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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
王都ガレリア編
27/113

27.勇者は混乱の末に……

 テオドアは自分の袖を引きちぎった。そして、それを目隠しにして頭の後ろで結んだ。


──よし! これで見えない。見えなければ大丈夫だ。女性にスカートや服を着せても何ら問題ない。


 全く問題ないわけではなさそうだが、それがテオドアの精一杯の配慮だった。


 目隠ししたままリリアの上半身を抱き起こす。そして、ブラウスの袖を通すため、リリアの腕をつかむ。テオドアは間違えて変な場所をつかまないように細心の注意を払った。


 しかし、ことはそう簡単には運ばない。人に服を着せる経験などテオドアには皆無であり、ましてや目隠ししたまま行うなどイリュージョニストの領域だ。


 10分経っても、20分経っても、袖ひとつ通すことはできなかった。


──そうだ! 暗闇を偵察する時にする要領でやればいい。それだ!!


 テオドアはここにきてようやく騎士団長としての冷静な判断力が戻ってきたようだ。ガレリア騎士団に伝わる伝統の技を使うことにした。手先から微弱な魔力を放出し、その波動が物にぶつかった時の揺れを感じることで目に見えずとも物体の輪郭や位置をつかむことができる。以前、レッドガルム討伐の時にこの技をリリアは誉めてくれた。


 使い慣れた技を応用するだけで、なんと簡単なことか。5分も経たないうちにテオドアはリリアの服を着せ終えた。


 目隠しをとってみる。心配していたブラウスのボタンの掛け違いもない。ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、テオドアはビリビリに破れたブラウスから覗いている無数の傷跡に心を痛めた。


──もう少し治っているものかと思っていたが……


 リリアが藁にもすがる思いでこの伝説の泉を訪ねた気持ちを、テオドアはようやく本当の意味で理解した気がした。そして、気分転換を兼ねた旅、くらいに思っていた自分を恥じた。


「なんであなたばかりがこんな目に遭うのです。こんなに傷ついて何を守るというのです。もう世界は平和になったのに」


 テオドアの目から涙がこぼれる。そして、少しの間、リリアの肩を抱いたまま泣いた。


 それから鎧をリリアに着せてやった。体への負担も考えなかったわけではないが、ボロボロの服だけでは勇者としての威厳が保てないのではないかと考えたのだ。


 そして、お姫様だっこをして洞窟を後にした。洞窟の外は太陽が眩しく輝いていた。それは、冷酷にもリリアの顔に刻まれたアンデッドたちの暴行の痕を浮き立たせた。


 

──まぶしいな。


 リリアは優しい光に包まれているのを感じた。風も心地いい。草原で日なたぼっこをしながらうたた寝した時のような気分だった。


 目を開けると、ゴリラがこちらを覗き込んでいた。


「うわああああ!!」


「り、リリアさん、よかった。目を覚まされたんですね!!」


 リリアはあたりをきょろきょろと見回した。そして、テオドアの腕に抱かれている自分に気づいた。そして、もう一つ気づいたのが……


──私、服着てる……? しかも鎧まで……たしか私、手を伸ばすこともできなくて……どうやって着たんだろう? ま、まさか……そ、それはちょっと……


 リリアは自分の脳裏に浮かんだことを首を振って打ち消した。そして気づいた。


──あ、首動く。じゃ、手も。そして、足も。


 リリアは十分に動けるまでに回復していた。


「テディさん、降ろしてください。私、動けます。大丈夫です」


「リリアさん、無理なさらないでください」


「いえ、自分の足で歩きたいので」


「そうですか」テオドアは赤ん坊を揺籠に戻す時のようにそっとリリアの身体を地面に近づけた。


「ありがとうございます」リリアは少しふらつきを感じたが、歩くのには問題ないようだった。


「テディさん、私を助けてくれたんですね」


「いえ、助けたなどとは。そんな大したことは……」


「命を助けていただきありがとうございました」リリアは深々と頭を下げた。努めて冷静に振る舞っていたリリアだったが、内心は……


──やっぱ完全に見られてるよね! 真っ裸だったもん!あんなとこもこんなとこも、誰にも見られちゃいけないのに! こんな傷だらけの汚い身体、将来の旦那さんにだって見られちゃいけないのに! 引いたよねテディさん、引いたに決まってる!! 自分だって引くもん!!


 何を言っていいか分からなくなったリリアは笑った。その様は壊れたコンピューターが誤作動を起こしたようだった。


「へへへ……イヒヒ……ヒーッヒッヒ」


 そして、アンデッドのような歩き方で進み始めた。


「リリアさん? どうされたんです?」


 テオドアが走ってきてリリアの前に回り込んだ。リリアは立ち止まったが、不気味な笑いは続いている。


「ハハ、アハハ、ウフフ」


「だ、大丈夫ですか?」


「やっぱり見ましたよねぇ? テディさん」


「え?」


「私、すっぽんぽんでしたもんねぇ、ハハ……完全にねぇ、アハハ」


「い、いや……その……」


「どれくらい見ましたぁ? これくらぁい? それともこれくらいぃ?」


「ちょっとだけであります! ほ、ほんのちょっとばかり。ほんとにほんとにちょっとだけ。チラッと。あ、目隠し!目隠ししてました。本当です! 本当なんです! 信じてください!!」


「アハハ、いいんですよ、別に。気にしないでください……助けていただいたんだから。ヒヒヒ。汚い身体ですみませんねぇ……目の毒だったでしょうねぇ、ウフフ」


「目の毒なんてそんな! そんなことはあるわけがない! それはそれは見事なお身体でございました! うっかり見惚れるほど、王族が大事にしているビーナスの絵画よりも豊満で、キュッとこう……締まった感じとかたまらなく……素敵で……はぁ……」


「完全に見てるじゃないですか!! しかも隅々まで!!」


「いや、隅っこの方はほとんど! ほとんど見てないんです!! 騎士団の名にかけて誓います!! 私を信じてください」必死であたふたしているテオドアは涙目だった。


「うえーん、お嫁に行けないよぉおおおお!!」


「い、いやこれはなんとも……申し訳ありません!! 私が……」


 責任をとります、とは言えなかった。


「いえ、なんでもありません!」


「テディさんが悪いんじゃないんですよぉ。別に私、怒ってるわけじゃないんですよぉ。ただ……」


「ただ……?」


「私、ここに何しに来たのかなぁってぇ。わざわざ傷を増やすために、はるばるこんな険しい山まで来ちゃってぇ。すっぽんぽんでアンデッドに襲われるわ、裸を見られるわ、お気に入りの服はこんなになるわ……もう、悲しいんです。悲し過ぎるんですよぉ!! うえーん、うえーん、うえーん」


 リリアはその場に突っ伏して、ものすごい勢いで泣き始めた。すっかり回復した体力を全て注ぎ込んで泣いた。


 テオドアはどうしていいか分からず右往左往するだけだった。



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