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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
センチメンタルジャーニー編
109/113

109.タイムリミット

 翌日、リリア、ルイーズ、エスメラルダの三人はマヌーフの森を抜けてビルバッキオの街を目指していた。この騒動の黒幕をあばき、ヴァンサンを人間に戻すために。街の中でヴァンサンに接触した怪しい人物を探すのだ。


「いろいろとわからんことが山積みなんやけど……」ルイーズが切り出した。「そもそもヴァンサンは悪魔のばあちゃんから、悪魔になる実をもらって食べたんやろ?」


「そうだよ」リリアが答える。


「それと星のかけらがどうつながるんかよう分からんのよ。星のかけらに封印されとった師団長クラス?やったっけ? とにかくえらい強烈な悪魔がヴァンサンの体をのっとったわけやん?」


「多分だけど、星のかけらに封印されていた悪魔を解き放つには、ヴァンサンさんの体を悪魔にする必要があったんだと思う。つまり、人間の体じゃあれだけの悪魔を受け入れるには脆すぎるってこと」


「あ、そうか。じゃ黒幕はヴァンサンが悪魔になるよう仕向けたんか……」


「私もそう思う。多分、マドンジェラの実を食べれば、寿命の短い人間からエルフと同等の長寿になれる、ウィノーラさんとずっと幸せに暮らせるって思い込ませたんだよ」


「それ仕組んだの、悪魔のばあちゃんやないよな?」


「テッサさんではないと思う。もしそうだったら、クロちゃんが気付いてると思う」


「そやな、クロちゃん、あんないい悪魔おらんいうとったな。オーラの色でわかるわけやし……しかし、はがゆいわ〜。ウィノーラさんはおめでたやったんやで、それを自分から逃げたと勘違いするなんざ、ヴァンサンもアホや!」


「ウィノーラさんは魔郵便でそのことをヴァンサンさんに知らせたって言ってた。でもその連絡はヴァンサンさんに届かずに……。届いていたらこんなことには……」


「私はそこにこの事件のカギがあると思うんよ。誰かが邪魔したんや。そして、それが黒幕や。エスメラルダはどう思う?」


「……」エスメラルダは覇気なくただ呆然と歩いていた。


「エスメラルダ!」ルイーズが背中を叩いた。「しゃんとせえよ」


「クロちゃん……」エスメラルダは消え入りそうな声で言うとその場にしゃがみこんでしまった。


クロアはエルフの政界関係者をあたるため、別行動だった。そのショックのせいか、エスメラルダは魂が抜けたようになっていたのだ。


「ほんと、エスメラルダの悪いくせや。恋するとそれしか見えへん! リリアちゃん、ほっといて行こ!!」ルイーズは勢いよくそう言ったが……


「わかる!わかるよ!エスちゃん!!」リリアはエスメラルダの方に駆け寄った。


「えー!」ルイーズはずっこけた。


「好きな人とは一瞬だって離れたくないよね!!」リリアは下を向くエスメラルダを抱きしめた。


「リリアちゃん!」エスメラルダもぎゅっとリリアの体を抱きしめた。


「あ〜あ、勝手にやっとき。ダメや、この子ら一生幸せにならんわ」


そうこうしているうちに、ビルバッキオの城壁が見えてきた。


 そして門の外、地面に刻まれた巨大な魔法陣の中で、あの男が暴れていた。


 ヴァンサン——いや、もはやその姿は人ではなかった。こうもりのような黒い翼、血に濡れたような爪、咆哮を上げる姿は獣そのものだった。


 魔法陣の前に立ち尽くしていたのはウィノーラだった。彼女はリリアたちの姿に気づくと、微笑んで小さく手を振った。


 けれどその笑みは、痛々しいほどに悲しみに満ちていた。


 リリアは思った。最愛の人が、目の前で理性を失い、言葉すら交わせない怪物となってしまった姿を見続けるなんて、どれだけつらいことだろうか。何かウィノーラに声をかけてあげたかったが、言葉にならなかった。


 リリアは空を見上げた。茜色に染まる空。まもなく日は沈み夜がやってくる。静かだ。ヴァンサンの体をのっとった悪魔も疲れたのか今はぴくりとも動いていない。


こんな状況でなければ、きっとこの美しい瞬間にひたっていたに違いない。リリアはそう思った。


と──


ドドドドーン!!!


静寂を切り裂いて砲撃の音が轟いた!


「危ない!」ウィノーラがリリアやルイーズ、エスメラルダを守るように前に出た。


「クラステス……ヴェリウヌス……フィア……フォンドゥーラ!」ウィノーラが呪文を唱えると、光が全員を包んだ。バリアのようだ。


砲弾はヴァンサンのすぐ前に着弾。破片が飛び散るが、バリアのおかげで全員無事だった。


「すご……」


リリアは感心した。このバリアの強さは高位の魔術師と同等だ。魔王討伐軍に参加していたとウィノーラは言っていたが、かなりの使い手なのだろう。


悪魔と化しているヴァンサンは怒り狂っているが、ダメージはほとんどなさそうだ。


「どどど、どういうことなん!?」ルイーズが驚きの声を上げた。


「街に駐屯している軍隊よ」ウィノーラが言った。「さっきから何発も撃ってきてるの」


「ヴァンサンはビルバッキオの人間やろ? 仲間やのに、なんでこんな仕打ちを」


「無理もないわ。万が一、魔法陣が破られたら街は滅びるかもしれないんだから。ヴァンサンさん一人を救うために街を危険に晒せないってことね」リリアが言った。


「そやけどさ……」


「さっき使いが来たわ。明日のお昼には援軍がやってくるって。新式の大砲が20機。それで一斉に狙われたら……」ウィノーラが言った。


「いくら悪魔だからってひとたまりもないわ」リリアが言った。


「タイムリミットが近すぎるで!まる1日もないやん!」


「勇者リリア、お願いします!ヴァンサンを、どうかヴァンサンを助けて!!」ウィノーラは悲鳴に近い声を上げた。




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