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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
王都ガレリア編
31/113

31.勇者はピンチを乗り切る!

──やられた!


 ふくらはぎを矢が射抜いた。その傷口から毒が一気に体中を駆け巡ったのがリリアには分かった。


──ヴィラモンテスの毒……


 すぐに突き刺さった矢を抜く。水中にリリアの血が混じる。


 リリアは莫大な魔力を宿しているから、リトヴィエノフのようにすぐに行動不能になることはない。しかし、毒はボディブローのようにじわじわと体力を吸い取り、体の組織を破壊していく。


 さすがのリリアも腕や脚に痺れを感じ始めていた。身体が沈んでいく。


──このままじゃ溺れる!


 リリアは漆黒の沼に引き摺り込まれていった。


 テオドアは敵兵が上がってこないのを訝しんでいた。


──もう10分以上は水の中だ。矢に撃たれて死んだのかもしれん……生捕りにするはずが、失敗か。いや、そう決めつけるにはまだ早い。強大な魔力を持つものなら、30分は持つ。いや、しかし、それほどの使い手にコソ泥のようなマネをさせるなどということがありえるのか? 何のメリットがある? 


 テオドアはなぜか胸騒ぎがしていた。いつもならば指示を出したら部下に任せ、引き下がるところだが、その場に立ち尽くしていた。


「テオドア団長! もう一度矢を放ちますか?」そばにいた哨戒兵が訊いた。


「いや、待機だ。ただ狙いはそのままだ。いつでも放てるようにしておけ!」


 そのころはリリアは水の底にいた。あたりにはかつて要塞だったころの戦いで戦士した兵士たちの骨が沈んでいる。その数は万にも届くほどだ。


──また骨か。もうウンザリ。アンデッドを思い出させないでぇ。っていうかもう限界……苦しい……くうき、すいたい……

 

 毒に蝕まれたリリアの体力は刻一刻と限界点へと近づいている。


──魔法を使うならもう今しかない。これ以上は身体が持たない。火炎魔法で炎の柱を作って放てば、その勢いで水面まで一気に浮上することはできる。でも、それじゃ矢の的になるだけだし、顔バレしちゃうし……


 その時、目の前にしゃれこうべがふわふわと浮遊してきた。


──あなたはいいよね、顔バレしないもの。ガイコツさんだったらどこの誰だかわからないものね……あ!


 リリアは思いついてしまった。この状況での最善かつ唯一の策を。



ドォォオオン!


 地上に轟音が響き渡った。


 堀の縁に集まっていた兵たちは吹っ飛ばされ、尻餅をついた。テオドアはなんとか踏みとどまっている。


 見ると、水の中から炎の柱が立ち昇っている。そして、その柱を取り囲むようにして無数のガイコツたちが宙に浮き、柱のまわりをメリーゴーランドのように回っている。まるで舞踏会のダンスだ。


「アンデッドだ!」哨戒兵が叫ぶ。


「撃て」の号令と同時に四方八方から矢が放たれた。すると、炎の柱はさらに勢いを増し、ガイコツのダンスはより激しくなっていった。


「一度、退くんだ!」各部隊長は一斉に退却を命じた。火の威力がすさまじく、火傷を負ってしまうからだ。


 一旦、兵たちは堀を囲むようにして立っている木立に身を隠した。そこで体勢を整えると、また一斉に矢を放つ。少しも慌てることなく規律正しいその動きはかなりの練度と言えるだろう。


 すると、第二波の攻撃のあと、すぐに炎の柱は消え、ガイコツたちは水に落ちた。


「やったぜ!討ち取った!!」あちらこちらから快哉を叫ぶ声が聞こえる。


「やりました! 団長……?」哨戒兵が振り向くと、さっきまでそこにいたテオドアの姿は消えていた。


 そのころリリアは石垣のさらに上、要塞の物見櫓に立って歓喜に沸く兵士たちを見下ろしていた。火炎魔法の爆風にのって飛び上がったのだ。


「やったぁ! うまくいったよぉ、我ながら天才? って思っちゃった」


「そうです。あなたは天才なんです」


「でしょでしょ! もっと言ってもっと褒めて……って……え?」


リリアが振り返ると、そこにはなんとテオドアの姿が!


「ギャッ! て、テディさん、ど、ど、ど、どうして、ここに?」


「それはこちらのセリフです。リリアさん」


「いや……なんていうか、アハハ」


「アハハじゃありません」


「はい……」


「哨戒兵の目はごまかせても、私の目はごまかせませんよ。一目でアンデッド軍じゃないことは分かります。そして、火炎魔法であることも。さらにあれほどの火力を一度に放出できるのは世界でもリリアさんしかいません」


「ごめんなさい」


「すごい魔法でしたよ。火に無数の方向から細かな流れを作り、さらには小さな爆発をあちらこちらで起こし、その爆風やなんやらで骨をコントールしてあたかもアンデッドが襲ってきたように見せるのですから。あんな使い方、初めて見ました」


「はい、私も初めてやりました」


「どうしてです?」


「いや〜、私、一応騎士団の剣術指南役ですから。訓練を、と思いまして、えへへ」


「そうですか。それはそれは。おかげで我が兵士たちも気が引き締まったことでしょう」


「いや〜お役に立ててうれしい限りですよぉ、アハハ」


「で、本当の要件は?」


「……言わなきゃダメですか?」


「私に強制することはできません。しかし、私を……この私を信頼してくださっているのなら、お教えください!」テオドアはつながった眉毛をVの字に曲げてリリアを見つめた。


 リリアはなぜかホッとしていた。テオドアの愛嬌ある表情が面白く、懐かしいとさえ思った。


──そんな顔してもだ〜め。言えないものは言えないの。ごめんね、テディさん……いつかちゃんとあなたに……うち……あ……け……


 リリアは気を失って倒れた。


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