オアシスまで歩いてるうちにシュッとするわ。
ところが、クレイバーグ生花店に着いても改善はされていなかったようだ。ジルもリリアを見るなり、
「リーリ、顔パンパンに膨れ上がってるじゃない! あんたムクみやすいんだねー」
「そうみたいですね……」
「じゃ、ミスコンの前の日はお酒飲んじゃダメね。気をつけなさいよ!」
「?」
リリアの頭の中に予期せぬワードがこだました。
──ミスコン?
「ジルさん、何言ってるんですかぁ。アハハ、ミスコンに出るのはリュドミラちゃんでしょう?」
「はぁ? アンタも出るんだよ」
「出るって何に?」
「だからミスコンよ」
「ええええーえーえええー!!!」
「アンタ覚えてないの? 昨日、リュドミラにドレス姿を褒められて、一緒にミスコン出ようって誘われて……」
「よし! 男どもを見返してやる!! って叫んでたじゃない、リーリちゃん」いつの間にかリュドミラもいた。
「ちょちょちょちょっとぉ! あの、それお酒の席のことですよねぇ…… 私、記憶ないし……そりゃいくらなんでも無理!! 無理だもん!!! 私、出ません!!!」
「ダメよ!」リュドミラはピシャリと言った。「もう私のと一緒に申し込みを済ませてきたんだから。リーリちゃんはエントリーナンバー13番、私は14番」
「逃げるんじゃないよ、リーリ。逃げたらクビだからね、ウフフ」ジルは不敵な笑みを浮かべた。
「そんなー、私、脱げません!!」
「はぁ?」 ジルとリュドミラは顔を見合わせて笑った。
「リーリちゃん、脱ぐ必要なんてないよ。オアシスクイーンコンテストには水着審査はないの。自分の好きな服を着て出ればいいのよ」
「そうよ、リーリ。アンタは昨日私があげたドレスを着て出ればいいのよぉ。あのキモノのドレスはね、40年前に私がオアシスクイーンになった時に着ていたものなの」
「……え? ジルさんは……オアシスクイーンだったんですか?」
「そうよ。ジルおばさんは初代のオアシスクイーンなんだよー。すごいでしょ?」
「だったら、あのドレスはもらえません! リュドミラちゃんが着て出るべきだよ!」
「私は自分で選んだやつがあるからいいの。あのドレスは素敵なんだけど、私はもっと露出高いやつじゃなきゃイヤだからー、アハハ」
「そもそも、私こんな顔なのに、ミスコンだなんて。いい笑いものだわ……」
「何言ってるの!」笑っていたジルが厳しい表情になって言った。「どこが笑いものよ!! リーリ、アンタはとってもカワイイわ。とっても上品で美しいんだよ」
「でも、アザが……」リリアはどうしても顔のアザがコンプレックスだった。
「アザなんか気にしない。それもあなたの個性よ。その気になればメイクでごまかすこともできるわ。でもね、アンタはそのままミスコンに出るの! だってありのままのアンタが一番きれいなんだから!!」ジルはリリアの目を見て言った。
「そうよ、リーリちゃん。あなたには誰にもない魅力があるわ。私、あなたには何か感じるのよ。外見だけじゃない何か……もしかしたら、それはミスコンなんかじゃはかれないものなのかもしれないけれど」リュドミラが優しく言った。
リリアはもう逃げ場がなかった。
──どういうことよ……。勇者に任命された時だって私、こんなに震えなかったのに。世界の命運を託された時でさえよ! でも、今、私、生まれたての小鹿みたい。どうなっちゃうのよ!! あー、かみさまあー
「ミスコンに出れば、いい男も寄ってくるって。素敵な彼氏も見つかるわ。ね、リーリ」ジルはリリアに目配せした。
震えていたリリアだったが、「素敵な彼氏」というワードだけにはうっかり反応してしまった。
──そうなのかしら? もしかしてこれって、チャンス? チャンスかも!?
割と単純なのもリリアの長所だった。
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