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19/22

おネエさんライネ


「いやぁ、ごちそうさまでした!」


パウラはエドガール宅のソファでくつろぎながら満足気な声を出す。


「あぁ、こちらとしても村人の疑惑を解けてよかったよ。」


紅茶の用意をして、パウラがいるソファまでエドガールは戻り向かいのソファに座った。


「そういえばエドガールさんって、仕事してるんですか?」


パウラは素朴な疑問を口にする。

それもそのはず、授業は週末とはいえ、エドガールからは働いている人の雰囲気はない。

以前国王をやっていた時の方が仕事人の雰囲気が出ていた。


「いや、当分は遊んで暮らせるくらいの金は持ってきていたから、今は特に仕事はしていない。」


「遊び人ですか。」


「お前も同じだろうが。」


頭を掻きながら、エドガールは呆れたように笑う。


「いえ、私はグラキエースが攻め込まれたら護衛するという任務があるので。」


ふふんと胸を張るパウラにエドガールは深いため息をついた。

心底パウラは阿呆だと思われているのだろう。


「攻め込まれるなんて、フランメが敵対しなくなった今ほとんどないだろうが。」


とは言っても、パウラの知力(ステータス)は高い。

頭は悪くないのだが、どうにも阿呆っぽく振舞ってしまうのは性格のせいだろう。


「まあまあ。でも私はともかく、エドガールさんは村の世間体ちょっとやばくないですか?」


周囲に誰かいる訳でもないが、パウラは声を潜めた。


「…住んでいる家も周りに比べていいものだからな。貴族の者だと思われている。」


「でしょうね。仕事探す気ないんですか?」


「…学び舎にツテがあってな。少ししたらそこで教師をやる予定でいる。」


「へぇ、先生ですか。向いてると思いますよ。特に説教とか。」


「おい。」


ギロりとエドガールはパウラを睨む。

パウラはそっぽを向いてそれを躱すと、話を変えるように人差し指をたてた。


「あ、そしたら、この授業も終了ですか?」


そう言うパウラの瞳には期待の色が爛々と輝いている。


「週末はこちらに戻ってくるつもりだ。」


「戻る?住み込みなんですか?」


「あぁ、生徒も教師も寮住まいでな。」


「え、じゃあもうこの家住まないんですか?」


なら授業やっぱり終わりじゃんとパウラが内心うきうきしていると、その期待を簡単にエドガールが打ち消した。


「お前の授業もあるから、引き払うつもりはないぞ。」


うえっと言う顔を表に出さないよう努めながら、パウラは口を開く。


「授業なんて終わりでいいですよ。お礼がしたいとか言われて適当に答えただけなんで。大体の常識は身についた気がしますし。」


「は?礼儀作法についてはまだ始めてすらいないだろ。」


「………。」


「おい、目を背けるな。」


目を背けたパウラにエドガールの厳しい声が飛んだ。


「いやまあとりあえず。私の事は気にしなくていいって伝えたかったんです。それで、いつからなんです?」


「アエスタースの始まりだ。」


この世界では月を、その季節の始まり、中頃、終わりと呼んでいる。

一月の単位は日本とおなじ、30日弱だ。


3.4.5月を春の意のヴェール。

6.7.8月を夏の意のアエスタース。

9.10.11月を秋の意のアウトゥムヌス。

12.1.2月を冬の意のオースィニ、と呼んでいる。


アエスタースの始まりであれば、6月の最初の頃で、ちなみに今はヴェールの終わりだ。


「一月後じゃないですか!」


「急な話だが、2日前に決まったばかりでな。」


へぇ、と驚きの声を出しつつパウラはうんうんと頷いた。


「そうだったんですか。頑張って下さいね、まだ一月ありますが。」


「言われなくとも仕事はこなす。」


ははっとパウラは苦笑し、ソファから立ち上がる。

内心パウラがふかふかのソファをかなり名残惜しがっていたのはここだけの秘密だ。


「それじゃ帰りますね、失礼しまーーー」


別れの言葉を告げ、玄関へと向かうとパウラが開くよりも前に玄関の扉が開いた。


「エドガール、お邪魔するわね。」


そう言って中に入ってきたのは、妖しい雰囲気の美女。

艶やかで色っぽくその美女は微笑む。


「…なにしに来たんだ一体。」


その姿を認識した途端、エドガールは嫌そうな顔を隠しもせず顕にした。


「つれないわねぇ。恋人との久しぶりの対面なんだからもっと喜びなさいよ。」


「誰が恋人だ。」


「あ、恋人さんですか!こんにちは。」


ぺこりとパウラは頭を下げる。

その言葉にエドガールは顔を顰めさせ、語気を強くして言い放った。


「違うに決まってるだろっ。」


「あらぁ、可愛い女の子連れ込んじゃって、妬いちゃうわよ。」


美女はそんなエドガールにはお構い無しで、続けていく。


「ハハ、違いますよ。」


「おい俺の話を聞け。」


まるでパウラと美女の2人だけしかいないかのように進む話に、エドガールは苛立たし気な表情を見せた。


「お姉さん、もう私は帰りますのでエドガールさんを好きにしていいですよ。」


パウラは親指を立て、片目を瞑りウィンクをする。


「良くない。」


「あらあら、お姉さんだなんて嬉しいわ!」


きゃっと美女は頬に手を添えた。

その様もかなり可愛らしいのだが、残念なことにパウラにはわかり兼ねる。

そして首をかしげた、


「あれ?お姉さんじゃありませんでしたか?エドガールさんの恋人なら、まだそこまでの年齢じゃないかと思いましたが…。」


「ううん。見た目はまだまだ若いわよ。」


そう言って美女はにやりと妖しい笑みを浮かべた。


「私、男なの。」


「あ、そうでしたか。…でも身につけてるものは女物ですよね?」


(女と男間違えちゃったかぁ…。)


さすがにこれは駄目な間違いかなと自分を叱責するパウラに、美女…美男…おネエさんは残念そうな顔をした。


「反応がうっすいわね…!女装よ女装。でもわからないでしょ?ほら私、顔が美しいから。」


「ごめんなさい。私顔よくわかんないんです。」


「あら、目が悪いの?医者に行った方がいいわ。」


自分の美貌をわからないの一言で片付けられたおネエさんは、少しむくれながら医者を勧めてきた。


「いや、目は良いんですけど、認識能力がなくって…。」


「…どういうことだ?」


それまで諦めて紅茶を飲んでいたエドガールが口を挟む。


「言ってませんでしたっけ?私、顔の認識が出来ないんです。」


「顔の認識が…。」


怪訝な顔をしながら、おネエさんは呟いた。

その後顎をさすりながら、おネエさんは黙る。


「初耳だな。じゃあどうやって私を認識してるんだ?」


「髪の色と目の色です。そうすればいいとパトリックに言われて。あと、髪の色と目の色が同色の人物はどうにか少し顔を覚えてます。」


「…そうか。生まれつきか?」


不憫そうな瞳でエドガールはパウラを見る。

その瞳にデジャヴを覚え、パウラは口を開いた。


「それパトリックにも聞かれましたが、違います。ちょっと色々あってこうなったんですが、時間が経てば治ると思います。」


「どのくらいだ?」


「さぁ、わかりません。でも、最近よく会う人の顔はなんだか覚え始めましたし、顔のパーツパーツの美醜とかもぼんやり分かるようになりましたので、2、3年もしないうちに治るんじゃないですかね?」


「早く治るといいな。」


パウラはその言葉に苦笑すると、おネエさんが恐る恐ると言った様子で口を開いた。


「…ねぇ、あなたもしかして名前はパウラ?」


「…そうですけど、何故ご存知で?」


名乗ってはいないはずだがとパウラは首を傾げる。


「グラキエース国王に話を聞いててね。…ところでなんでこの子があなたの家にいるの?どういうこと?」


今までパウラに向けていた瞳を、エドガールへと移す。


「手紙に書いたろ、死んだことになってるが助けられたって。」


「フランメの貴族の誰かだと思ってたわよ!」


紛らわしい書き方をするなとおネエさんは先程の艶やかな声とは全く違う低い声で苛立たし気にエドガールに言った。


「別に誰に助けられても問題ないだろう。」


そんなもの気にもとめず、エドガールは紅茶を啜る。


「まさか、グラキエース国側に裏切り者がいるなんて…。」


「え!?裏切り者!?そういう扱いになるんですか私!?」


その言葉に過剰反応したのは誰でもないパウラだ。

目を見開き、口もぽかんと開けていた。


「そりゃ、殺すはずの国王を逃がしたならそうなるでしょ。」


「ええぇ!!ちょ、エドガールさん、私裏切り者になっちゃいますよ!」


驚愕の表情でエドガールを見るパウラに、エドガールは呆れたような声を出した。


「そんなことも知らずに助けたのか。」


「バレたらちょっと怒られるかなーとは思ってましたけど、まさかの裏切り者って…。あ、でも、襲ってきたらグラキエースとて敵ですもんね 。は、はは。」


パウラの狂ったような笑みにエドガールは顔を引き攣らせる。


「おい、何考えてんだ。」


「まあまあまあ!秘密にしておけばいいのよ!」


おネエさんのその一言でパウラは冷静さを取り戻した。


「そ、そうですよね…!…それで、なんでお姉さ、お兄さんはグラキエース国王から話を?」


そういえばと疑問に感じたことをパウラは口にした。

するとおネエさんは口元に指をあて、申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「あらごめんなさい、まだ名乗ってもなかったわね。私はストレーガ魔法学園、理事長兼学園長のライネよ。」


「ほぉ、魔法学園の。」


「えぇ、ローベルト殿下があなたを魔法学園に入学させたいと言い出してね。それでちょうど今日私が陛下に呼ばれたってわけよ。」


「ちょちょ、ちょっと待ってください!え?なんて?入学?私が?魔法学園に?」


2度目の衝撃的事実にパウラは目を見開いた、


「パウラ、落ち着け。」


「そうよ。まだフランメの件が落ち着いていないから、入学するのは一月後くらいになると思うけど。城に帰ったら伝えられるんじゃないかしら?」


「くく、そうか、つまり、私と共に魔法学園の行くのか。」


一月後という言葉にエドガールは笑いを漏らす。


「は?何言って、まさか!」


「あぁ、私が教師として行く学び舎はストレーガ魔法学園だ。」


にやりと悪い笑みを浮かべたエドガールはそのまま言葉を続けた。


「良かったな、授業も何も気兼ねなく続けられそうだぞ。」


授業を続けられるという言葉と魔法学園に入学するというダブルパンチで、パウラは頭を抱え叫んだ。


「いやぁぁあ。てか!グラキエースの王子が通ってる場所なんて顔バレしてるでしょ!私も裏切り者になりたくないんでやめてくださいよ!」


エドガールに指をさして喚くと、おネエさんは優雅に髪を払った。


「そこは安心してちょうだい。変装魔法に関してはエドガールは私を超えてるから。」


「という訳だ。観念するんだな。」


顔が引き攣るのを感じながら、パウラはこめかみを押す。


「…いやしかし、私が通わないと言えばいい話ですよね。」


「まあそれはそうよね。でもほとんど確定じゃないかしら?暇そうだから、無理にでも行かせた方がいいかもしれないって陛下が言ってたもの。」


これはもう強制入学されそうな気がするとパウラは内心思いつつ、悲痛な叫び声を上げた。



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