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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
センチメンタルジャーニー編
107/113

107.エルフの政治

宮殿の回廊は静まり返っていた。陽光が高窓から差し込み、磨き上げられた白木の床を照らす。


 リリアたちはクロアに案内されながら、宮殿の奥へと進んでいた。


「へえ、なんかエルフっていうと、森の中で木の上に住んでるイメージやったけど……めっちゃ立派やん」ルイーズが感嘆の声を漏らした。


「ちゃんと木の上の家もあったの見たしいー。でもこういう格式ばった建物もあるんだね」エスメラルダがうなずく。


 宮殿の壁面には星や蔦、風を象ったレリーフが掘り込まれ、天井の梁には光の精霊の紋章が刻まれている。


 クロアは立ち止まり、ふと振り返った。


「お前らに見せたい場所がある。ついてこいよ」


 リリアたちは頷き、さらに回廊を進んだ。


 しばらくして重厚な扉の前にたどり着いた。クロアは軽く手を触れるだけで、それが音もなく開いた。


 そこには円形の広間があり、中央には星のモザイクで描かれた議場の床。その周囲を取り囲むように、七つの席が円状に配置されていた。


「ここがマヌーフの議事堂だ」


「……議会?」リリアが小声で尋ねる。


「ああ。マヌーフの政治は、七人の議員で成り立ってる。それぞれが森や星や風の精霊を象徴していて、平等な立場で物事を決めるんだ」


「で、その中にクロちゃんのおばあちゃんがいるんやろ?」ルイーズが訊く。


「そうだ。ばあちゃんは今、副議長なんだ。上に議長はいるが、俺の見たところ、七人の議員の中でも一番、発言力がある。とにかくコミュ力ハンパねえからな。いろんなところに顔がきくわけさ」


「人間とも仲がいいわけだしね……」リリアがつぶやいた。


「ああ、コミュ力ありすぎて、異種間なのに男女関係にまでなってきた過去があるからな」クロアが呆れたように言った。


「えーマジ? クロちゃんのおばあちゃん、マジ憧れるしー」エスメラルダが異常に目を輝かせて言った。人間である自分とエルフであるクロアとの恋愛もあながち不可能じゃないと悟った顔である。


「人間だけじゃねえ、エルフ王家にも顔がきくんだ。唯一、王家に意見を届けられる立場でもあるしな」


「王家って……王様とかいるん?」ルイーズが聞いた。


「いるにはいる。ただ、エルフの王家は政治に介入しないのが慣習だ。エルフの社会じゃ、権力と権威を分けてるんだ。議員たちが民意を代表し、王家は象徴として存在する」


「ようできとるなあ」ルイーズは感心したようにうなった。


「人間の社会もそうなればいいのに……」リリアは国王たちのエゴによって引き起こされ、今も続いている戦争のことを思い浮かべた。そして、一瞬、大きな借りがあるゴリラ顔の男のことを思った。


「まあ、権力と権威を分けたところで、キナくせーことが全てなくなるわけじゃねえ。確かに表立った争いはなくなったが、エルフも神様じゃねえ。表じゃ人間が想像するようなキラキラしたエルフっぽく振る舞ってても、腹の底じゃドロドロしたヘドロみてえな感情を押し殺してる奴もいる。そうなると、どうなる? 争いは水面下に潜る。つまり陰謀が横行するってわけさ」


 クロアは一歩、議場の床へと踏み出した。


「俺も昔はここにいた。ばあちゃんの秘書官だった」


「えっ、そうなん?」ルイーズが言った。


「クロちゃん、エリート?」エスメラルダの目はらんらんと輝いた。


「でもな……俺の“目”のせいで……」


 クロアの声が低くなる。リリアたちは黙って彼の言葉を待った。


「俺には……オーラが見えるんだ。生き物の生命の色っていうか、心のざわつきとか、嘘とか……そういうのが色になって見える」


「え、それめっちゃ役立ちそうなスキルやん!」ルイーズが言った。


「実際、こんな力、持っててもロクなことねえんだわ」


「なにかあったの?」リリアが聞いた。


「秘書官やってたとき、ある議員の“オーラ”が……変だった。急に濁った色になったんだ」


 リリアたちは息をのんだ。


「選挙の前のことだ。時期的に微妙な頃合いだったから俺はすげー警戒した」


「エルフって選挙あるんやね」ルイーズが言った。


「マジ、尊敬」エスメラルダも続いた。


「人間も昔、選挙をやった国があったみたいだけど……うまくいかなかったみたい」リリアは言った。


「ただな、選挙権があるのはビュレー以上の身分、つまり上流階級しか選挙権がねえんだ」


「エルフも階級社会なんやね」


「ああ、ばあちゃんはエルフ全員に選挙権をって掲げて議長選挙に出た。そんでもって今の議長はゴリゴリの反対派だ。さっき言ったおかしなオーラの議員はわりかしまともで中立派って感じだった。ってか、むしろ心情的にはばあちゃんに同調してる雰囲気だった」


「でもオーラの色が変わった」リリアが合いの手を入れた。


「きっと買収されたんだな。賄賂だよ。俺はその証拠をつかもうとして、しくっちまった」


「なにやらかしたん? アンタのことだから、かなりやっちゃってそうやな、アハハ」ルイーズは深刻な雰囲気でも全く空気の読めない女だった。


「俺は賄賂の受け渡しを見たっていう証言者を見つけた。かなりいいオーラを出してたから、全く疑わなかった。で、その内容を議会にぶちまけたんだ。そしたら、“森の番人”に左遷されたってわけさ」


「どういうこと? 意味がわからないけど」リリアが言った。


「証言者が『そんなこと言ってねえし、賄賂なんて知らねえ』って証言を翻したんだ。当然、嘘に決まってる」


「オーラの色、大丈夫やったんやろ? なんでなんや?」


「ああ、俺が聞いたときは澄み切ったスカイブルーだったよ。だが、議会に出て来た時は、淀んだ紫になってたよ。俺に話した後に、敵側がなんかそいつに仕掛けたんだろ。そして、それはまんまと成功した」


「そんな……クロちゃん、かわいそすぎるしー」


「その件で思い知った。どんだけ心がきれいでも、一瞬にして汚れる。だからオーラは信じられねえ。見えたって意味がねえ。でも俺には見えちまう……だから、俺にとっちゃ呪いみてえなもんだ」


 議場の静寂が、クロアの言葉を重く響かせた。が、1人だけその空気の外にいたのがルイーズだ。


「なるほどやな。私ら女の子もようあるで、嘘ついとる時でも、しゃべっとる時は本気や。好みのタイプは?って聞かれて、優しい人って答えるやろ? んなわけないやん。見た目が大事やがな。やけど、仕方ないねん。特に失恋直後は自分でもそう思うとる。でも、実際優しいだけの男とつきおうてみ?一瞬で辟易や。つまらん過ぎて。それな、悪気があって言うとるわけやないんよ、そういうことやろ?」


「……え? 何の話だっけ?」リリアは一瞬考えてから、そう言った。


ぎぃいいい


と、7つある扉の1つが開き、立派な長く白い髭をたくわえたエルフが姿を現した。


リリアたちは無意識のうちに背筋を正していた。言葉ではなく、気配だけで場を支配するような存在感──それがエルフの議長だった。


「久しぶりですな、クロアルダ君」


「……ジェラルディン議長」クロアが言った。その表情にはどこか翳りがあった。


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