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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
恋の都キャスタロック編
39/113

39.新天地で勇者は……

今回から第二章へと突入です。新たな登場人物たちも続々出てきますので、

楽しんでお付き合いいただければうれしいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

砂漠の中に突如として現れる巨大な城壁。その周りをぐるりと背の高いヤシの木が囲んでいる。オアシスに建造された世界有数の大都市、キャスタロックだ。


 演劇、サーカス、ファッションショー、オーケストラの演奏会などありとあらゆる表現分野の最先端がここにある。一流のアーティストやパフォーマーたちの憧れの地だ。エンターテイメントの本場として世界にその名を轟かせていた。


 キャスタロックは元々カジノで栄えた都市国家であり、富豪たちが持ち回りで総統に就任して治めている。永世中立国を謳い、自前の軍を持たず、国防は全て傭兵たちに任されている。


 今、リリアはこの大都市で暮らしている。収容人員一万人を誇る世界一の大ホールや巨大カジノがある中心地から西へ3kmのところにある白壁の住宅街。迷路のように入り組んだ路地の突き当たりにあるアパートの最上階が新しい住まいだ。


 リリアは朝起きると、ヤシの皮から抽出したフェダル茶を飲みながら窓辺に座るのが日課だった。キャスタロック特有の砂まじりの風が吹いてくる。最初は戸惑ったものだったが、慣れれば心地よくも感じる。


 下の路地でボールを蹴って遊んでいる子供たちを見るともなしに見ていた。

と、一人の少年がリリアに気づいた。


「おっはー!」少年は元気に手を振った。


「おはよう。朝から元気ね、ブルニュス」リリアは手を振り返した。


 ブルニュスと呼ばれた少年は、この一帯の子供たちを束ねるガキ大将だ。いたずら好きだが、面倒見がよく、小さな子供たちも懐いていた。


「しんきくせえ顔してるぜ。男日照りってやつか? 貰い手がねえなら、俺が貰ってやるよ」ブルニュスは十二歳、マセガキだ。


「うるさい! 子どもは黙ってなさい!! 私は別に彼氏なんてほしくないもん、今は。 今はね!」子供相手にもムキになるのがリリアだ。


「もうすぐ祭りだ。世界からいろんな金持ちがキャスタロックにやってくるから、アンタに惚れちゃうモノ好きもいるかもよ。だから元気だしな」


「やかましい! モノ好きって何よ!! 私、けっこうモテるんですけど」


「えー! うっそだー」ブルニュスはニヤニヤしている。


「私だって、私だって……」リリアは口ごもってしまった。


<告白されたことだってあるんだから>


 そう言おうとしてやめたのだ。テオドアの眉毛がつながったゴリラ顔がなつかしく思い出された。


「じゃあな、リーリ。アンタに構ってるほどヒマじゃねえんだ」ブルニュスは友達連中と一緒に走っていった。


「クソガキ!」リリアはフェダル茶を一気に飲み干した。


 ここではリリアはリーリと呼ばれている。勇者であることを隠し、オアシスのほとりにある花屋で働いていた。


 リトヴィエノフの国境越えを手伝った夜から半年が過ぎようとしていた。


 ガレリアとリューベルの戦争は長期戦となり、今だに停戦の気配すらない。


──テディさんはどうしてるかなぁ。


 テオドアは騎士団団長であるから、最前線で指揮をとっているはずだ。彼の統率能力の高さはリリアも知っている。それにあの性格だ。さぞ部下にも慕われていることだろう。


──テディさんなら、大丈夫。あの人は死んだりしないよ、絶対に。


 テオドアの名はガレリアから南に数千キロ、海を隔てたキャスタロックにも轟いていた。勇猛果敢な戦士、冷静沈着な一軍の将、権謀術数に長けた策士、さまざまな言葉で形容されていたが、全てが賛辞だった。


 リリアはキャスタロックでテオドアの噂話を耳にするたびに可笑しくなったものだ。彼の有能さを物語る言葉は確かに的を射ているのだが、それは武人としての一面に過ぎない。本来のテオドアは不器用で恥ずかしがり屋で天然だ。そして、誰よりも優しい。


 本当は他人のために祈り、他人のために働く聖職者として生きたかったのだろう。きっと自らは騎士団団長の座など望んだことはなかったはずだ。しかし、彼の才能がそうさせなかったのだ。


 そうした生き様にリリアは共感していた。彼女もまた望んで勇者になったわけではないのだから。


 しかし、今、リリアは念願だった花屋の仕事に就いている。


──テディさん、この戦争が終わったら、あなたの望むように生きられるといいね。私、ものすごーく応援してるからね。


「さてと」リリアは立ち上がった。


 寝衣として使っている白のレースから花柄のワンピースに着替えた。そして、その上にエプロンを付ける。これがリリアの出勤スタイルだ。


──今日はお天気がいいから、きっとたくさん売れるね。がんばらなきゃ。


 狭いキッチンと簡素なベッドルームだけのささやかな部屋をリリアは後にした。


 主のいなくなった部屋。窓際に置かれた鉢植え。淡いピンクの花が風に揺れていた。


お読みいただきありがとうございます!

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どうぞよろしくお願いいたします。

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