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王子殿下のお悩み


「自分の足で歩くので下ろしてください。」


パウラが嫌そうにヨハンを睨む。


(殺されないのはわかってるけど、危機感がなぁ…。)


周囲の目や羞恥心ではなく、ただただ危機感から解放されたいパウラは、吹っ飛ばさないよう気をつけながら身をよじる。


「ヨハン、歩くと言っているんだ。下ろしてやれ。」


いい加減にしろと説教顔のローベルトにはいはいとヨハンはパウラを下ろした。


(はぁ、帰りたい、嫌だなぁ、帰りたい、眠りたい。)


何故お話会に付き合わねばならないのか、パウラの頭の中はそれだけだ。


4人が談話室に着く。

談話室には二人がけのソファが対面式に2つ置いてあり、真ん中にテーブルが置いてあった。

暗黙の了解でヨハンとローベルト、パウラとセシルの席割りで座ろうとすると、ささっとセシルがヨハンの隣に腰掛けた。

となると、必然的にローベルトとパウラの席割りになる。

思うところはそれぞれあるだろうが、それを口にするのも憚られ、何も言わず席に座った。


そこから戦術だったり、先日の件だったり、パウラがうっかり欠伸をしそうになりそうな他愛のない話が続く。


「ローベルト様。」


今までうんうんと相槌を打っていたセシルがにこりとローベルトに微笑みかけた。


「どうした?」


「宜しければ、パウラ様とお二人で話してきてはいかがですか?」


その提案にローベルトだけでなくヨハンも怪訝な顔をする。

パウラだけは閉じそうな瞼を必死に開くことに集中していた。


「……何故だ?」


「いえ、パウラ様はグラキエース王国にとってとても有用な方。1度お2人で話されても良いかと思ったのですが…。」


かなりゴリ押しな感じの言い訳だが、セシルがうるうると涙目で上目遣いをすれば、ローベルトはわかりやすくその態度に狼狽える。


「い、いや、責めたわけでは…。分かった、パウラ、テラスで話をしよう。」


そう言ってエスコートをしようとローベルトは手を差し出した。


「ぁあ、はい。」


(眠気をどうにか、しないと…なぁ。)


パウラはその手を取りよろよろと立ち上がる。

手を取るパウラにヨハンは一瞬だけ眉をひそめた。

しかし、何故自分が眉をひそめたのかヨハンは分からない。


そしてパウラとローベルトがテラスへと向かう。

テラスから談話室は丸見えで、その逆も然りだ。


「…話、と言われても困るものだな。」


テラスにつき、開口一番にローベルトはそう苦笑した。


「確かに。…それよりここ心地がいいですね。」


涼しい風で眠気が薄れたパウラは、うーんと伸びをする。


「眠気が覚めました。」


「眠かったのか?」


「…他愛のない話は眠くなりませんか?」


「つまらないとは思うが、眠くはならない。」


その言葉にパウラはふっと吹き出した。


「これは意外ですね。殿下でも他愛のない話はつまりませんか。」


「…あ、いや、それは、そう、なのだが。」


失言だったと、ローベルトは視線をさまよわす。


「別に誰にも言いませんよ。まあ、殿下も人間ですものね。」


「…だが、私は、そういう訳にはいかないからな。」


「何故です?」


「俺が…私が王子だからだ。常に周りの理想、そして憧れでなくてはならない。」


パウラは自分の顎をさすり、ふむと呟いた。

乙女ゲーム的にはこういった悩みは王子様あるあるだが、そんなことパウラが知る由もない。


「少なくともヴィルベルト殿下はそのようには見受けられませんでしたけど。」


「兄上は、あれでいいんだ。おちゃらけて見えて、やる時はやれる。私は兄上には敵わない。だからこそ民の憧れるようなーーー」


苦しそうに吐露するローベルトにパウラは首を傾げた。


「え、泣いてます?それとも怒ってます?何故?」


「…いや、泣いていないし、怒ってもいないが。」


「それなんて言う表情ですか?」


細かな違いがわからないパウラにとって、是非教えて貰いたい事かもしれない。

しかし空気を読む読まないの点においては赤点どころかマイナス点だ。


「どんな、と言われても。自分がどんな表情をしていたかなんて…。」


「じゃあ、今どんな気持ちですか?負の感情であることは分かるんですけど。」


「…強いて言うなら、苦しい、だろうか。」


ほぉ、と声を漏らし、パウラは数度頷いた。


「わかりました、ありがとうございます。それじゃあ話を戻しましょう。どうぞ。」


「は?いや、戻すなんて。」


「憧れるような存在になりたい的な話でしたよね。…あれ?なんでその話が苦しいに繋がるんですか?どちらかと言うと楽しそうにする話だと思うんですが。」


すっかりパウラのペースに巻き込まれ、先程までの苦しい気持ちも飛んでしまったローベルトは苦笑してしまう。


「中々の重圧なんだよ。期待に応えるって言うのは。」


「馬鹿ですねぇ。期待なんてものは応えようとするだけ無意味ですって。」


「そんな訳ないだろう。素晴らしい王子になるに越したことはない。」


「いやいや、それは是非なってくださいって話なんですけど。ローベルト殿下の目標は期待に応える事ではないでしょう?素晴らしい王子になることなんですよね?」


その言葉にローベルトは目を見開いた。


「期待なんて勝手にさせとけばいいんですよ。ローベルト殿下は、ただ、貴方のなりたい素晴らしい王子を目指せば良いと思います。そして貴方の夢が叶ったその時、期待に応えたという副産物がついてきますから。」


ローベルトの見開かれた瞳が数度瞬き、ローベルトはハハッと笑い出す。


「ハハハ、確かに!その通りだな。俺は一体何を悩んでたのか…!アハハッ!」


お腹を抱えて笑い出したローベルトを見てパウラは困惑した。


(なんで急に笑いだしたんだ??)


「えっと、とりあえず私は応援しますよ。ローベルト殿下のこと。」


「ローベルトだ。」


「はい?」


「殿下はいらない。ローベルトと、そう呼んでくれ。」


優しく甘い瞳でローベルトはパウラを見つめる。

パウラにそれが理解出来る日が来るのかは分からないが。


「ローベルト、ですか。大丈夫ですか?不敬になりません?」


「ならないよ。俺がそう望んでるんだ。」


「…分かりました。それにしてもローベルトは『私』より『俺』の方が合ってる気がしますよ。」


「あぁ、元々俺の方が素だったんだが、周りの目がな。まあ、もう気にするつもりは無いが。…・それより、名前が呼び捨てなのに敬語は何だか変じゃないか?」


「タメ口ですか…?」


「勿論だ。」


パウラは唸りながら頭を掻く。

そして腹を決めたように、口を開いた。


「わかったわかった。タメ口にするよ。」


満足気な表情で微笑むローベルトは、ふっと談話室に視線を向けた。

そして硬直する。

固まるローベルトを見てどうしたのかとパウラが談話室を振り返った。


そこにはヨハンをソファに押し倒す形でキスをしているセシルがいた。


「わぁお、お熱い。若いってすごいなぁ。」


パウラが率直な感想を口にすると、ローベルトは顔を耳まで真っ赤にしてパウラの顔を見た。


「いや、あ、き、キスを、あんな、ところで…!」


(さてはこいつ童貞だな。)


というパウラも同じようなものだが、死にゲーの世界で事を致す人間(NPC)や、真っ裸の敵という不法地帯を経験しているパウラに恥ずかしがる純情は1mmも残っていない。


「まあまあ、落ち着いて。…でもそろそろ肌寒いのに部屋に戻りづらいね。」


「も、戻りづらいというか、落ち着くまで戻れないだろ。」


恥ずかしそうに目を逸らし、ローベルトは早口にそう言う。


「でもそろそろ私も帰りたいからなぁ。…あ、良いこと思いついた。よっと。」


パウラは掛け声と共にローベルトを抱きかかえる。

先程、ヨハンがパウラにやったのと同じ。

お姫様抱っこだ。


「おい!流石にこれは!下ろせ!」


「すぐ下ろすって!」


言いながらパウラはテラスの手すりに足をかける。


「パウラ!何をする気だ!?ここは三階だぞ!?妙な気をーーーー」


ローベルトが言い終わらないうちにパウラはぴょんと手すりを飛び越えた。


「やめろぉぉぉぉおおおお!」


「今更無理。」


そしてそのまま、テラスの下、魔法学園の中庭に落ちる。


ストン


予想より遥かに軽い音に、ローベルトは固く閉じていた瞼を開いた。


「……助かった?」


「いやいやいや、死なないってわかってるからやったんだよ。無謀なことはしないって。」


ローベルトをそっと近くのベンチに下ろしながら、パウラは否定する。


「それでローベルト。道が全くわからないから、馬車が待機してる所まで連れてって欲しいんだけど。」


「あ、あぁ。ちょっと待て。」


「?」


ベンチから動こうとしないローベルトの様子に首を傾げたパウラだったが、すぐにぽんと手を打った。


「腰抜けちゃったか。」


その言葉にローベルトは赤面する。

恥ずかしいという気持ちは同じだが、さっきとは大分異なる意の赤面だ。


「ぅるさいっ!!」



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