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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
王都ガレリア編
38/113

38.勇者はサヨナラを言えない

イザベラは塀の周りを歩きながらハープを奏でて歌った。


 国を守るために若くして戦場に散った戦士の歌だ。やがてその想いは実を結び、恋した女は戦士の霊に見守られながら、優しい夫と巡り会い、幸せに暮らす。切なくも心癒されるメロディに、哨戒中の兵士たちは心奪われた。


 そして、イザベラの横にぴったりと張り付いているデボンは……


「もし俺が死んだら、イザベラちゃん! 俺が天国からずぅーっと見守ってあげるからね。俺はいいんだ。君が他の誰かと暮らそうと。君が幸せになってくれるのならば。でも、大丈夫。俺は死なない。だって君を守るために生まれてきたんだから」


 勝手に独りよがりのロマンチックに酔いしれていた。イザベラの微笑みもひきつる。


──うわ、金もらわねえとホントに割に合わないわー。このキモ豚どうにかしてっつーの! やっぱ金もらってもやらね。もうこれっきり。我慢、我慢よ。リトちゃんのため、リリアのため。


 その時、国境の手前の森から爆発音が!


「どうした? どうしたんだ!? 報告しろ!!」 デボンは叫んだ。


「大隊長殿! 敵です!! いや……魔物です!!」衛兵の叫びが聞こえてきた。


「ま、魔物!?」デボンは暗闇の中、目を凝らした。


 と、高さ30メートルはあろうかという巨木の間から、ぬっと頭を出しているのは一つ目の牛のような魔物だ。ピカっと角が光る。


「ぎ、ギーガーだ!!」デボンは叫んだ。


 ギーガーとは全長50メートルにも及ぶ巨大な魔物で半人半牛のミノタウロスが一つ目になったような外見をしている。左右の角が電極の役割を果たし、協力な稲妻を発生させることができる。幾多の魔物の中でも、最上位クラスに強いとされていた。


「どうしてここにギーガーが? どこからやってきた?」デボンは集まってきた部下たちを問い詰めるが、誰もが首をふるばかり。


「全軍、森を包囲しろ! きっとリューベルの仕業に違いない!! 絶対にギーガーを止めるんだ!!」


 デボンの号令で塀の周りにいた衛兵も、橋の上を守っていた衛兵も全員がギーガー討伐に駆り出された。


 そこへリリアが現れた。すでに剣を抜き、戦闘体制だ。


「ゆ、勇者どの!!」衛兵たちは驚きを隠せない。


「ここの司令官は?」リリアが叫んだ。


「あ、私です!」デボンが汗びっしょりかいて走ってきた。「勇者どの。これはいいところに。あなたがいたくださるのなら、心強い! ギーガーも恐れるに足りません!! しかし、驚きました……」心底ホッとしたようにため息をついた。


「私の指示に従ってもらえますか?」リリアはデボンの目を見て言った。


「も、もちろん! 全軍の指揮をあなたに!!」


「では、森の東側と西側に分かれて包囲してください」


「あ、あなたは?」


「私はこの場所で魔力を高めます。包囲が完了したら、ここから火炎魔法をギーガーに向けて放ちます。私の全身全霊の火力で一気に焼き尽くすつもりです。それでも、万が一、ギーガーが死なないようでしたら、あなた方はとどめを刺してください」


「とどめってどうやるんです?」


「角を切れば、ギーガーはこと切れます」


「どうやって角を切るんです?」デボンは自分の頭では考えられない無能な男だった。


 こんな男が国境警備の指揮をとっていることにリリアは愕然とした。


──大丈夫なの? テディさん、この人ぜんっぜんダメ。


「それはあなた方のやり方でやってください」


「は、はい……」デボンは泣きそうな顔をしていた。


「とにかく、早く包囲してください!」


「わかりました! 全軍、進め!!」デボンの号令とともに、衛兵たちは駆け出していった。森までは数百メートルといったところか。


 だれもいなくなった橋の上。 そこにはイザベラとリトヴィエノフの姿があった。


「リトちゃん、元気でね」


「イザっぺもな。ありがとう」


 リトヴィエノフは百メートルほど離れたところに一人、立っているリリアの方を見た。


 リリアは背中にリトヴィエノフの視線を感じた。振り返ろうか振り返るまいか悩んだが、決心を固めた。ゆっくりと振り返る。無理矢理に口角を上げ、笑顔をつくって。


「リトヴィエノフさーん! お魚楽しみにしてまーす! 戦争が終わって、奥さんの病気が治ったらまた会いましょうねー!!」


 嘘だった。もう二度と会うことはない、リリアはそう思っていた。クライファーへの片想いのつらい経験がリリアの頭をよぎる。心が焼かれるような地獄の日々だった。


──だって、つらいじゃない……。実らない想いを持ち続けるのはもうイヤ。今度こそ奥さんをちゃんとつかまえとくのよ、リトヴィエノフさん。


 リリアは懸命に手を振った。リトヴィエノフの幸せを願いながら。


「ありがどう! ルィルィアさん!! まだ会えるのを楽しみにしとるべー!」


リトヴィエノフも橋の上から大きく手を振り返していたが、やがて見えなくなった。


──行っちゃった……。


 リリアは森の方に向き直った。全軍の包囲が完了したようだった。デボンがこちらを伺っている。


 リリアの目にはギーガーの姿はない。ギーガーはイザベラの歌を聞いた者が見る幻惑だ。実際は魔物ではなく、森から頭ひとつ突き出た巨木に過ぎない。


 リリアはその巨木に向かって目一杯の火炎魔法を放った。


ごぉおおおおおおお!


 轟音が鳴り響き、その巨木は炎に包まれ、跡形もなく消え去った。

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