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転生ヒロインセシルちゃん


「パウラ様。ヴィルベルト殿下より招待状をお預かりしております。」


その一声でパウラは微睡みから現実に引き戻される。


「…ヴィルベルト殿下?」


「はい。第1王子のヴィルベルト殿下でございます。」


「会ったことないけど、王子様がいたんだね。…会ったことないよね?」


「えぇ。3人いらっしゃいます。王妃殿下にはお会いしましたが、王子殿下方にはお会いしていませんよ。」


王妃殿下に会っていたという事実にパウラは口をあんぐりと開けた。


「い、いつ王妃様とあったの…?」


「以前中庭でお話をされた方です。」


「あの人か!マジか、話の長い人だとは思ったけどまさか王妃とは…。改めて聞くけど王子には会うのはおろか、すれ違ってもないよね??」


「えぇ、王子殿下方には少しの接触もしていません。」


「そっか、不敬罪とか言われたら怖いし…。意図せず出会わなくてよかったけど、2週間以上同じ場所に住んでるのにすれ違いすらしないって、流石城って感じだねぇ。」


城の広さにパウラが感心していると、パトリックが首を傾げた。


「それはそうでしょう。殿下方には、パウラ様に接触しないよう陛下より命が下っていましたので。」


衝撃的な言葉にパウラはショックを受ける。


「え?…なんで?」


「数千の兵を倒す力があるパウラ様ですから。万が一を考えても、多少信頼が置けるまではお会いさせられないでしょう。」


「…まあそりゃそうだ。」


しょんぼりと膝を抱えるパウラにパトリックは苦笑する。


「いいではありませんか。こうしてランベルト殿下より招待状を頂けたということは、接触禁止令は解除されたということですよ。」


「そ、そっか!」


パウラの表情が一気にパァっと明るくなった。

パトリックはそのパウラの表情に固まる。


「それでなんの招待状なの?」


「……………。」


尋ねても返事がなく、パトリックはパウラを凝視している。


「あのー、パトリック?」


その言葉に突然弾かれたかのように瞬きをする。


「……あ、すみません。何でしょうか?」


「えぇ…。まぁいいか。それでなんの招待状?」


「はい、ヴィルベルト殿下の生誕を祝う舞踏会でございます。」


舞踏会という言葉に今度はパウラが固まった。


「ぶ、舞踏会って私の記憶違いじゃなきゃ、踊るやつだよね。」


「そうでございますね。」


ふるふると真っ青な顔でパウラは首を振る。


「私踊れないよ…。」


この意味連のやり取りだけなら可愛らしい少女なのだが、この言葉の後にパウラはそっと斧を抱え、台無しになった。


「何故斧を持っていらっしゃるのです?」


パトリックが眉間に皺を寄せる。


「いや、例え何があろうと踊らないという意思表示だよ。」


斧刃をさするパウラは最早狩人か何かに見える。


「パウラ様は踊る必要はございませんよ?」


「へ?そうなの?」


「とりあえず、ヴィルヘルム殿下に挨拶をなさった後は、来賓席に座っていれば良いと陛下が仰っていました。少しずつ催しには慣れていけば良いとも。」


「じゃあいつかは踊るの…?」


「そうなるかもしれませんね。」


にこりと蠱惑的な笑顔をうかべるパトリックを見る。

まだそれが蠱惑的なのか天真爛漫なのかそう言った細かい違いはわからないが、ここ最近人と接してきたパウラには、それが笑顔なのか怒っている顔なのか等、大雑把な区別がつくようになっていた。


「今笑ってるでしょ?」


「えぇ、笑っていますが?」


「よっしゃ!表情区別出来るようになった!」


「………。舞踏会での人間違いにはくれぐれもお気を付けください。」


「色で覚える方法が中々良くて、最近は間違えてないよー!それに、パトリックの顔は覚えつつあるから、フフン。」


そう得意気に話すパウラだが、2週間以上ほとんどの時間顔を合わせている相手の顔をまだ覚えつつある状況というのもなかなかである。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




舞踏会当日。


本日のパウラの服装は比較的大人しめ且つ動きやすそうなドレスに杖を持っている。

いつも手元にある斧が今日はない。


実をいえば、斧を持ち込む持ち込まないでパトリックとパウラで一悶着あったのだが、結果的にパトリックが折れ、絶対に他の人にはバレないようにと念押しをし、仕込み杖を持っているのだ。


そして今パウラの目の前に今回の主役であるヴィルベルト殿下がいる。


金の美しい髪を女性のように長く伸ばし、湖を思わせる碧眼を持つ、端正な顔立ちの男。

しかし、男らしいと言うよりは中性的な顔立ちにも関わらず、その背はスラリと高い。


「初めまして、ヴィルベルト殿下。パウラと申します。この度はおめでとうございます。」


ヴィルベルトはありがとうと優雅に微笑む。

誕生日とは言っても25の誕生日なので、そのパーティも本当に誕生日を祝うと言うよりは、社交の場として開かれている節が大きい。


「君がパウラちゃんか。父から話は聞いていたが、まさかこんなにも可憐な女の子だなんて思わなかったよ。」


そう言って流れるようにパウラの手の甲に口付けを落とした。

パウラも流れるように空いている手で仕込み杖を構えようとしたが、後ろで控えていたパトリックがさっとその杖を押さえる。


「それじゃあ舞踏会、楽しんでね。」


パチリとウィンクをしてヴィルベルトは他の貴族の元へ向かっていった。

いや、貴族の元というか、御令嬢の元というか……。


「あれが未来の国王………。」


パトリックにしか聞こえないような声でパウラはボソリと遠い目をして呟く。


「やる時はやるお方ですので心配はないかと。」


「いや、うん、世継ぎには困らなそうだね。」


ヒソヒソ声で下らない会話をした後、パウラは来賓席に向かおうとした。

すると、パウラは以前見た事のある髪色の人間を見つけた。


「パウラ!」


視線に気づいたのか、その人物は振り返るとパウラの名を読んだ。


「お久しぶりです。ヨハン様?」


疑問符がついてしまうのは見逃してあげて欲しい。

知り合いが多くなるほどにパウラは努力しているのだから。


「あれ以来だもんな。それにしても何だかあの時とは雰囲気がガラリと違うんだな。」


パウラを下から上へと眺め、ヨハンは首を傾げる。


「斧がないからですかねぇ。」


パウラも首を傾げてそう口にすると、ヨハンはそれだ!とスッキリした表情で言った。


「まさかパウラも来てるとは思わなかったよ、会えて凄く嬉しい!」


飛び切りの笑顔でそう言うヨハンに、パウラは頬を痙攣させる。


(すごい友好関係のスピードが早い人だな…。もう呼び捨てされてるよ、びっくりだよ。)


「色々と話したいことがあるんだ!」


「と、言いますと…?」


「勿論戦術や鍛錬についてだよ!本当はすぐにでも語り合いたかったんだけど、学園があるからそうもいかなくて……。本当に今日会えて良かった!」


(め、面倒くさそうだな!!)


どうにか逃げる言い訳を探したくて視線をさまよわせるパウラだが、まずほぼ知り合いがいない状況で助け舟を出してくれるものなどおらず、パトリックも使用人の列に戻ってしまっていた。


そしてそこから30分ヨハンによる戦術談義を聞かされ続けすっかり憔悴した所に少し寂しげなヨハンの声が聞こえた。


「親父が生きていたら…、きっとパウラを気に入っただろうな。」


先月病死した元騎士団長マリウスをパウラは思い出す。


「………………。」


「…悪いな折角の舞踏会でこんな。」


「よしよし。」


顔を歪めながら泣くまいと耐えるヨハンの頭をパウラはつま先立ちしつつ撫でた。

撫でられたヨハンは少し苦笑する。


「やめてくれよ、子供みたいに。」


「…おいくつですか?」


「17だけど。」


「なんだ、子供じゃないですか。」


そう言うとパウラは再びヨハンを撫でようとつま先立ちをしたが、その手はヨハンに掴まれる。


「成人してる男に向かって子供って…。それに、それを言うならパウラだって子供だろ?」


「見た目以上に歳とってますよ。」


「いくつだ?」


「うーん、私もよくわかりません。」


パウラはヨハンに掴まれた手を解こうとするが、ヨハンは解かない。

しかしこれ以上力を入れれば、ヨハンが舞踏会の空を舞うことになるので、パウラは我慢する。


「あの、そろそろ離して貰えますかね…?」


「…子供扱いしないなら離すよ。」


「分かりましたよ。」


パウラがそう返事をするとヨハンはぱっと手を離す。

するとパウラの背後から声がかかった。


「貴方、誰ですか?」


声のする方を振り返ると、ピンク色ふんわりした髪をセミロングにして、桃色の瞳を持った可愛らしい少女がいた。


「え、と、パウラです。どうも。」


「パウラ?そんなキャラ出てきてないはず…。もしかして貴方!!」


「セシル、声が大きいぞ。一体どうしたんだ?」


「…お知り合いですか?」


急に大声を出され怪訝な顔をするパウラにヨハンは申し訳なさそうな顔をした。


「あぁ、俺が通ってる学園の友人だ。普段はこんなんじゃないんだが。」


セシルはその言葉に少し冷静さを取り戻したのか、1つ深呼吸をした。


「パウラ様でしたね。少し話があります。着いてきてくれませんか?」


「お話があるならここで聞きますが。」


その返事にセシルは一瞬目元を痙攣させる。

そして問答無用にパウラの腕を引っ張っていった。

パウラの力なら抵抗出来ない訳じゃないが、それをすると、今度はセシルが舞踏会の空を舞ってしまう。


ヨハンも慌ててついてくる。


「ヨハン様。パウラ様と2人きりでお話したいのです。お願い出来ないでしょうか…?」


セシルが瞳をうるっとさせていえば、少し考え込むようにしたあとわかったと返事をするのだから、美少女は羨ましい限りだ。


人気のない所まで辿り着き、セシルはパウラの腕を離す。


「貴方、転生者ね?」


「いや、転移者です。」


さっきまでの可憐な敬語の乙女はどこへやら、セシルは高慢な口振りで話し始めた。


「転移?まぁいいわなんでも、だってこの世界の主人公は私!ヨハンもヴィルベルトもローベルトもユリウスもレイナウトもパトリックも!全部私のモノなの!だから邪魔しないで!!」


(2、3人知り合いがいる気がする……。)


「…貴方は転生者なんですね、羨ましいです。こんな快適に過ごせる世界に転生したなんて。良かったら日本について語り合いませんか?もうあんまり覚えてないですが。」


「は?嫌よ。私は彼らを攻略するのに忙しいの。思い出話なら1人でして。…あぁ、後。もし貴方が彼らの誰かに恋をしても、無理よ。諦めてちょうだい。だって彼らは絶対私に恋をするんですもの。」


ドヤ顔で口の端だけつり上げる彼女は、折角の美少女の顔面を台無しにしている気がする。


「何言ってるのかわからないのですが、帰っていいでーーー」


話が通じないことが分かり、パウラが帰ろうとすると茂みからパトリックが現れる。


「こんな所にいらっしゃいましたか。」


パトリックの登場に待ってましたとばかりに笑みを浮かべているのは、パウラではなくセシルだった。



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