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パトリックside


グラキエース王国とフランメ王国の例年の小競り合いは今年で終止符が打たれるはずだった。

グラキエース王国の敗北として。


何故ならグラキエース王国最強の騎士団長マリウスが先月病死した為、グラキエース王国の戦力はガタ落ちしたからだ。

たった一人の騎士が亡くなるだけで国としての力が落ちるほど、マリウスという男の力は絶大だった。

マリウスがいる為にフランメ王国はグラキエース王国を攻めあぐねていたのだから。


そもそも、グラキエース王国とフランメ王国は仲が悪かった訳では無い。

10年前フランメ王国で先代の国王と王妃が弟に殺される事件が起きた。

王弟は貴族派閥と手を組んでおり、国王の地位にいとも簡単についたのだった。

だが、先代国王には2人の子供がいた。

子供を使って反旗を翻すことも王族派閥としては可能であったのだが、長女は当時18歳、王位を告げる歳ではあったが、代々男が継いできた王位を非力な女に継がせようとする王族派閥はいなかった。

そして長男である息子はまだ当時13歳。

フランメ王国では王位を告げるのは15からなので、彼を国王にすることも王族派閥は出来なかった。


それに何より、フランメ王国現国王はその子供達を散り散りにし、姉を人質に弟を他国の間者にするために飛ばしたのだから。

だが、子供達が処刑されなかったことを考えると、王族派閥も頑張ったのではないかと思われる。


そして、マリウスの病死。

それはフランメ王国がグラキエース王国に攻め入る最大の好機だった。

この好機を作る為、フランメ王国はマリウスの側近にスパイを送り込んだくらいだ。

そして毎日微量の毒をマリウスに摂取させ、病死という結果で彼の人生を終わらせたのだ。

フランメ王国がグラキエース王国を乗っ取る算段は出来上がっていた。


しかし、実際の結果は違った。


突如現れた1人の少女が、フランメ王国が偵察という名の先制に送った数千という兵を全て倒したのだ。

その結果を受け、フランメ王国は兵を引き上げ体制を整えるべく自国へと引き返した。


そして、様子がおかしい事に気づいたグラキエース王国の兵と無理矢理について行った国王が偵察に行き、彼女を連れ王国に戻ったのだ。



最初に彼女の姿を見た時、よく腰を抜かさずにいられたと思う。

彼女が纏っていた服は返り血で真っ赤に染まり、唯一肌が見えている顔すらも、元の肌の色がわからないくらい血で赤く染っていた。

背負っている斧も赤く、服や斧に所々肉塊が着いていた。…悪魔か獣か、とても人には見えなかった。

城にいた誰もが驚きそして恐怖に包まれた。

彼女の姿を見て泣き始めた者は多く、吐いてしまった者もいた。

そしてそんな少女を平然と抱きかかえ馬に乗っているグラキエース国王を私は流石だと感心した。


私は彼女及び国王陛下一行を案内する。

こんな若輩者が何故そんなことをしているかと言えば、怯えてしまい使えそうな使用人がいなかったからだ。


彼女の身なりを何とかするため、客間へと通す。

メイド達は怯え切っしまっていたが、それでもなんとか仕事をこなしたようで、食堂を訪れた彼女の身なりはちゃんとした人間のものになっていた。


彼女が身なりを整えている間に私は国王に呼ばれ、そこで彼女付きの執事に任命される旨とそこでの仕事を言い渡される。


まず1つ、彼女との信頼関係を結ぶこと。

そして2つ、しばらくしたら彼女の出自や何故あの戦場にいたのかを聞き出すという事だ。


そして、国王との食事を終え、彼女の部屋で彼女の存在価値についての説明をした。


彼女はすぐに内通者の件に気づき、まるで何もかも見透かしているかのように私に言ったのだ。


「なら深追いはしませんよ。ね?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それから数日が経っても特に変わったことは何一つ無かった。

こちらが好印象を持たせようと、自分の見目の良さを活用し、どれだけ微笑んでもパウラ様は表情の1つも動かさなかった。


そしてある日パウラ様は私を無理矢理部屋に連れていった。

正直その時は蜜事でもご所望なのかと思っていた。

自分の見目の良さから貴族の御令嬢や貴婦人から言い寄られることも多々あったからだ。

まぁ、その時どうしたかについてはご想像にお任せします。


しかし、パウラ様は私を部屋に連れていくなり、ただ顔を凝視する。

どうしたかと問えば、顔を覚えたいなどと言った。


最近同僚から「パウラ様がパトリックさんと私達を間違えることがよくある」という話を聞いていたことを思い出す。


…蜜事どころか顔すら覚えられていなかったとは、勘違いも甚だしい。


そしてその後綴られた彼女の言葉は耳を疑うような言葉だった。


顔の識別が出来ない。


生まれつき顔の識別が出来ないという人間を医学の書で読んだことがある。

だが実際に身近にいるとなると驚きが隠せない。


気分を害さないよう、慎重に確認すると彼女は少し焦ったようにこう言った。


「心配しなくても大丈夫です!以前は見分けついてたので!殺し過ぎてちょっとよくわかんなくなってるだけだと思うので!」


殺し過ぎて?


数千の兵を先日殺した彼女だが、その口振りからはその先日の件のことを言っているとは思えない。

一体どれだけの人数を殺したと言っているのか。


考えれば考える程、聞いてはいけない言葉だったと思わされ、その言葉を華麗にスルーした。


そして髪色や瞳の色で識別する方法を提案する。

眼鏡越しとはいえ、瞳を覗き込まれるのはなんだか落ち着かない。


しかも私達の顔がどう見えているのか尋ねたら「馬の顔」と表現された。

嫉妬されることはあれど馬の顔と表現されたのは初めてで、かなりのショックを受けた。


だが、その話を聞き、ここ数日自分の顔を使って媚を売っていたのが効かなかった理由がよくわかり少しだけスッキリとした。


そして、女性受けする笑顔を浮かべても無駄だとわかった私はボディタッチを増やし好感を上げようと決めた。

勿論笑顔も振り撒いては行こうと思うが。


その後顔の識別の件を国王に伝える。

勿論あの恐ろしい理由も込だ。


すると騎士団の訓練所にて彼女の戦力の再確認を行いたいと話された。

ただ戦力を知りたい率直にいえば、品定めをしたいのだと取られ、パウラ様が気分を害す可能性もある。

そう、つまり、陛下は彼女が訓練所での鍛錬を望むように仕向けなさい、という命を下したのだ。


それから数日、パウラ様が暇を持て余すよう画策した。


そして遂にパウラ様がこう言った。


「パトリック…。暇だね…。」


待ちに待った言葉だが、ここで訓練所とは口にしない。

先にパウラ様の好まれない中庭を提案する。


2日前、中庭に王妃殿下がおり、長々と話に付き合わされて以来、あそこでは昼寝が出来ないとパウラ様は中庭に行きたがらない。

最もパウラ様が王妃殿下を王妃殿下と認識しているかはわからないが。


そして予想通り、中庭には行きたがらないパウラ様に訓練所を提案した。


許可が出ていることを教えると、パウラ様はその黒い瞳をキラキラと輝かせるのだった。




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