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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
王都ガレリア編
37/113

37.勇者は茂みに潜む

 イザベラはハープを抱えて橋の前にある衛兵の詰所にやってきた。


「おい、そこの女。止まれ!」槍をもった若い衛兵がイザベラに怒鳴った。


「ああ、こわいこわい。堪忍してよ、兵隊さん」


「何しに来た? ここはお前のような吟遊詩人のくるところではない」


「あら、私はねえ、吟遊詩人だからこそ来たのよ。明日からリューベルとの戦争が始まるんでしょ。だから私、兵隊さんたちに頑張ってもらおうと思って、歌を歌いにきたの」


「結構だ。帰れ!」


「せっかくここまで来たんだよ、二時間も歩いてはるばるとね。一曲だけでも歌わせておくれよ」


「ダメだ!」


「アンタ、堅物だねぇ。私もね、気が長い方じゃないんだ。おい、下っ端。上官に聞いてきな! ドゥーラン酒場のイザベラが来たってな!!」イザベラは啖呵を切って見せた。


 若い衛兵はその迫力に押されて、イザベラの言うとおり上官の判断を仰ぎに行った。


 実は国境警備にあたる将校たちはイザベラの店の常連客だった。




 茂みの中でリリアとリトヴィエノフは息を潜めていた。


 小声でリトヴィエノフが話しかける。


「ルィルィアさん、イザっぺは大丈夫だべか?」


「心配ないですよ、リトヴィエノフさん。イザベラはただの吟遊詩人じゃないんです」


「じゃ、どういう吟遊詩人だべか?」


「うーん、よく知らないけど、なんとなくいろいろ修羅場くぐってそうじゃないですか、アハハ」


 リリアに大した根拠はなかった。


「すまねの、ルィルィアさん。オラのためにこげなこどまでしでくれで。オラ、あんだに、なーんもしでやれねっでのに」


「いいんですよ……」 リリアは言葉を続けられなかった。本当は……


──あなたがいてくれたから、この一ヶ月、本当に楽しかった。私に勇気をくれた。夢を見せてくれた。あなたが私の彼氏になってくれたら、普通の女の子みたいに笑えるんじゃないかって思った。もしかしたら、幸せになれるんじゃないかって思った。セメラキントの大草原に家を構えて子供は2人……なーんて考えもしたけど……あーどうしよ! 次にロクサーヌに会った時、何て言ったらいいのよ!彼氏いるって言っちゃったし、あの子の性格からすると、次は絶対、「是非会いたいわ。あなたが選んだのだからさぞ素敵な男性なのでしょうね」なーんて小賢しいこと言うに決まってる!! あの女の意地の悪い顔が浮かぶわー。あー気分わる……っていうか、この作戦がうまく行ったら、もうリトヴィエノフさんとも会うこともないのね……寂しいな……。でも、リトヴィエノフさんをちゃんと故郷に帰してあげないと。困っている人がいれば助ける。それが勇者じゃない。そうよ、私は勇者なの! 勇者なんだけど……あー死にたい。なんかよくわかんないけど消えてしまいたい……


 とりとめもない様々な感情をリトヴィエノフにぶつけたかったが、リリアはそんなに器用ではなかった。


「いや、よぐね。そうだ、戦争が終わっだら、まだ行商にガレリアさ、行けるようになっだら、ルィルィアさんとこに魚、いっぺえ持っでぐべ。セメラキントで獲れる魚、是非ともあなだに食わしてあげてえ。な、ルィルィアさん、楽しみに待ってでな」


「……フフフ」


「なんか、おかしいべか? ……あ、魚はあんまり好きでねえべか? そしだら……」


「いえ、楽しみにしていますよ……アハハ」リリアは泣きそうになるのをなんとかこらえていた。こらえるためにわざと笑うしかなかった。



 詰所の前ではイザベラが待ちぼうけをくっていた。


「早くしろってんだ! あの小僧、ホントに上官に言ったのかしら!!」


 と、一目見ただけで位が高いのが分かる立派な鎧を纏った戦士が小走りでやってきた。


「イザベラちゃん、ごめんねー。なっかなか手が離せなくてさ」


「あー、デボンちゃん! ごぶさたー」


 デボンと呼ばれた小太りの兵士は酒場でさんざんイザベラのナイスバディに鼻の下を伸ばしていた常連客だ。


「イザベラちゃん、どうしたの? そんな吟遊詩人っぽい格好しちゃって」


「あ、これ? 私、本職これなのよー」


「ほんとー! いつものスケスケな服もいいけど、そういうフリフリな感じもそそるねぇー、ちゃんと谷間も見せてくれてるし、いいわぁ!」デボンは兵士としての責任感よりもスケベ心が勝る、生来のどスケベだった。


「で、イザベラちゃんここで歌いたいんだって?」


「そう。そうなの! 私たち吟遊詩人に歌い継がれている伝説の戦士を歌った曲があるのよ。それを兵隊さんたちに聞いてもらいたくて。明日からの戦い、頑張ってほしいから」


「そういうことなら大歓迎だよー! ありがとう!! イザベラちゃんの美声を聞けるなんて、部下たちも幸せもんだなぁ。もちろん俺もだけどー。っていうか本当は俺にだけ歌を届けに来てくれたんだろ? もう、素直になれよ、なんつって、アハハ」


 とにかくデボンはチャラかった。元々、高位の貴族のボンボンだということもあるだろう。


「でも一点だけお願い」デボンは続けた。「全員、持ち場は離れられないから、集まったりはできないんだ。それでもいい?」


「もちろんよ。私は歩きながら歌うわ。みんなに聞こえるように」


「そうしてもらえると助かる。でも、俺はもちろん、イザベラちゅわーんの吐息を感じれるくらい近くで聞くよー!! さあ来い! さあ来い!!」


──きもっ!


 イザベラは言葉を飲み込んでデボンに微笑みを返した。


 デボンは知る由もない。イザベラたち吟遊詩人の歌には幻覚を見せる効果があることを。

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