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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
王都ガレリア編
21/113

21.勇者はテンパる

翌朝早く、リリアはベッドから起き出した。寝ていたのかどうかもわからないほど浅い眠りだったように思う。


結局、昨晩はリトヴィエノフへの手紙に手がつけられなかった。川からどうやって帰ってきたのかもおぼろげだ。


リリアは生まれて初めて告白されたのだ。


かつてイボガエルが服を着たような姿の魔王に「我が妃となれ」と言われたことはあるが、それはノーカウントでいいだろう。


テオドアが自分のことを想ってくれていたなんて全く気がつかなかった。最初は嫌われていると思っていたし、その後はお客様扱いされているだけだと思っていた。


――しかし、実際は違ったのだ。


「魔王を倒して凱旋した時、初めてあなたのお姿を見ました。女性の勇者ということで、最初は興味本意でパレードを見物しておりました。華奢な体のどこにそんな強大な力が潜んでいるのだろうと。しかし、私はあなたの表情に釘付けになってしまいました。世界を救ったというのに、あなたはまるで遠足の日に雨に降られた子供のような顔をしていたので」


その瞬間、恋に落ちたのだとテオドアはリリアの目をまっすぐ見ながら語った。

リリアは心拍数が上がり過ぎて思考が停止していたが、かろうじて覚えているのは……


──遠足の日に雨に降られた子供のような顔ってどういう顔よ!もっといい表情があるでしょ! 笑顔よ、笑顔。けっこう褒められるのよ、笑顔が可愛いって。イザベラだけだけど……


と、頭の片隅で思ったことだけだ。


「痛ッ!」


皮膚がただれたままの側頭部に櫛があたった。リリアはテーブルの上にある小さな鏡に姿を映し、自らと向かい合った。


――私は実らぬ恋の苦しさを知っている。


クライファーをロクサーヌに奪われ、心を地獄の業火で焼かれ続けた日々。自分もそんな思いをテオドアにさせてしまうのではないか。リリアはそれが怖かった。かと言って、リトヴィエノフへの想いが消えるはずもない。


リビングに行くと、テオドアとマルチナが会話を楽しんでいた。見たところ、テオドアの様子はいつもと変わらない。すっかり旅支度を終え、すぐにでも出発できる装いだ。


マルチナは出がけにサンドイッチを持たせてくれた。


「あなたはいい子、本当にいい子ね。声を聞けば分かるわ。リリアさん、テオドアのこと、よろしくお願いしますね」


「はい……」


マルチナは気丈に振る舞っていたが、やはりどこか寂しそうだ。多忙でたまにしか帰省できない息子のことが心配でならないのか。


テオドアと二人きりで朝の大通りを歩く。昨日の賑わいが嘘のように静まり返っていた。


「夜にはボルゴーニュ山脈の山域に入れることでしょう。仮眠をとって明け方から洞窟内の探索といったところでしょうか」


「あ、はい。よろしくお願いします」


テオドアはいつもと変わらない、いや、心なしかいつもよりも堂々としているように見える。


――あれ? 気まずいのって私だけ? こういう時って昨日の話をぶり返さない方がいいのかな? でも、私なんの返事もしてないし……。でも、付き合ってくださいとも言われてないし……。普通の女の子ならどうするんだろう? 好きな人がいるんですとか、それくらいは言った方がいいのかなあ。やっぱり、ノーリアクションって失礼な気がするし……


リリアは考えすぎて、完全にテンパっていた。そして、一方のテオドアも実はテンパっていた。



――どどどどどどうすればいいのだ!? 昨日は母ちゃんにしてやられた。食後に飲んだ蒸留酒にミルモネの粉末(何でも正直に話してしまう薬。魔女によって魔力を込められている)を仕込んだに違いない。そうでなければ、この俺があんなことをリリアさんに言うはずがないではないか!


ちなみにテオドアは今朝方そのことをマルチナに問いただしたが、しらばっくれた。だが、マルチナには“前科”がある。十年前、テオドアの初恋の相手に対しても、同じ手法を使ったのだ。そして、当然のようにその恋は砕け散った。



「あの、テディさん。昨日のことなんですが……」


「ななな、なんでしょう?」


「えーと、その……なんて言うか。昨日は……」


「ホタル! ホタルきれいだったでしょう?」


「あ、そうそう。とってもきれいでした。アハ、アハハ」


「そ、それは、よ、良かったです。ウン、本当に良かった。はぁ……」


恋に臆病な二人は、とりあえず“なかったことにする”という選択肢を選んだ。


それから、ほぼほぼ無言で馬車を走らせるテオドアの隣で、たっぷりと気まずい時間を過ごしたリリアだったが、いつの間にか眠ってしまったようだ。


目を覚ますと夜になっていた。あたりはうっそうとした森だ。馬は木につながれている。


リリアが馬車から降りると、地面から紋章が浮かび上がった。


「これは、魔封じの結界?」


おそらくリリアが眠っている間に魔物に襲われることがないようにと、テオドアが呪文を唱えたのだろう。


本職の魔法使いでもこれを習得している者はそれほど多くないというのに、戦士であるテオドアがかなりマニアックな魔法にまで精通していることにリリアは驚いた。


当のテオドアは姿が見えない。どこに行ったのかとリリアは目を凝らすうちに、目の前に断崖絶壁があるのに気づいた。そして、地下へと続く大きな穴があいている。


――あれが伝説の泉のある洞窟に違いない。多分、テディさんは先に中に入ったんだ。


リリアは結界の外に出ると、剣を抜き、洞窟の中へと入って行った。


お読みいただきありがとうございます!

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