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転生ヒロインの苦悩 セシルside


4歳の頃、私は唐突に前世の記憶を思い出した。

頭がパンクする程の膨大な記憶量に、数日間寝込んだ。


私の前世は至って普通の女子高生。死因は事故死。

ゲーム好きで、その中でも乙女ゲームが大好きで良くプレイしていた。


私が転生した世界は、『マジックプリンス〜対立する2国〜』というタイトルの学園物乙女ゲームだ。

内容はルートルートでまちまちだが、とりあえず恋愛するというのは一緒だ。

そして、私はそのヒロイン、セシル・スミットに生まれ変わったのだ。


攻略対象は6人と隠しキャラが1人。


ローベルト・グラキエース

グラキエース王国の第2王子。

性格は品行方正な正統派王子様だ。

乙女ゲームには1人はいるタイプ。

腹黒じゃないのが少し物足りないけど。


ヴィルベルト・グラキエース

グラキエース王国の第1王子。

やる時はやるが、普段は女好きでチャラい。

様々な所から浮き名が出まくっている。

ゲーム画面ならいざ知らず、現実のチャラ男はどうにも忌避してしまうものがあるこの頃。


ヨハン・レイカールト

グラキエース王国、侯爵子息。

ゲームが始まる少し前に騎士団長の父が亡くなっている。次期騎士団長。

性格は、優しく兄貴肌。弟や妹が多いからだろう。

剣で守ってくれるシチュはやはり萌える。


パトリック・フォートリエ

ゲームでは開始直後にヴィルベルト殿下付きの執事に就任した。

この乙女ゲームのお色気担当はパトリックが担っていると言ってもいいほどエロいスチルが多い。

性格は腹黒。

そして何より、パトリックはフランメ王国の第1王子だ。

2人で王位奪還を始めるあのストーリーは最高だった。


ユリウス・ボスマン

グラキエース王国宰相の息子。

他人にも厳しく自分にも厳しい性格。

所謂ツンデレだ。最初はツンが多いが後半はデレッデレになる。

正直リアルツンデレも面倒臭いと思うこの頃だ。


レイナウト・ハーゼルゼット

グラキエース王国伯爵家子息。

魔法の神童と呼ばれている。

魔法を使わせれば、右に出る者はいない。

性格は寡黙で心を閉ざしている。

後半になるまで心を開かない。


そして隠しキャラ。

彼の名前は分からない。

私が隠しキャラを攻略出来ずに死んでしまったからだ。

ただ、ネタバレで見てしまい、彼のスチルは知っている。

キャラの中でも1番歳をとっているように見えたが、乙女ゲームらしく最っ高にイケメンだった。



出てくるキャラはこの7人だ。


乙女ゲームは学園の2年時から始まる。

私は逆ハーレムルートを目指し、1年の時から彼らと接触を持っていた。

そのせいで多少シナリオが早まったりした事はあったが、まあ些細なことだ。


それよりも、もっと厄介なことが起きた。


もう1人、異世界転移してきたとかいう女がこの世界にやってきたのだ。

目も髪も黒い、懐かしい色彩の彼女は何故か王城に住んでいた。

彼女がゲームのことを知っているのか、知らないのか。

それはその内彼女の行動でわかるだろう。

そう思っていた。


そして、ヴィルベルト殿下の舞踏会の夜。

攻略対象の1人であるヨハンと仲良さげに話していたのだ。

やっぱりこいつは黒だ。

攻略対象を狙っているに違いない。

ついカッとなり、パウラと名乗る彼女を連れて行く。

そしてこの世界は私のものだと説明し終えると、そこにパトリックが現れたのだ。


パトリックに会うのはこれが初めてで、心臓が高鳴った。

乙女ゲームと変わらぬその美しい白髪に艶やかな紫の瞳。


(あぁ、この人が私のモノになるのね。)


パトリックは私に気があるような笑顔を向ける。


(ヒロインだから出会った瞬間に恋に落ちてしまったのかしら?フフフ。)


つい調子に乗って、パトリックの抱える悩みを私なら救ってあげられると言うと、彼は困った顔でパウラを見た。


(この邪魔者がいないところで、また話したい。)


そう思いながら舞踏会の会場に戻ると、パトリックは私と舞踏会終了後に会いたいとこっそり言ってきたのだ。


願ってもない話。


期待に打ち震えていた私は、舞踏会終了後その場に行くことは無かった。



目が覚めると、私は寮のベッドにいた。

どういうことだとキョロキョロしていると、女騎士の1人が状況を説明してくれた。


なんと私はパトリックに命を狙われていたらしい。

これがヨハンなら邪魔してくれたなあの女となるのだが、あの腹黒で内通者のパトリックならありえない話でもない。


だがしかしその予測できないイベントに打ち勝ってのヒロイン。

結果的に邪魔されたことに違いは無い。


苛立つ気持ちを抑えながら、ローベルトにパウラとの会食を頼んだ。

あっさりと許可され、すぐに会食がセッティングされる。


会食でパトリックが今どうしているのかを尋ねる。

酷くパトリックに怯えた様子を見せながら、牢屋にいるだろうパトリックに面会を求めるというのが私の予定だ。

そして牢屋のパトリックの罪を許し、私に惚れさせればオールオッケー。


しかし、話されたパトリックの現状はかなり違った。パトリックはフランメで国王の補佐をしているという。

しかもパトリックが王子だとちゃっかり見抜かれていた。

いや、王位奪還したらしいので、見抜かれているのも当然、なのだろうが。


ではどうすればパトリックを振り向かせられるのか。思案している最中にあの女に名前を呼ばれた。


反射的に顔を前に向ける。


すると、そこにありえないものがあった。


紫色のネックレス。


それは、隠しキャラがスチルでつけていたネックレスだ。


(なんで……コイツが。)


「あの、パウラ様。その、ネックレスは…?」


「あぁ、今日知り合いに貰いまして。折角なので着けて参りました。」


(知り合い?既に隠しキャラと知り合いだって言うの?やっぱり、コイツも逆ハールートを狙ってるのね…!)


「セシルは、ああいう色が好みなのか?」


こちらが内心焦っていることも知らず、ローベルトは首を傾げた。


「いえ、そういう訳では、ただ、それは…。」


それは、隠しキャラの物だ。

とは言えず、私は言葉に詰まる。


「?」


「……なんでもありません。失礼致しました。」


話を終わらした後、他愛のない話を続け食事は終わった。

後はコイツを見送るだけ。

攻略対象が大勢いるこの魔法学園に彼女を置いておきたくなかった。早く帰って欲しい。


そんな思いで廊下を歩いていると、ヨハンが現れた。

ヨハンは引っかかる言葉を口にする。


「あ、パウラ、フランメの兵を薙ぎ払ったと思ったら、今度はフランメの王を引きずり下ろしたんだって?凄すぎて、口が開いたまま閉まらなくなるかと思ったよ。」


(兵を薙ぎ払う?)


フランメ国王の件は上手くパトリックに取り入ったのかもしれないが、兵を薙ぎ払うとはどういうことだろうか。

ヨハンの言葉に私は首を傾げた。


「えっと、良いのか、ローベルト?」


躊躇い気味にヨハンはパトリックを見る。


「まあ、こうして関わればいつかは耳に入るだろうし、仕方ない。」


「血なまぐさい話なんだけど、こいつがこないだのフランメの数千の兵を倒したその人なんだよ。」


「……!」


(こいつが数千の兵を??)


「そうだったのですね…。存じ上げませんでした。パウラ様はお強いのですね。素敵です。」


(チート能力!!)


異世界転移や転生にはチート能力が付き物だ。

私は持っていないが、この乙女ゲームの記憶こそがチートだと自負していた。

ところが彼女は乙女ゲームの記憶だけでなく、チート能力まで持っているなんて。


引き攣る頬でなんとかにこりと微笑む。


(どうすれば、勝てる??)


そんなことを考えているとあの女の頭にヨハンの大きな手が乗せられた。

そして2人にしかわからないようなやり取りをしている。


腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい腹立たしい。


つい睨んでしまったのも仕方がない。

特にヨハンは私の推しキャラだ。

推しが自分以外とイチャコラしてるなど言語道断。


(どちらがヒロインか、教えてあげなくちゃね。)


そう思い、私はヨハンのあの女と話したいという言葉を肯定したのだった。



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