一話 転移
俺の名前は真壁浩一、学生だ。
特に特筆すべき点も無ければ、極端に苦手な事もない、そこら辺に居るようなごく普通の学生と言えるだろう。
俺は眠い目を擦りながら授業を受けていた。少々退屈な授業だったが、やはり寝る訳にもいかないので俺は眠気と葛藤を余儀なくしていた。
すると横から声がする、夢を見ているのかと思ってたがそれは現実からの声だった。
「ちょ…真壁くん?起きてる…?ねぇったら!」
その声により俺はハッとした。
いつの間にか寝てしまったらしい、不覚…。
「ん…あぁ、寝てしまったのか…うぅ…眠い…」
彼女の名前は田畑美穂。容姿端麗で成績優秀な女子である。
「もう授業終わっちゃうよ…!というか、ノート1ページも書いてないじゃないの…!ほら、早く!」
すっごいせかしてくる。
俺は限りある力を振り絞りノートを書いていくが…まだ5割も行っていない所で授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
…というか、何故終わる直前に起こしたのか…という疑問は心の中にしまい、もう終わったのなら仕方ないとばかりにまた俺は眠りにつく。
「箱 を 探し て 」
「ハッ…!」
目を覚ます。
辺りはもう夕方になっていた。
色々とツッコミ所が満載だが取り敢えず疑問を整理しよう、まず、何故夕方になっても誰も起こさないのか、そして何故誰も居ないのか、さらに夢の中の声は何なのか。
先決すべきはこの学校からひとまず出る事だろう。
おもむろにグラウンドの方を見るがやはり誰も居ない、その奥の校門、道路、歩道、家。人の気配は何一つない。
いや待て、これも夢では?
このような事が現実に起こる筈がない、あるとすれば盛大なドッキリぐらいだ。
試しに思いっきり自分を殴ってみるが…残ったのは頬へのとてつもない痛みだった。
次に、夢と認識している、つまり明晰夢ならば事象の改変が出来ると思ったが無理だった。
これらの結果から分かる事は…
ここは現実だ。
認めたくない結果だったが、ここは潔く認めるしかない。
俺は玄関へ向かい脱出を試みたが、何か不思議な力で施錠されていた。
俺は窮地にたたされていた、ここから出られないとなると助けすら呼べないからだ。
でも何か引っ掛かる、何かモヤモヤする…
箱を…探して…?
夢の言葉を思い出す。
箱を探してみよう、多分…いや、確実に何かあるはずだ。
俺は学校中、様々な場所を探し回った、全ての教室、職員室や校長室から体育館、ボイラー室まで隅々探した。
しかし…
「無い…」
どこにもない。本当にどこにもない。
俺の知ってる限りの場所は探した筈だがどこにもなかった。
もしや本当にここから出られないのでは?と、最悪の事態が脳裏をよぎる。
そして、とてつもない恐怖が津波のように押し寄せた。
俺は廊下の真ん中でうずくまってしまった。
「駄目だ…もうお終いなのか…」
窓まで施錠されており、終いには窓を割って出ようと考えたが割る事が出来なかった、どうなってるんだ…?
絶望していたその時、後ろに気配を感じた。
俺は怖がりながらも後ろを向くとそこには
箱があった。
箱。探していた箱があった。
すぐさまその箱へ向かい手に取る。
真っ黒な箱だった、少し高級感のある箱だ。
開けるとそこには、紙とペンが入っていた。
「なんだこれ…?」
紙には、
『君の思い描くキャラクターを書いてね!』
と下手な字で書いてあった。
「思い描く…キャラクター…?」
疑問を抱きつつも俺は適当に棒人間の絵を描くことにした。
棒人間、人間の形を簡略化した物。その描きやすさから広く一般的に図などに使われる事が多い。
という説明をしておいてなんだが、何も起きない。
「何かあるかと思ったら…なんだ、ただのいたずらか?」
と、軽い冗談をしたその瞬間、俺の視界は暗転した。
再び目を覚ますと、俺は森の中で仰向けになって寝ていた。
もう何が何だか分からない。
学校に居たかと思ったら今度は森の中という、酷くトリッキーな展開は誰が予想しただろうか。
起き上がる、手足を確認、五体満足。
しかしここで最大の疑問が浮かび上がる。
何か俺の身体、棒じゃないか?
まさかあの紙…いや、違う、認めたくない、多分アレだ、一瞬にして痩せてそこに全身タイツをされただけなんだ、多分。
そして良い所に目の前に湖があった。それで確認しよう。
しかし、結果というものは世知辛い物だった。
水面に映っていたのは、正しく棒人間だったのだ。
失踪しないように、頑張るゾ〜