表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者リリア♀は彼氏ができない!  作者: アポロBB
センチメンタルジャーニー編
101/113

101.悪魔さがし④

 リリアとルイーズが振り返ると、入り口に立っていたのは、小柄な老紳士だった。眼光だけ異様に鋭い。


「今、もどったよ。テッサ。今日も疲れたよ」老紳士は老婆に話しかけた。


「……シチューを用意しているよ。お腹が空いただろ?」


「で、この人たちは?」


「……あんたを探してるみたいなんだよ」


「お嬢さん方、何か御用で?」


「あんた、悪魔やろ?」ルイーズは単刀直入に言った。


「師匠! ちょっといきなり過ぎない?」


「時間ないんや。挨拶とか抜きで本題に入るで。リーリちゃん、聖水や!」


「わかった! 悪魔め! 正体を現しなさい!」リリアはそう言うと、カバンから聖水の入った小瓶を出して、男にかけた。


「うわああああ!!!!」男は悲鳴を上げた。


「これはエルフのローダ様が精製した聖水。あなたの皮膚を焼き尽くすわ!」


「ざまあみぃ!!」


「わああああ!! 皮膚が……皮膚がただれるぅうううう……って、こんな感じかい?」痛みに悶えていたと思われた男は、居住まいをただし、おどけるように言った。


「は?」リリアはその光景がにわかには信じられなかった。


「エクソシストごっこだろ? 今、流行ってるのかい?」


「……そ、そんな……悪魔じゃないの?」リリアが言った。


「いや、リーリちゃん騙されちゃダメや。こいつが悪魔に決まっとる! お前、おばあちゃんを騙して近寄ったんやろ? 乙女心を弄ぶなんて最低やで!!」


「あっはっは、この私が本物の悪魔なわけないだろ? ただの商人さ」男はそう言うと、ハート型のペンダントを見せた。「こういうのを売りに来たんだよ。ここじゃ、恋愛運が上がるって謳うだけで飛ぶように売れるんだ」


「マジ!? このおっちゃん、ただのノリがええだけやん!!」ルイーズが叫んだ。


「ご、ごめんなさい!!」リリアは頭を下げた。「勘違いです、本当になんとお詫びをしていいやら……」


「ハハハ、いいよいいよ。僕も結構楽しんじゃったしさ」


「おっちゃん、ホンマにゴメンな」


「君たち、本当に悪魔を探してるんだ?」


「そうなんです。悪魔に騙されて死にかけている人がいて……私たち、なんとか助けたくて」


「……騙されたって?」老婆が口を開いた。


「そうなんです。マドンジェラの実を食べさせられたみたいで」


「ああ、ヴァンサンのことか?」男が言った。


「おっちゃん、何か知ってるん?」


「知ってるもなにも……君たちが探してる悪魔はそこにいるよ」男の目の先にいるのは……


「えー!!」リリアとルイーズは声をシンクロさせた。


「おばあちゃんが悪魔なん?」ルイーズが声を震わせながら言った。


「……そうだよ」老婆の目が緑色に光った。


「ひぃ!」ルイーズがリリアの後ろに隠れた。「うわ! そういう展開アリなん!?」


「テッサ、話してあげなよ」男が言った。


「……仕方ないねえ。これが私の本当の姿さ」老婆の頭にバッファローのような角が生え、爪は魔物のように伸び始めた。背中からはコウモリのような羽が生えてきた。


「ぎゃあああああ!!」ルイーズが悲鳴を上げた。


「すでにおばあさんの魂は悪魔に奪われてたってことみたいね」リリアはいたって冷静に言った。


「リーリちゃんって時々、めっちゃ頼もしいんやけど、なんなん?」


「まあ、任せといて」リリアは動けないルイーズを庇うようにして前に出た。そして、聖水の入った小瓶を手に取った。


「……あなたたち、勘違いしてるね。私は悪魔に魂を奪われたわけじゃないよ。生まれた時から悪魔さ」


「そうなんだ、テッサは元から悪魔なんだ」男が言った。


「おっちゃん、彼女が悪魔で平気なん?」ルイーズが訊いた。


「ああ、僕は悪魔のテッサを愛してるんだ」


「意味わからん! 全く意味わからん!!」


「……」リリアは黙っていた。見た目は正真正銘の悪魔なのに、老婆からは邪悪なオーラが全く感じられない。


──どういうこと? こんな無防備な相手に聖水なんて投げつけられないよ……


 リリアは手に持った小瓶をぎゅっと握りしめた。


「お嬢さんたちは悪魔は無条件に邪悪な存在だと思ってるのかい?」男が言った。


「そうや!」ルイーズが即座に答えた。


「私もそう思います。っていうか常識だし……」リリアも口を開いた。


「ハハ、まあ仕方ないか。悪魔って見た目が怖いしね。それに確かに悪事を働く悪魔が多いのは事実だからね。ただ、みんながみんなそうじゃないんだよ。テッサみたいに、優しくて清らかな心を持つ悪魔だっているんだ。っていうか、そういうい悪魔の方が多い。テッサの息子さんだってそうだよ」


「あ、あの死んだような目をしとった息子さんも悪魔なんや……」


「……私は夫と息子と三人でこの街にやってきたのさ。三人で真面目に働いてためたお金でこのホテルを買い取ったのが20年前のことさ。人間社会で人間のように暮らすのが夢だったんだ。夫は人間が大好きだったんだよ。地域にも馴染んで楽しい生活が続いたよ。本当に幸せだった。でも、夫は十年前に悪魔祓いと名乗る男に殺された。何も悪いことをしていないのに。ただ悪魔っていうだけで焼き殺されたんだよ」


お読みいただきありがとうございます!

もしよかったらブックマーク、感想、レビュー、評価などいただけると大変励みになります。

どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ