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勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
センチメンタルジャーニー編
103/113

103.極端なエルフ

 リリアとルイーズはジゼルホテルを後にすると、街の門を出た。


 エスメラルダは木立の陰にヴァンサンを横たえて看病していた。二人の顔を見ると、ホッとしたように顔が綻んだ。


「ごめんなー。遅くなったわ。いろいろあってん」


「エスちゃん、どう? ヴァンサンさんの容態は?」


「どうだろ? わかんないしー。少し前から意識が戻らないしー」


 青く脈打つ悪魔の心臓はヴァンサンの体にほとんど取り込まれていて、先の部分がほんの少しだけ体の外に出ているだけの状態だった。悪魔の心臓はもう間も無くヴァンサンの体と完全に一体化するだろう。


「多分、ここからが生きるか死ぬかの戦いね」リリアが言った。


「ヴァンサンの体が悪魔の心臓に適応すればええけど」ルイーズが言った。


「えー! マジで言ってる!? そしたらこの人、悪魔になっちゃうじゃん!!」エスメラルダが取り乱して言った。


「そやねんけど……まあ、いろいろあるねん。とにかく、ヴァンサンは騙されてんやないんや。エルフのねーさんと結ばれるために自分から悪魔になるいうて志願したんや」


「悪魔に志願……マジでヤバくね?」


「それだけ純愛なんだよ」


「純愛じゃねーだろ」急に男の声がした。


 リリアが振り返ると、木立の向こうに落ちこぼれエルフのクロアが立っていた。


「クロちゃん!」


「おいリリア! 悪魔のところへ連れて行け!」クロアが言った。


「り、リリア? リリアってもしかしてリーリちゃんは……」エスメラルダが言った。


「あの……勇者リリアなん?」ルイーズが言った。


「そうだよ! リーリなんて偽名つかってねえで最初っから本名を名乗れよ!」クロアが言った。


「うるさいなあ!」リリアがむくれて言った。そして神妙な面持ちになって続けた。「ごめんね、ルイーズちゃん、エスちゃん。人間関係でいろいろあってさ、勇者とかって言うと面倒臭いことばっかりで……二人を騙したみたいになって……悪気はなかったの! なかったんだけど……」


「騙したなんて、全然そんなことないじゃん! リーリちゃんが勇者だとかそんなの全然関係ないしー。私ら気が合ったから一緒にいるんだしー」


「そや! どおりでたま〜に妙に頼もしいな思っとったけど。勇者やったんやな。すごいで! 私、戦う女はかっこええと思う!」


「二人とも……ありがとう!」


 女三人は互いに歩み寄って抱き合った。それを斜に構えて見ていたクロアだったが……


「そういうのは後でやってくれよ! こっちはさっさと悪魔退治をやんなきゃいけねえんだっつーの!! ……でも……お前ら、みんなイイやつだな……」


 涙目になっていた。


「なんでクロちゃんが泣いてるんや?」


「意味わかんないしー」


「この人、こういう人みたいなんだよねー。口が悪くてキャラの一貫性がない気がするんだけど」


「うるせえ!」クロアは感情移入の深度が尋常ではない。それは欠点でもあり、最大の長所でもある。


「クロちゃん、あなたならわかってくれると思うよ。私も誤解してたんだけど悪魔はね、悪い存在ばっかりじゃないの! いい悪魔もいるんだよ!」


「悪いから悪魔なんだろが! 悪くなきゃ悪魔じゃねえ!」


「じゃ、行ってくれば? ジゼルホテルにいるから。入り口の前に座ってるおばあちゃんが悪魔よ。でもね、とっても品があって慈愛に満ちた悪魔、素敵な悪魔なの。会えばわかるわ」リリアが言った。


「何寝ぼけたこと言ってんだ、バカ。悪魔に素敵もクソもあるかってんだ。悪魔は常に悪でしかねえ。それは自然の摂理なんだよ。フフフ、邪悪な悪魔は俺がぶっ殺してきてやるぜ!」クロアは鼻息荒く言い放つと、街の門へとダッシュして行った。


──1時間後。


 クロアは戻ってきた。


「どうだった?」リリアが訊いた。


「彼女は……素晴らしい悪魔だよ……」クロアは涙声で話し始めた。「ただ人間が好きで人間と一緒に暮らしたかっただけなのに……そんなひどいことってあるかよ……彼女には幸せになる権利がある……それなのに……ウッウッ」最後は嗚咽に変わっていた。


「あんた、ホンマにコロっと変わるなあ」ルイーズが呆れたように言った。


「落差激しすぎて笑えるわー」エスメラルダは半笑いだった。


「とにかくこういう人なのよ。悪い人、いや悪いエルフじゃないのは間違いないと思う」リリアは冷静に言った。


「ちょっと病的やけどな……なあ、クロちゃん、私、医者なんよ。一回診察したろか?」


「うるせえ!」


「私は薬剤師だしー。安定剤が欲しかったら言ってくれれば用意できるしー」


「うるせえ!!」


「とにかく、分かったでしょ。良心的な悪魔がヴァンサンさんの恋を応援してくれた結果がこうなの。ヴァンサンさんはあなたのお姉さんと結ばれるために自分で決断したのよ」


「ああ、よーく分かったよ」


「純愛でしょ?」


「ああ、泣きたくなるほど純愛だ」


「あんたもう泣いてるやない?」


「うるせえ!」


「とにかく、ヴァンサンさんを死なせちゃだめ!そして、力になれるのは一人しかいない」リリアが言った。


「ねーちゃんか……」


「クロちゃん、ウィノーラさんを探してここに連れてこようよ! ね? 手伝って! あなたしか頼れる人いないの」




 

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